夜明け
「小話ーアジムステップにて」
心地いい。
わたしは今アジムステップに来ている。モル族のみんなに挨拶をして、サドゥやマグナイのところへ顔を出した後に、明けの玉座で夜空や草原を見るのが、ここにくるときのルーティンになっていた。
前にマグナイから「太陽の子であり、長兄たる余輩がなぜ最後か」と小言を言われたことがあるが、トリであることは大変重要だと説明したら、だいぶ機嫌が良くなったことを覚えている。今日サドゥにその話をしたら、ケラケラと笑っていたが「アイツにトリは似合わねぇ!次顔出す時は俺のところへ最後来い。」と言われてしまった。……またケンカの火種になりそうだな、と思い出し笑いをする。
いつもそんなやり取りを見て苦笑いをしているシーアンは今日、横にはいない。
夢が長引いているのだ。
少し前までこの世界で起きていたことは、この世の絶望、負の感情による災害。彼女はそれを今超える力で追体験しているためか、最近はクルルやシュトラ曰くエーテルに強いゆらぎが見えるらしい。もちろん、命に別状はないとのことだが、暁のみんなにすら見せていないあの絶望の最期の戦いが近づいてると思うと、自分のこととは言え心配になる。
彼女の横で目が覚めるのを待ちたかったが、絶望の影響を強く受けてしまった偽神獣が出たと聞いて久々にひんがしの国まで足を運ぶことになったのだ。それも落ち着きを見せたので、久方ぶりにアジムの地のみんなに会ってから帰ろうと立ち寄ったのだ。
玉座から眺める夜空と、どこからが聞こえるアジムの民謡とそれを運ぶ風に身を任せて目を閉じる。
今回の旅で、様々な絶望に触れた。人々の思い……古代人の思い……デュナミスに触れた。彼女は、どう感じたのだろうか。早く会いたい。話したい。だって彼女が目が覚めてから、彼女が横にいてくれることが、本当の、わたしにとっての……。
わたしは勢いよく立ち上がり、エスゲンからもらっていたゼラスープを飲み干す。そしてその足で煮炊きをしている彼にスープのレシピを聞きに行く。彼女に作ってあげようと思ったのだ。長い眠りの後、目覚めたらきっとお腹がすいてるだろうから。