84 クトルドの焦り
「何か、連絡は入ったか?」
強面揃いの室内に無理に声を抑えた様な声色が響く。
「いえ、それが……ガーナード国城内に居た者達と連絡がつきませんので…」
「連絡が付かんとはどう言う事だ!」
抑えられん、とばかりにダン!と机に拳を叩きつけて声を荒げる司令官らしき男。
「も、申し訳ありません!なに分、ガーナード国へは他国からの入国そのものが制限されておりますし、まだ国内に残っている者達でなんとか情報を集めているのですが……」
「ええい!約束の件はどうなっておるのだ!国王になんと説明する!」
「ですが……」
「くっ……ハンガの者を呼べ!!説明させるのだ!」
「はっ!直ちに!」
若い兵士が部屋を出て行くのと入れ替えに、王直近の官吏が室内へと入ってきた。男の官吏でありながら、女の様に身体の線が細いその官吏は王のお気に入りだ。
「これは、ご機嫌麗しく…ギルダン将軍。お話中でしたでしょうか?」
官吏は物腰柔らかく、今しがた机を思い切り叩きつけていたギルダン将軍に礼を取る。
「これは、恥ずかしい所を……」
「焦るのも分かりますが、まずは陛下の元に来られる様にと仰せ使ってまいりました。」
王のお召し……言わずもがな、例の件だろう。
「了解した…参る。」
了承の返事と共に、官吏と部下を従えてギルダン将軍はクトルド国王の前に参じた。
クトルド国王は病気がちな先王に変わり数年前に即位してから現在30を少し過ぎた頃。男盛りで血の気も多い。若い頃はならず者共と喧嘩三昧の日々を過ごしていたこともあり、腹心達をヒヤヒヤさせていたものだが、成人し王位に就いてからは荒ぶるその気性もすっかりと鳴りを潜めている。
「ギルダン、彼方からの約束はどうしたのだ?」
クトルド国王は王座で足を組み、ギルダン将軍を見下ろしつつ、退屈そうに問うた。
「確か、約束では…共にガーナードを取りに行こうとの事だった様だが?」
側に控えていた官吏からクトルド国王は盃を受け取ると、グッと煽った。
「はい…兼ねてからの約束にはそうありました。」
「ふむ…で?」
「……まだその時期ではない様です…」
「ほう?こちらとしてはかなり待たされているがね?」
「承知しております…ハンガの者に確認を取ろうとしておりました。」
「……陛下…」
王座の方から困惑気味な官吏の声が聞こえてくる。クトルド国王が悪戯に酒を継ぎ足そうとしていた管理を自分の膝の上へと引き寄せたのだ。
「ギルダン将軍……今日中だ…そのハンガの使者とやらに今日中に解答するように申しつけろ…私は些か、待つ事に飽きた…」
官吏の抗議の声も何のその、目の前にある者ならば全て自分の物としてしまう様なクトルド国王の瞳が光る。
「分かっているだろうな?私は気の長い方ではない…手に入れられる時に手に入れなければ気が済まぬ…欲しかったものならば、尚更だろう?」
楽しそうに笑うクトルド国王の声の裏で、官吏の声が小さく上がる…
「……御意に、ございます。」
欲しい獲物は逃がさない。クトルド国王は野生動物の様な執念さで獲物を追い詰めるのを酷く好む。相手が苦しんでいれば苦しむほど、恐怖していれば恐怖する程、優しく、逃げ道を塞いで、絡めとろうと………




