*第21話 消えぬ想い
精霊教総本山に隣接するトナリン開発区。
各国の領事館や商館が立ち並び、年々賑わいが増している。
その一つ、カーラン王国領事館では
今宵、ミラーム王子主催の舞踏会が開かれている。
「ミラーム王子殿下!シオン・カモミ嬢!ご入場で御座います!」
コールマン役の参事官が声高に告げると、
会場の視線は一点に集中した。
「緊張せずとも良い、内輪だけの会だ。」
「ん、んだす・・・」
無理だびょぉ~~~ん
顔が引きつる~~~
視線が怖い~~~
真冬でさえ昼間は薄着でも良いくらいのムーランティス。
あと2週間すれば陽節ともなると汗が滲む。
夕暮れの風が熱冷ましに心地よい。
当然の事ながらルルナ特製のドレスも肌の露出が多い。
肩は丸出しだし、胸元は寄せて上げてのウコール仕様。
輝くネックレスが嫌でも視線を誘う。
「とても素敵よ!自信を持ちなさいな。」
リコアリーゼが背中に手を当てて励ます。
手袋越しの、それでも伝わる暖かい体温に少し肩の力が抜ける。
後見人代理としてリコアリーゼも同席している。
エスコートは当然にアイシュタ王子だ。
クマさんだ・・・
ずんぐりとした体形に細いタレ目。
開いているのか?
それとも閉じているのか?
まったく判らない。
瞬き無用だな。
何度見てもアンバランスだなぁ~
エルサーシア様もそうだけれど、
この親子はイケメンに恨みでもあるのか?
さぁ!いよいよ最初の曲が始まる。
初心者向けのゆったりとしたワルツだ。
みっちり練習した。
「シオンに恥をかかせたら承知しませんわよ。」
エルサーシアから直々に脅されて、ミラームは震えあがった。
毎日の様にお昼休みは一緒に踊った。
満を持してのお披露目である。
ガチガチに硬くなっていたシオンだが、元々は舞子である。
曲に合わせて体を動かしていると楽しさが込み上げて来る。
谷の演舞場での初舞台は7歳の時。
拙くも可愛らしい舞に観客は惜しみない拍手を呉れた。
その中にはジャンゴも居た。
大勢の観客の中で彼の姿だけが浮かんで見えた。
あの時にはもう恋をしていたのだろう。
「えがったでやぁ!シオンさ精霊みてぇだべさ!」
楽屋に花束を抱えて来て呉れた彼の言葉が、他の何よりも嬉しかった。
あぁ・・・
何で今更こんな事を思い出すのだろう。
幸せな記憶の全てに痛々しい傷跡が付いている。
「どうしたのだ?体調が優れぬのか?」
ミラームが気遣って呉れている。
「えやぁ大丈夫だぁ~」
にっこりと笑って答える。
一曲目が終わって窓際のソファーに座っていると、たちまち御婦人達に囲まれた。
口々にミラームを褒め讃える。
「殿下にお見染めして頂くなんて羨ましいですわ!」
「カーランは宝石の産地ですのよ!」
「容姿端麗、眉目秀麗、頭脳明晰、辛口一献」
ん?
一瞬、酒の香りがしたような?
確かにこの人達の言う通りかも知れない。
王子様と結ばれて、華やかな世界で暮らす。
誰もが夢に見る幸せ。
大勢の者達に傅かれ、栄耀栄華の花園を歩く。
けれど・・・
何故だろう?
道端に咲く花を髪に飾り、坂道に彼の姿が現れるのを待っていた、
あの日々が愛おしい。
谷に帰りたい・・・
「まぁ!シオンどうしたの?」
「んにゃ?」
不意にリコアリーゼに肩を抱かれた。
心配そうに顔を覗き込んでいる。
「な、何だべが?」
「どうして泣いているの?何所か痛いのかしら?」
「え?オラ泣ちょるだべが?」
まったく気が付かなかった。
なるほど、視界がぼやけている。
「う、ううう~~~」
意識すると余計に止まらない。
肩が震える。
「具合が悪いようですわね。殿下、これにてお暇を致しますわ。」
「うむ、そのようだね。後の事は気にせず体を労わるが良いぞ。」
違うのだミラーム。
癒さねばならぬのは心だ。
帰りの馬車の中でも泣き通しだった。
もう谷には帰る場所など無い。




