82 セルンシト王子の告白 4
「で、ケイトル殿はどうやってガーナードの情報を探っていたの?」
カンリールは、密偵と言うくらいしか分かっていないケイトルの立ち位置を詳しく把握したかったらしい。
「ああ、城内にいる馬の調教師だった。」
「馬房の?」
「ま、掃除もするし、何でもやる。」
「ビックリした、結構雑用なんじゃないの?」
「そうだ、地位的には高くない、が…」
グッとケイトルはカンリールの方に身を寄せた。
「そういう身分の方がいいだろう?騎士も城外の森を散策する貴族も、各家の従僕も皆警戒を解くから色んな情報が聞けるぞ?」
「なぁるほどね!いいな、僕も今度から使わせてもらおうかな?」
「今からでは各国とも警戒が強くなるだろう?だから、今いる者達を懐柔した方が早い。」
「だろうね。そうしよう…で、ケイトル殿?どうやってガーナード国を脱出したのかな?」
ガーナード国の反乱が起こった時、それは見事な手際だったとカンリールは判断している。早朝まだ城門が閉じられている時間帯で場外に脱出する事が誰しも実質不可能だったはず…なのに各国からはガーナードから国外へと脱出したと思われる者達からヒルシュ国へと書状が続々と届いていたのだから。
「あぁ。その前にカンリール殿、君は聖女を信じるかい?」
「信じるも何も、伯母上が聖女の国ガーナードで王妃をしているよ?」
「ふふ、そうだが、そうでは無い…目の前で彼女の達の力を見たことはあるか?」
「いや…ないな…そういえば…」
ヒルシュ国には現在聖女と認定された貴族の者はいないはずで、カンリールも目の前で聖女の技は見た事がない。
「そうだろう?セルンシトには我が母上がいるが、母上とて顕著な力ではない…が。」
「が…?今のガーナードにはいるって言う事だろう?」
「その通り…!その聖女の力は並大抵のものではない…何しろ、私は一度、死んでいるからな…」
危うく、口に含んだ葡萄酒をカンリールは吹き出しそうになる。
「…ぐっ…ゴホッゴホッゴホッ…」
吹き出しはしなかったものの、むせこんでしまって暫くは話すことすらままならなかった程驚いた。
「ちょっと待って…!僕の所にそんな情報入ってないよ?」
カンリールはかなりの数の目と耳を持っていると自負している。が、今までに聞いて来た聖女の力のどれにも入らないくらいのものだ。各国の書状にもそこら辺は書かれていなかった。ただ助けてもらった、と…
「…なるほど…大きな声では言えないわけだ…」
書状とて誰が見るか分からない…その辺は皆しっかりと考えてくれていた様なのだが。
「あぁ、だが、これが事実なんだよ…私は彼女を助けたい…」
初めて会った時も宝石の様に綺麗だと思ったケイトルの瞳の奥から、決意と言う輝きが爛々と燃えているのがカンリールには見えた…




