97 市中の噂 4
「皇太子妃殿下……ご存知でして?」
夜会が開かれた数日後、侍女達が何やら朝から落ちつかない。
「どうしたのです?朝から落ちつきのない。」
皇太子夫妻付きの侍女であるから行儀も作法も一流の侍女たちばかりだ。が、ソワソワと主人に指摘される様な粗相をおかすとは……
「それが、私達も護衛を付けてガーナード城下へ参りますでしょう?」
ハンガ国に対するガーナード国民の心象が良くないのはよく分かっている。なので、必ず城下へと出る侍女達には騎士の護衛がつくのだ。
「ええ、それで?」
朝のお茶を頂きながら、ハンガ国皇太子妃サーランは侍女達の話に耳を傾ける。
「はい。それが、市中ではある噂で持ちきりでして…きっと、もう皇太子様のお耳にも入っているとは思うのですが…」
「なんと…?」
「はい…絶大な力ある聖女殿がこの城下に居られるとかなんとか…」
「聖女殿が?」
「はい!物凄い力との噂に持ちきりでして…」
「それはどんな力です?」
「聞き耳を立てていたものですから、細かい所までは聞き取れませんでしたわ…まだガーナード国の国民は私達とは口を聞いてはくださいませんでしょうから…」
「……そう………きっと、殿下のお耳には入っているでしょうね…殿下は?もうお目覚めに?」
「はい。先程、寝台からお出になられた様です。」
「わかりました。伺います。」
手早く身支度を済ませると、皇太子妃サーランは皇太子オレオンの寝室へと足を運んだ。
「おはようございます。殿下。お目覚めでしょうか?」
「おはよう、サーラン。どうしたんだい?こんなに早くから?」
皇太子オレオンは既に簡単に身支度を整えており、何やら執務机の上にある書類に目を通していた。
「まぁ、お仕事中でしたか?」
「いや、構わないよ?サーラン、朝食を一緒にどうだい?」
急ぎの仕事ではない様なのだが、皇太子オレオンは書類から目を離す事なく皇太子妃サーランに受け答えする。
「…ご一緒致しますわ。」
すぐ様用意された朝食の席に着いても、次々に届けられる書類にばかり目を通しており、皇太子オレオンは目の前に妻がいる事を忘れてしまっているかの様だ。
「殿下?先程からのそちらの書状は何ですの?」
「あ、これかい?ふふ…凄いんだよ!サーラン!見てみて!」
書状はどうやら聖女に纏わる報告書の様で、何名もの者達の、聖女との出会いと助けてもらった時の記録が事細かに書かれていた…ただし、聖女がどこにいるかと言うことが書かれていない。それを一番知りたいのだが、どの者も聖女と出会った場所がどこだか分からないと同じ答えだったのである。
そして、その聖女が使った力と言うのが、死者の蘇りであった……
「まさか……そんな事が……?」




