77 忘れ去られた婚約者 2
男は市場の調査員をしていたと言う。大店の店に雇われていて各国を回りながら物の物価を調べ尽くして雇い主のところに帰っていく。そんな生活を何年も何年もして来たらしい。勿論ハンガ国にもいたし、ガーナード国へも行く。ここ周辺の国以外の海を越えた国々にも足を運んだ事があると言う強者だった。
「ほぅ…海を越えたか?」
ハンガ国の更に東側には海が広がる。そのまた向こうに陸地があって大きな商船は年に数度行き来している様だ。航海が危険な為観光などにはまだまだ程遠いが、一部の者達からは熱狂的な注目を浴びていると言う事は知っていた。
「へえ!そりゃもう、なんて言うか言葉にならない位の感動がありますぜ!」
「私はまだ大きな船には乗った事がない…」
だから主に陸地を馬で移動する。貴婦人方は馬車を使うのが主流だ。
「勿体ねぇ!是非、一度でも良いから海を渡って下せえ!人生変わりますぜ!」
貴族の身からしたら今の状況も180度位変わっているのだが…更にまだ変わるのか……?
だが、それも良いかもしれない、あの時、一緒に連れ出して海でも渡って逃げてしまえば………
「でね!旦那!」
……男の話は続く。その男はある日ガーナード国で捕まった…物珍しい外国の商品をガーナード国で取引してくれる店はないか主人と一緒に大店を中心に回っていたそうだ。大店で有名店ならば王族御用達にもなれるチャンスで、珍しい商品を取り扱う男と主人は共にガーナード国王城へと連れて行かれたらしい。どうやら王族の前で商品の説明をし、ガーナード国への輸入許可を一気に取り付けてしまう為にまず王族の心を掴もうと大店の店主は考えたらしい。珍しい物が好きと言う王族を引き込むつもりで意気揚々と登城した…
が、運が悪かったのだ。その日の朝早くには、既に事が終わっていたそうだ。王族は全て捕らえられ、意気揚々と城に入っていった者達も皆一様に捕らえられた。特に物珍しい、怪しげなものを持っていると思われた商人達は、弁解も聞いてもらえずに直ぐ様縛首となったと言う…………
「そうなんすよ!人生終わったと、絞首刑台に乗った時に思いましたね…やぁ、一度終わっちまったんですがね?」
ケタケタと明るく言ってはいるが内容は笑えたものではない。よく取り調べもしない内に他国の商人を縛り首になど普通はしないものだ。
「ま……俺は運が良かったんすよ……その後はあの聖女様に出会えたんですからね?それがなきゃ、本当にここにはいませんでしたからね……」
自分の首をさすりながら明るく言い切る男を若干背筋に冷たいものが走るのを感じならがジョルダンは見つめていた。




