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87 聖女狩り

 ガラガラガラガラ…ガラガラガラ……


 ハンガ国へと続く大通りにはここ数日ひっきりなしに騎士に護衛されたガーナード王城の馬車が行き来する。


 先日、聖女たる貴族の令嬢宛に()()()()()()からの書状が一斉に届いた。


 ハンガ国へと赴き、歴史や文化、国民性などハンガ国の風土に触れ合う機会を設けたい、と言う趣旨のものだ。


「何が、()()か……!」


 手紙を受け取った貴族の中には、城の中で何が行われ、王がどうなったかを知る者もいる。自分と家族の命、領地を護る為には今は見て見ぬ振りをしてはいるが、腹立たしくて口惜しくて、貰った書状をその場で破り捨ててしまった者もいたそうだ。


「行かなければ、成らないのですね?」


 聖女、と判定された全ての貴族の令嬢達が対象のため、まだ年端もいかない少女や幼女もいる。子供を愛する母が、正義感溢れる貴族の子息が、自分達の大切な家族を連れていかせてはなるものかといきり立つのも無理はない。

 出発が決められた日に、屋敷の玄関ホールで泣く泣く別れを惜しむ親子を無理やり引き裂いた、とハンガ国に対する不平も聞かれる様になって来た。

 また、この様に聖女をお連れするのは迎える側の国の務め、と理解に苦しむ理屈をつけてハンガ国側は各貴族の屋敷に騎士隊を組ませて向かわせる始末。反発したくとも、反抗すれば即反乱因子として捕えられてしまう……自国の王の顛末を知っている者達は逆らう事さえ虚しく、涙を流して見送って行ったのだ。

 領地に娘を隠そうと知り合いに預けようとした者もいた。が、その家に令嬢がおらず行方が分からないとなると、長男が拘束され運が悪ければその家名は取り潰された……


 いつの日にか、市中ではハンガ国による聖女狩り、と揶揄される様になる…年齢の高い者ならば、まだ耐えられ受け入れられるかも知れない現実は幼い子供達には理解出来ない。ハンガ国へと続く大通りには、時折耳を塞ぎたくなる様な子供の泣き叫ぶ声も聞こえて来たと言う…


「何が…したいのか…我が王ながらさっぱり分からん………」


 ガラガラと無機質な音をたてて馬車は走る。護衛として並走するのはハンガ国の騎士達…皆が皆んな、ハンガ国国王のする事に理解を示している訳ではない証拠に、嫌がる子供達まで親元から無理矢理に離してハンガ国へと護送しなくてはいけない事に嫌悪感を隠そうともしない騎士達は顔を歪めている。


「一体、何の為にこんな事……」


「やめておけ、お偉方の考えなんて凡人の俺らには分からんよ。」


「皆んなに敬われる聖女なんだろう?」


 なのに…泣き声に胸が痛い……


「………後で、話がある。」


「は?何のだ?」


「ただの、()()に関する確認だ!」


 騎士の同僚はそれだけ言うとさっさと持ち場へと戻っていく…ガーナード国を抑えたと言っても、まだ荒れそうな問題は山の様だ…いつ、穏やかな日を迎えられるのかと不安を抱えつつハンガ国の騎士達はガーナード国の街並みに背を向けた。












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