*第19話 家庭教師のツライ
各国に在る精霊院での授業は、週のうちに3日間となっている。
ちなみに1週間は10日である。
初級の特殊魔法を学び、一般精霊師の資格を所得する。
上流階級では必須の資格だ。
しかし総本山精霊院では前半で3日間、
1日の休みを挟んで後半に4日間の授業が有る。
一般精霊師の規格が改定された為だ。
1種と2種に分類され、
1種はこれまで通りに初級特殊魔法だけを学ぶ。
2種では更に中級の特殊魔法が追加された。
総本山では2種の所得を目的とする。
大陸中央の孤立地域に在る為、敷地内に学生寮が在るが、
利用するのは下級貴族と商家の子息女達だ。
王族や高位貴族の者は隣接する開発区に、
各国が領事館を設置しており、そこから通う。
授業内容が高度になると、生徒の苦労も増す。
放課後も予習復習に勤しむ。
開発区にはその為の塾も開業しており、
大いに繁盛している。
王族や高位貴族は家庭教師を雇うが、
優秀な講師の取り合いとなっている。
3年後には鉄道路線が延長される予定だ。
それを見越して資本投下が盛んになっている。
大きな街になるだろう。
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「『アフリカ象が好き!』」
「あ、あふぃ~りゅいくゎずおぅぎゃしゅうきゅい~」
「舌を巻かないっ!はい、もう一度!
『アフリカ象が好き!』」
「あ、あ、あふ~りくゎ~じょぅ~ぐゎ~」
シオンはルルナから精霊言語の特訓を受けていた。
要するに日本語教室である。
聖女あるいは特級精霊からネイティブな日本語を教わる。
これこそが”聖女の秘術”なのだ。
この世界の人にとって日本語の発音は極めて難しい。
ベタ~っとした平坦な発音が出来ないのだ。
人型精霊と契約し聖人と成る為には、
デーブ・スペクトルくらいには流暢な
日本語を話せなくてはならない。
親父ギャグが使いこなせれば一人前だ。
教材はエルサーシア特製の教科書で、
英雄四天王もそれで日本語を習得した。
「調子は如何かしら?」
リコアリーゼが様子を伺いに来た。
「えんやぁ、むんずがすだぁ。」
「ふふっ、そのうち慣れるわ。
『タリラリランの』?」
「『コニャニャチワ~』」
「まぁ!上手よ!」
「えへへへへへ」
なんだこれ・・・
ルルナはこの教科書が不満だった。
内容が下らないのだ。
ギャグマンガのセリフだったり、下ネタの連発だったり、
とにかく品が無い。
ところが不思議な事に、この教科書が実に有効的なのだ。
以前にルルナが作った教科書に変えたら、ガクッと効率が落ちてしまった。
何故だっ!!
「こんなの納得できません!」
「ふんっ!結果が全てよっ!」
ルルナの本体である観念世界に分析を依頼したが、
結果は”解析不能”であった。
そんな事があるのか?
英知の極みである筈の存在でも解らないとは・・・
しかし事実である。
受け入れるしかない。
不本意ではあるが使わざるを得ない。
この品性下劣な教科書を・・・
「はい、次のページを開いて!
『パイオツ・カイデー、ビーチク・ロークー』」
「ぴゅあいおとぅ・くぁいでぃ~
びゅ~てぃくぅ・るぉうきゅぅ~」
「『パ!イ!オ!ツ!』」
「ぴゅあ!ぴゅあ!」
「『パ!』」
「ぷぁ!」
あぁ・・・ツライ・・・




