*第24話 シオンの仁義
漆黒の扉に純金の代紋が嵌め込まれている。
両脇には、これまた上から下まで真っ黒な、いかつい顔の衛兵が立っている。
大丈夫だ!
何度も何度も練習した!
「ハイラムでは初対面の仁義がとても重要ですの。
これが上手く出来たら、大切な客人として
最上級のお持て成しをして下さいますのよ。」
「失敗すたらどんだべが?」
「落とし前を付ける事になるわね。」
「お!落とし前!」
聖女一家とハイラム王家は親戚筋に当たる。
それなりに交流があるので詫び状程度で済むだろうが、
シオンに対する扱いが悪くなると言うのだ。
それは構わないが大聖女様に恥を搔かせる訳にはいかない。
よしっ!
肚を括って行くぞっ!!
グワッ!と分厚い扉が開かれて、一直線に伸びた黒い絨毯が視界に入る。
その端に玉座が在るが、それには座らず、王は立ち上がって客人の仁義を受ける。
まずは入口で訪問を告げる。
ドド~ンド~ン!
「御免下さりなされませ~どなた様も御無礼、御容赦願いまする~」
ド~ンド~ン!
「お入りなされ~お入りなされ~」
ド~ンド~ン!
「失礼様に~御座んす~」
ド~ンド~ン!
「近こうに~近こうに~」
ド~ンド~ン!
ずずっと前に進み、中ほどで止まる。
グッと腰を落とし、掌を返して腕を広げる。
そして仁義を切る!
「有難う様に御座んす~お控ひけぇなさって~お控ぇなさって~」
ド~ンド~ン!
「申しませ~申しませ~」
ドド~ンド~ン!
「ハイラム国王クロビー陛下とお見受け致しまする~」
ドド~ンド~ン!
「如何にも~
クロビーで~あ~~~る!」
ドド~ンドド~ンドド~ン!
「お初にお目通り叶いまする~
手前生国はコイント~
南にラーアギル山脈を望み~
ウーグスの谷に生まれし者にて~
舞姫ケイコールの娘ぇ~
縁あってレイサン家の門を潜くぐりぃ~
夢の聖女リコアリーゼ様の侍女と成りて~
姓はカモミ~
名をシオンと名乗りし者にてぇ~御座んす~
向後万端宜よろしきの計らい~
御願申し上げまする~~~」
ドンドンドンドン!
ドドォ~~~~~ン!
「お客人!お見事ざんす!」
「恐れ入りまして御座んす!」
出来たぁ~~~
「さすがサーシアの見込んだ娘ざますわね。」
王妃パオパールがエルサーシアに耳打ちする。
「有難う御座いますわ、パール姉さん。」
「サーシアが初めて来た時と同じ歳ざんすねぇ。」
若頭のシシーオンが昔を懐かしむ。
「そうでしたわねぇ~」
そしてあの事件が起こり、戦乱の世へと時代は動き出した。
「サーシアはもっと偉そうざましたわ。」
お嬢のヒバリーヌが揶揄う。
今は大臣夫人となっている。
「あらそうかしら?」
あの時は、もし失敗したら証拠を隠滅する為に、
目撃者の全員を皆殺しにするつもりだった。
そこそこ本気だった。
******
盛大な晩餐会だ。
どのテーブルにも山盛りの果物とこんがり焼けた肉の塊がドデンッ!と
載せられている。
酒が進むに連れて大騒ぎになった。
酒樽を抱え上げて行水の様に浴びる。
ふんどし一丁で相撲を取る。
シオンの元にも入れ替わりに若衆がやって来ては、
自慢の入れ墨を披露する。
鋭い牙をむき出した獣や、色とりどりの花や、
エルサーシアをモデルにした聖女の入れ墨もある。
そろばんをシャカシャカ鳴らしながら、
ハイラム伝統の余興が始まる。
「あんたのお名前なんざんす?♪」
「シオン・カモミと言うだべさ~♪」
「エライコッチャ♪エライコッチャ♪
ヨイヨイヨォ~~~イ♪」
愉快な人達だ。
久し振りに大声で笑った。
それにしても美味い肉だ。
歯ごたえがまた良い!
何の肉だろう?
ルルナ様はずっと野菜と果物ばかり食べているな。
へんだな?肉は大好きな筈なのに?
お城ではバクバク食べているのに。
「なすて肉さ食ねだが?ルルナ様。」
「だって、あれの肉だから。」
ルルナの指さす方に視線を投げると。
在った・・・
巨大なカエルの頭が!
ベロ~~~ンと舌がはみ出ている。
「おぉえぇぇぇ~~~」
ハイラムは両生類の楽園でもある。




