*第17話 無理だびょん!
式典が終わり、シオンは割り当てられた教室へと移動していた。
リコアリーゼとは別のクラスになった。
午後からは担任の講師が院内を案内して呉れるそうだ。
それまでは自由時間なので、自己紹介などをするようにと言われた。
「失礼いたします、シオン・カモミ様ですね?」
「んだす?」
誰だろう?
奇麗なお姉さんだな、職員さんかな?
「我が主が、貴方様にお話があると申しております。」
違った、誰かの侍女さんらしい。
「オラに?」
「はい、どうぞこちらへ。」
そう言うと侍女は渡り廊下から少し外れた先の小さなガゼボへと先導する。
人影がある。
同じくらいの年頃の男子だ。
立派な身なりをしている。
高位貴族だろうか?
「呼び立てて済まないね、私はミラーム・カーランだ。」
「はぁ、オラさシオンだべさ。」
「シオン様、こちらのお方はカーラン王国
第三王子殿下であらせられます。」
この平民がと思いながらネフェルは告げる。
本来ならお前ごときが口を利ける相手では無いのだと。
「わいはぁ!王子様だべが!」
王族なんて初めて見た!
本当に居るんだなぁ~
で?
何で私が?
当然シオンには全く心当たりが無い。
言いがかりでも付けられたら嫌だなぁ~
とつい身構えてしまう。
「怖がらなくても良い。其方に頼みが有るのだ。」
長い睫毛が愁いを帯びた瞳を飾り、
艶めいた唇が妖しくも美しい。
吸い込まれそうだ・・・
「な、何だべが?」
頼み事なんてされても、私なんかに出来る事など無いだろうに。
「私の妃に成って欲しいのだ。」
ん?キサキ?
友達の事か?
それくらいの事で大げさだなぁ。
王族ってそうなのかな?
まさか求婚されているとは思いもしないので、
シオンはそれが”お妃様”の”キサキ”だと気付かなかった。
疑問符に目鼻が付いた様な表情のシオンに、
業を煮やしたネフェルが言葉を重ねる。
「殿下と婚姻を結び、国母と成って頂きたいと仰せで御座います。」
あぁ・・・
その言葉を私に頂けたらどんなに幸せだろうかと
ネフェルは胸の奥で泣いた。
「ヨメゴさ成れっでが!!」
その”キサキ”かっ!
響き渡る程の大声が出た。
そりゃそうだ、吃驚もする。
「あ、あぁその通りだよ。」
声の大きさにミラームは怯んでしまった。
「そったごと無理だびょん!」
これだから貴族は嫌いなのだ!
いや聖女様達は別だ。
あの方達は大好きだ。
でも他の奴らは嫌いだ。
この人は王族だけど似たようなものだ。
いきなりヨメに成れだなんて、馬鹿にしているのか?
「急な話で戸惑うのも無理は無い。
だが私には其方が必要なのだ。
決して粗末にはせぬ。
大切にする故、承諾しては呉れぬか?」
心が揺らいでしまった・・・
だって美少年だもの・・・
「せ、聖女ん様さ聞がねだばまいねし。」
「左様であるか、ふむ、あい分かった。
此方からも聖女様に申し入れよう。
良き返答を期待する。」
そこからは終日ぼぉ~っとしていた。
午後からのオリエンテーションも記憶に無い。
城に戻ってからはエルサーシア親子のやり取りをぼんやりと眺めていた。
「で?どうでしたの?シオン。」
そう聞かれて思い出した。
そうだ!
エルサーシア様に相談しなければ!
************
シオンの話を聞いたエルサーシアは
御庭衆頭のマイクを呼び調査を命じた。
マイクはシモーヌの夫である。
当面は様子見をする事にした。
「どう思いますの?お姉様。」
「裏がありますわね。」
「シオンが心配ですわ。」
今は三姉妹会議の真っ最中である。
「明日、私が会って話を聞きますわ!」
リコアリーゼはお節介焼きだ。
その頃シオンは自室の中をぐるぐると徘徊していた。
「オラが王子様さヨメゴ?
えやえやえや、無理だびょん。
んだばて必要だぁって・・・
えやえやえや、まいねまいね。
奇麗がんだなやぁ王子様・・・
大切さすて呉れるべが・・・
えやえやえや、無理だびょん。
無理だびょん、無理だびょん。」
真っ赤な顔でびょんびょんするシオンであった。




