75 淡い夢
聖女の国がある、と子供の時から聞かされてきた。聞けば聞くほど聖女の力は素晴らしく不思議で、子供心を大いにくすぐりワクワクさせた。が、成長するにつれて自分は聖女にはなれないと悟る。そして何より聖女の国は隣であって、自国は全くの関係ない国と知ると、何とも言えない絶望感が押し寄せて来た。
きっと周りの者達は、小さな子供の小さな可愛らしい憧れと思って聖女の話をねだる姿を微笑ましく見ていたに違いない。しかし聖女への憧れや好奇心が、少年だった小さな胸に年々大きく膨らんで行っているなど、きっと誰にも分からなかったに違いない。
少年には成長と共に年相応のものが与えられ、得意なものが出てくれば皆んなが誉めそやしてくれる。それも悪い気はしなかったし、ニコニコと愛想良くしていれば自分が何をしていても周りからはうるさくも言われない。だから周りの者と上手く付き合う為にいつも笑顔を絶やさない様にしたし、皆が喜び誉めてくれるものを選択して身につける様に努力もして来た。
少年は徐々に知る事になる。
本当に欲しいものが有るのならば、大きな声で周りに言いふらさないほうがいいと言う事を…王族という立場は自分の言った言葉一つであっても自分の首を絞めてしまう事も有ると学んでからは、それはもう慎重に欲しいものは隠すという事を徹底して来た。物であっても、人であっても周りの者が勧めてくるままに受け取り、喜んでいる振りさえした。
自分に力が付き、物事を動かせる様になるまではじっと我慢をして更なる力をつける為に努力を惜しまなかった。
皇太子として立った時、再度夢が頭をもたげ、心の中を満たしていくのを感じた。
もう、子供ではない…もう…何も知らない、何も出来ない子供ではない。その逆で皇太子という絶対的な立場から発言し、行動に移す権利と力さえ有るのだから…この事を、一人でじっと考える時、喜びで心の芯から震えてくるのがか分かった。
やはり、心から求めるものはただ一つだ……
そして、今ならば自分はそれを手に入れる事ができるのだから…
父王が隣国と交渉をしている内容を知れば、嬉々として王の執務室に向かったものだ。
聖女を迎えるならば是非、力の強い聖女をここハンガへと迎えてください、と言う為に。
物心ついた時から分かっていたのだ。自分が何を求めているのかを…そして、父王はその意見を快諾した。ならば、まだまだ自分の思いを果たす為に、父王に進言する事ができる…!
幼き頃からの、夢を、ここで見る事が出来るのだ……




