*第23話 慰安旅行
精霊院では通常の場合、各期末に10日間の合宿を行う。
週に3日しかない授業を補うためだ。
しかし総本山では普段のスケジュールで充分なので、
逆に10日間の休校日としている。
「ハイラムへ行きますわよ!」
突然にエルサーシアが家族旅行を宣言した。
提案ではない、決定したのだ。
「またそんな!仕事はどうするのですか!」
ルルナが怒るのも当然だ。
提案書、陳情書、稟議書、予算計画書、等等等、
エルサーシアの決済を待つ書類が山積みである。
「シモーヌに代理を任せますわ。」
「え?ウチがしますのん?」
「どうしても必要な案件は催促して来るでしょう?
その書類にハンコを押せば良いのよ。」
「内容は宜しおますのん?ウチ見ても分かりませんよ?」
「えぇ、良いのよ。私も分からないから。」
随分と乱暴だが、それが普段のエルサーシアの仕事のやり方だ。
しびれを切らした相手が取りに来たら承認印を押して渡す。
それまでは何もしない。
内容を精査し検討するなどした事が無い。
仕事か?
「誰にでも出来る簡単な仕事よ!」
それは違うぞ!
「そうですかぁ~!ほなやっときますわ~!」
違うぞ~~~!
「はぁ~~~もう、我儘なんですからぁ~」
結局はルルナも甘やかしている。
シオンの心理状態が安定するまで社交の類は控える事にした。
ミラームにも暫くはそっとしておくようにと通達した。
そしてハイラム旅行である。
気晴らしに密林クル~ズをしよう!
ついでにクリステルとケーンサンの墓参りだ。
二人仲良く並んでいる。
クリステルはエルサーシアの曾祖母で、
ケーンサンはその恋人だ。
引き裂かれた初恋が年を経て再び巡り会い余生を穏やかに過ごした。
色鮮やかな動植物や豊富な果物。
何が入っているか分からないサプライズな食事。
気分転換には持ってこいだ。
「さすがお母様ですわ!」
「ハイラムは4年振りですわね。」
「私はよく覚えていませんわ。」
「サラーラは2歳でしたものね。」
「どったら所だべが?」
「虫と爬虫類の天国よ!」
「・・・地獄でねが?」
「シオンはクロビー陛下とは初対面ですわね。」
そりゃそうだ。
「お、王様さ会うだべが?」
聖女の身内として同行するのだから挨拶は当然だろう。
「あれを致しますのね・・・」
「そうなりますわね・・・」
「それだけは覚えていますわ・・・」
「な、何するだべが?」
「特訓ですわね。」
「えぇ特訓ですわ。」
「ですわ。」
ハイラムは仁義にうるさいお国柄。




