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89 執拗な憧れ 2

「ケリア?どうしたんだい?気分を悪くさせてしまったかな?」


 第一側妃ケリアはちょうど20歳になる。皇太子妃サーランと同じくハンガ国の高位貴族侯爵家の出だ。第一側妃ケリアは普段から自分から積極的に社交を取ろうとはして来なかった。皇太子妃主催で茶会が催される時などには出席はするが、自分からは位の下に当たる第二側妃であるハウアラを招待した事はない。第二側妃ハウアラとは規律や礼儀を重んじる方なんだという事が辛うじてわかる程度の付き合いしかして来なかった。


「いいえ、そうではありません。」


 滑らかな黒髪と灰の瞳…不思議な雰囲気を漂わせている様な第一側妃ケリア。言葉数は多くはないが今夜はしっかりと発言してきた。


「ケリア。どうしたと言うのです?」


 いつもただ大人しく、無難に過ごしてきた様な彼女としては、国王夫妻がいる様なこの席で発言する事自体が珍しく、皇太子妃サーランも疑問に思う。


「私は皇太子殿下が第三側妃を聖女から選ばれるのには反対でございます。」


「思慮深い君の事だからヤキモチではないね?」


「はい。違います、殿下。」


「それでは何故、側妃の立場で反対など口にしたのか?」


 国王も疑問の様だ。


「………ガーナード国と第二側妃ハウアラ妃の胸中を慮ってですわ…陛下…」


 ハンガ国はガーナード国に対しては不意打ち同然の内乱に手を貸し、聖女達を半ば強制的にハンガへと()()している現況から、これ以上はガーナード国とその周辺国家を刺激しない方が良いと考えてのことだった。第二側妃ハウアラにとってもまだまだ心の整理がつきそうにもないだろう。


「…なるほど!流石はケリアだ!でも、私は側妃が欲しいのではないよ?折角いらして下さった聖女方に挨拶もないなど、失礼極まりないだろう?」


「まぁ、それもそうですわね?でしたら殿下。私もご一緒致します。お客様をお迎えするならば夫妻揃っての方が良いと思いますの。」


 皇太子妃が優雅に立ち上がると侍女がその後を付き従う。


「それもそうだ。今夜は私の気持ちばかりが急いてしまったな…では、皇太子妃サーラン、お手をどうぞ?」


「お供いたします。」


 側から見ると、なんとも微笑ましいお二人の姿。国王夫妻もニコニコと息子夫婦が安泰であるかの様に満足気だ。そんな二人の姿を冷静にやや冷ややかな瞳で第一側妃ケリアは見送る。第二側妃ハウアラは表情こそ崩さなかったが、揺れる瞳の奥には例えようもない不安の色が濃く浮かんでいた。


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