70 聖女の行方 2
「こちらに聖女を、ですか?」
午後の穏やかな気候とは裏腹に、どうあっても気分を浮上する事ができないでいるハンガ国皇太子第二側妃ハウアラは、目の前の夫である皇太子オレオンの薄茶の瞳をじっと見つめていた。優しそうな夫の笑顔からはハウアラ妃に何の答えも出してはくれていない。皇太子オレオンはそれは優しい紳士だとハウアラ妃も感じてはいる。既に彼には二人の妻を娶ってはいたが、年若いハウアラ妃が王城で邪険に扱われない様にと他の妃にも働きかけてくれていた。それが功を奏しているのか、正妃と第一側妃からハウアラ妃に対して目に余る様な態度を示された事はない。が、ハウアラ妃がここへ来てから感じるものは皇太子オレオンが誰に対してもその様な態度を取っているということだ。彼の中には誰が一番とか、順位がない様に思えた。一時それは平等に人を愛する事だからだとも考えたのだが、皇太子オレオンはただ笑顔なだけで、実は妃の誰をも愛してはいないのではないかとこの頃感じる様になっていた。
皇太子オレオンと第二側妃ハウアラは政略結婚の為、世に言う仲睦まじい夫婦になるのはとうに諦めもしたのだが、一生を共にして行く事を考えた時、これはこれで侘し過ぎると人知れず小さな胸を痛めてもいた。
ハウアラ妃は他の妃と5歳以上年下で、自分がまだ幼い所為かと悩み、皇太子オレオンに好かれようと顧みられることの無い努力をし続けていたのだが、皇太子オレオンが誰も愛する事はないのでは無いか、と気付いてしまってからはそれも全てが虚しくなってしまっている。こんな事は両国の和平のためにも口になど出せないが、他の妃が堂々と皇太子オレオンの横に立つのを目で追う内にいつも自分の立場が苦しく思えるのだ。
「そう…君の同郷だもの。きっと寂しくはなくなるだろう?」
寂しく、無くなる?では、皇太子オレオン様は私が寂しい思いをしていると思っていて下さっての事だろうか?それとも……
「…どなたかの、ご婚約者としてでしょうか?」
いや、ハウアラ側妃と同じ様にこれが一番現実味がある。皇太子オレオンは走り出したら他のものに目もくれぬ子供の様なところがあって、ハウアラ妃が嫁ぐ前には、聖女を側妃として輿入れさせるならば聖女の力の強い娘をと現ハンガ国王に訴えていたそうだ。それはそれは熱烈に聖女様を求めておいででしたよ、と周りの侍女達からここに来た当初は良く揶揄われもした。それだから、ハウアラ側妃ももしや愛されているのかも知れない、と勘違いもしたのだ。
祖国で大変失礼な婚約破棄をしてしまった元婚約者を思って泣く泣く暮らすよりは、少しでも祖国の為に力になろうと、無理やりに心を奮い立たせて………




