73 ハンガの憂鬱 2
「大丈夫でして?」
どれ位時間が経ったのだろう?ふと気が付けば辺りはもう薄暗い。ハウアラ側妃が侍女の入室を拒否していた為にまだ室内には灯がない。
そんな薄暗がりの中でも声を聞けば誰だか分かる。それ位聞き覚えようとしていた人物の声だ。
「……皇太子妃殿下………?まさか、御自らこちらに?」
ビックリした。自分が泣いている事さえも忘れてしまう程、呆気に取られて目の前の人物を見詰めてしまっていた……
「なんて顔をなさっているの?折角可愛い顔なのに……」
キシッとベッドが軋む…フワリと皇太子妃殿下の好きな花の薫りが部屋に漂う。皇太子妃はハウアラ側妃よりも5歳年上で姉の様に気さくに話しかけてくれるのだが、こうして部屋の中にまで何も言わずに入ってくる事など初めての事だ。
「ごめんなさいね?声を掛けようとは思ったのだけれど、貴方、侍女も側に寄せないと言うのだもの。どうしたのかと思って……」
「も、申し訳ありません!」
やっとここで、自分がベッドの上にうつ伏せているだけだと気が付いた。目の前に高貴な立場の方が居るのに、自分は駄々をこねている子供の様に……急に自分の立場を思い出して恥ずかしくなり、ハウアラ側妃は急いでベッドから降りて礼を取る。
「良いのよ…いつもしっかりとしている貴方が随分と取り乱した様子だと侍女が伝えに来て、皆心配しているわ。どうなさったか話して下さるかしら?」
皇太子妃ならば外の事情も政治についても見識は広いはず…
どうしましょう……なんと、伝えたら良いのか………
言葉を選びながらキュッと唇を噛み締めてしまったハウアラ側妃の必死な表情を見たら、皇太子妃の表情が徐々に暗いものになる。
「貴方、知ってしまったのね?ガーナード国の状況を…?」
ビクッとハウアラ側妃の肩が反応した。
「そう……あの方は………酷い方だわ……」
皇太子妃は誰の事を酷いと言ったのだろう?ガーナード国王?皇太子オレオン?その他の誰か?
返答出来ないハウアラ側妃は、いつの間にかスッポリと皇太子妃の腕の中に抱きしめられている。
「何と言ったら良いのかしら……あの方は、世界一優しくて、世界一酷い方のように思うわ………」
ポツリと呟いたその声には、いつもの張りも威厳もなく、ただ小さなか弱い女性の、震える様な呟きだった………




