86 クトルドの焦り 3
「また、陛下の悪い癖が出てしまいましたね……」
謁見の間を後にするのはギルダン将軍と付き従って来た数名の供だ。ハンガ国の使者はそのまま謁見の間に留め置かれている。自国の王の趣味趣向は心得ているので、今後あの使者がどの様に扱われるかよく理解している。が、その様な事に今構っているわけにはいかない理由がギルダン将軍にはあるのだ。
ハンガ国の甘言を受け、クトルド国は動く事を了承した。ガーナード国の周辺国はまだこれには気がついていないだろう。そう、いない、と言う段階でなければ、こちらに勝機はない。ガーナード国内には今、見方を裏切り夜も明けぬうちに反乱を終わらせた者達と、ハンガからの騎士達で固められていると聞く。では、他国がこれに気が付きガーナード国へと助力する前に、完全にガーナード側を屈服させ、ガーナード国側の宣言で国を二分する事を周辺国に通達せねばならない。これがただの国取りならば、ハンガが名乗りを上げるだけで良かったかも知れないのだが、相手はあのガーナード国。聖女の護りがあると言われる聖女の国だ。全ての周辺国が注目し、あわよくば我こそがと狙いを定めている国……迅速に動く必要があった。
「ギルダン将軍!使者殿はどうされましたか?陛下への謁見はお済みで?」
自分の執務室に戻って来ては、クトルド国王が中を改めた書状を部下達にみせる。
「全軍に通達だ。戦の準備を急げ!我がクトルド国軍はガーナードに打って出る!!」
「「はっっ!!!」」
ギルダン将軍の一声で慌ただしく執務室から侍従やら騎士やらが走り去って行った。
「陛下……お出にならずに良かったのですか?」
ハンガ国王からの書状はガーナード国を一気に両国で固めて、周辺国への圧力をかけると言う物だった。クトルド国国境の警備兵は減らせないが、国内に抱えている兵のほとんどをガーナード国へと集結させるつもりでいる。
「ふっ…戦事ならば将軍を始めとする騎士達の方が心得ているだろう?私はハンガから来た使者殿をもてなそう…」
「陛下………」
静かな室内にはただ、衣擦れの音が響く…
「よろしかったので?」
クトルド国王の執務室兼寝室につながる扉の前に静かに俯く官吏は控える。そっと侍従が声をかけた。
「良いのだ……少しの間、陛下の目をハンガとガーナードから背ける事が私の役目……だから、これで良い。」
直接、クトルド国王が全軍の指揮を取りガーナード国へと踏み込んでこない様に、足止めをしておくことがこの官吏の役目だった。足止めの役が出来るのならば、そこにいるのは自分でなくても良いはずだ。
良い、はずなんだ………




