*第26話 奇妙な果実
ハイラムの広大な密林の傘の下を、網の目の様に無数の川が走る。
町から町へは船に乗って行く。
「このヤンギーリ川はハイラムで一番長く、大きな川ざぁます。
西の国境デンデス山脈が源流ざますのよ。」
初めてハイラムを訪れたシオンにヒバリーヌがガイド役をして呉れている。
今日は密林クルーズだ!
「わいはぁ!奇麗な鳥だなやぁ!」
「極楽鳥ざますわね。」
「でったら猫だべな!」
「ヒョウざぁます。」
「な、な、なんじゃぁ?あでばぁ!」
「ワニざます。」
観るもの全てが珍しい。
支流に入ると、より一層に濃密な空気が漂う。
花や樹木の匂いが肺に充満する。
何所に視線を移しても何某かの生き物がそこに居る。
「あぁ、あそこにデコンジョウガエルが居ますわよ。おととい食べたでしょう?」
エルサーシアが指差す岸辺に赤黒の斑模様をした、
食用とは思えないカエルがいる。
子牛が蹲っているのかと思う程に大きい。
忘れてたのにぃ~
紫の舌がベロォ~~~ンって
「うっぷ!」
吐いてはならぬ!
ド根性でやんすっ!
やがて視界が開けると小さな湖に出た。
岸に船を着けて地面に降り立つ。
ここで昼食を摂るのだろう。
肉は要注意だ!
なるべく鳥か哺乳類にして欲しい。
魚なら安心だ。
せめて何の肉か分からない様にしてくれ!
などと思いつつ周りの景色を楽しんでいると、
ふと対岸の木に目が留まった。
「んにゃ?」
これまた随分と変わった木が在るもんだ。
それほど高くは無いが、枝から蔓が下りた先に長細い大きな実が四個。
ブラブラと垂れている。
!
違う!
あれは・・・
「うわっ!うわぁ~!」
腰が抜けた~
「何?どうしたの?シオン」
リコアリーゼが駆け寄る。
「ひ、人が~あすこに~」
尻もちをつきながら指を差す。
パンツが丸見えだ!
「ん?まぁ、本当ですわ。」
「ごにょごにょ?」
「パンツ!シオンのパンツ!」
お前は何所を見ている?サラーラ・・・
「首吊りですわ!お母様!お母様~!」
「なんですの?アリーゼ?」
「お母様、ほらあれですわ。」
「まぁ!あんな所で首を吊るなんて邪魔ですわね。」
「サ、サーシア!駄目ざます!生きてるざます!」
魔法弾で吹き飛ばそうとするエルサーシアを
ヒバリーヌが慌てて止めた。
「あれは最近はやりの”首吊り健康法”ざますわ。」
なんでも腰痛治療で専用のバンドを使い首を固定して、
体ごと吊り下げるのが流行しているそうだ。
気持ちよくてそのまま寝てしまうらしい。
事件では無かった。
紛らわしいっ!
従者が飛んで行き邪魔だから立ち去る様にと言っている。
最初こそ文句を返していた様だが、急にペコペコと頭を下げて帰って行った。
王族と聖女の一行だと聞かされたのだろう。
「たまげただぁ~」
今日一番の驚きだ。
ほっとしたらお腹が空いた。
もう何の肉でも平気な気がして来た。
お昼は楽しいバーべキューだ!
どんどん焼いて!
がんがん食べよう!
「こでは美味ぇなぁ!何の肉だべが?」
何んでわざわざ聞く?
「あぁ、これざます。」
でっかいクモが箱の中に居た。
「おぉぉぉえぇぇぇ~~~」
エルサーシアが吐いた!




