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大聖女エルサーシアの遺言~後編  作者: おじむ
第三章 恋だべが?

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21/99

*第21話 消えぬ想い

精霊教総本山に隣接するトナリン開発区。

各国の領事館や商館が立ち並び、年々賑わいが増している。


その一つ、カーラン王国領事館では

今宵こよい、ミラーム王子主催の舞踏会が開かれている。


「ミラーム王子殿下!シオン・カモミ嬢!ご入場で御座います!」

コールマン役の参事官さんじかんが声高に告げると、

会場の視線は一点に集中した。


「緊張せずとも良い、内輪だけの会だ。」

「ん、んだす・・・」


無理だびょぉ~~~ん

顔が引きつる~~~

視線が怖い~~~


真冬でさえ昼間は薄着でも良いくらいのムーランティス。

あと2週間すれば陽節ともなると汗がにじむ。

夕暮れの風が熱冷ましに心地よい。


当然の事ながらルルナ特製のドレスも肌の露出が多い。

肩は丸出しだし、胸元は寄せて上げてのウコール仕様。

輝くネックレスが嫌でも視線を誘う。


「とても素敵よ!自信を持ちなさいな。」

リコアリーゼが背中に手を当てて励ます。

手袋越しの、それでも伝わる暖かい体温に少し肩の力が抜ける。


後見人代理としてリコアリーゼも同席している。

エスコートは当然にアイシュタ王子だ。

クマさんだ・・・


ずんぐりとした体形に細いタレ目。

開いているのか?

それとも閉じているのか?

まったく判らない。


まばたき無用だな。


何度見てもアンバランスだなぁ~

エルサーシア様もそうだけれど、

この親子はイケメンに恨みでもあるのか?


さぁ!いよいよ最初の曲が始まる。

初心者向けのゆったりとしたワルツだ。

みっちり練習した。


「シオンに恥をかかせたら承知しませんわよ。」

エルサーシアから直々に脅されて、ミラームは震えあがった。

毎日の様にお昼休みは一緒に踊った。


満を持してのお披露目である。


ガチガチに硬くなっていたシオンだが、元々は舞子である。

曲に合わせて体を動かしていると楽しさが込み上げて来る。


谷の演舞場での初舞台は7歳の時。

つたなくも可愛らしい舞に観客は惜しみない拍手を呉れた。

その中にはジャンゴも居た。


大勢の観客の中で彼の姿だけが浮かんで見えた。

あの時にはもう恋をしていたのだろう。


「えがったでやぁ!シオンさ精霊みてぇだべさ!」

楽屋に花束を抱えて来て呉れた彼の言葉が、他の何よりも嬉しかった。


あぁ・・・

何で今更こんな事を思い出すのだろう。

幸せな記憶の全てに痛々しい傷跡が付いている。


「どうしたのだ?体調がすぐれぬのか?」

ミラームが気遣って呉れている。

「えやぁ大丈夫だぁ~」

にっこりと笑って答える。


一曲目が終わって窓際のソファーに座っていると、たちまち御婦人達に囲まれた。

口々にミラームを褒め讃える。


「殿下にお見染めして頂くなんて羨ましいですわ!」

「カーランは宝石の産地ですのよ!」

容姿端麗ようしたんれい眉目秀麗びもくしゅうれい頭脳明晰ずのうめいせき辛口一献からくちいっこん


ん?

一瞬、酒の香りがしたような?


確かにこの人達の言う通りかも知れない。

王子様と結ばれて、華やかな世界で暮らす。

誰もが夢に見る幸せ。

大勢の者達にかしずかれ、栄耀栄華えいようえいがの花園を歩く。


けれど・・・

何故だろう?


道端に咲く花を髪に飾り、坂道に彼の姿が現れるのを待っていた、

あの日々が愛おしい。


谷に帰りたい・・・


「まぁ!シオンどうしたの?」

「んにゃ?」


不意にリコアリーゼに肩を抱かれた。

心配そうに顔を覗き込んでいる。

挿絵(By みてみん)


「な、何だべが?」

「どうして泣いているの?何所か痛いのかしら?」


「え?オラ泣ちょるだべが?」

まったく気が付かなかった。

なるほど、視界がぼやけている。


「う、ううう~~~」

意識すると余計に止まらない。

肩が震える。


「具合が悪いようですわね。殿下、これにておいとまを致しますわ。」

「うむ、そのようだね。後の事は気にせず体をいたわるが良いぞ。」


違うのだミラーム。

いやさねばならぬのは心だ。


帰りの馬車の中でも泣き通しだった。

もう谷には帰る場所など無い。




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