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8 ガーナード国王の決断

「…ハンガへ聖女を送る………」


 ざわついた室内が一瞬シンと静まり返った。低く響いたのは決意を込めた国王の声。一国の臣下たる者達はこの言葉に従うしかなかった。


 はるか昔より、ガーナード国は聖女を隣国へ嫁がせる事により和平を築いていた。ハンガ国にはかれこれ15年程聖女の輿入れがされていない事がわかっている。それはバンガ国の王族や有力な貴族に男児が少なく、輿入れしても側室扱いにしかならない為にガーナード国の貴族達はこぞってハンガ国を婚姻の対象から外していた事に原因があった。ほぼ国内で見られない聖女の力…ならば、侮られて貶されても実際にその目にするまでは致し方なかった事なのかもしれない。自国の王族を晒し者にするよりは、婚姻による平和的解決を望んだ方が建設的な解決策だ。


「して、何方の所の令嬢を?」


 宰相ディンクは王に問う。


「フィスティアの次に力の強い者はどの令嬢であったか?」


「……ハドリー侯爵家の末のご令嬢ハウアラ嬢です。」


 先程報告に上がって来たであろう選定会の書類をパラパラと余す所無く捲ってから宰相ディンクは答える。


「ハンガの皇太子は今年26歳になるか?」


 そして既に第二側妃まで娶っていると聞く。


「その通りです。陛下…」


「して、ハウアラ嬢は今年幾つになる?」


「……16に、なります…」


 重苦しい口を開いたのは、ハドリー侯爵だ。


 聖女の力を受け継いだ令嬢の婚姻は家同士勝手に行ってはいけないのがこの国のしきたりでもある。祝福されたと皆に敬われる聖女達だが他国に政略結婚の駒とされる事もしばしば…国の安寧を図るためとは言え、名指しされた家としては心中穏やかではないだろう。


「ハドリー侯爵。ハンガ国のオレオン皇太子は実に愛妻家との噂をお聞きしますよ?国境付近はきな臭くなりましたが、ご本人は穏やかなお優しそうなお方です。ハウアラ嬢の身の上も充分にご考慮頂けるものと思います。」


 宰相ディンクの言葉には、最早否やは唱えられない程の説得力がある。これもこの国の聖女として産まれたからには受け入れていかねばならない宿命でもあった。


「……謹んで、お受けいたします。」


「では、早速にハンガ国へ使いの者を立たせましょう。」

 

 宰相ディンクの言葉を持ってほぼこの婚姻は決まったも同然となる。ハドリー侯爵家末の令嬢、ハウアラ嬢のハンガ国への輿入れを持って、この国境争いには終止符を打った。


 ハウアラ嬢には密かに心に決めた、国王にも認められた他国の婚約者がいた。けれど国家間の問題と比べられては優先順位としては国家問題だ。皇太子妃フィスティアも年若い友人ハウアラ嬢の嘆く姿に胸を痛めつつもハンガ国へと送り出した。

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