65 書状
ヒルシュ国王は子煩悩なだけではなかった。臣下の能力を見抜く力は年の功がなせる技だろうか。カンリールを甘やかしたと言ってはいたが、しっかりと彼の能力を活かそうとその機会を逃さない。その祖父の血を強く引き継いだカンリールも人を見る眼は確かな様で…各国の密偵を絡め取っては自分の目と耳として活用している。
「これは周辺各国から来た書状でね…」
カンリールをガーナード国王へ預けると決めたヒルシュ国王は厚みのある紙の束を持ってこさせた。ざっと見ただけで、どれもガーナード周辺国からヒルシュ国王へ宛てられた書状だ。
「…中を確かめても?」
この中にカンリールが関わっている者の情報でもあるのか?どれもビッシリと内容が書き連ねてある物ばかりの様だ。
「勿論。好きに読んでくれ。」
許可が出たところでルワンは一通一通ざっとであるが目を通して行く。
「これは…聖女の救出嘆願書?」
十分に厚みを感じさせる書状の中身は王族を始めとする各国の貴族、または有名な商人などの人目を引く名によって、ガーナード国に捉えられ極悪な環境下で今にも死にそうになっている聖女の救出を願うものばかり…
「…その様だ……心当たりはあるかね?」
心辺りも何も、きっとこの聖女はガーナード国地下処理場にいた今にも死にそうな見窄らしい聖女のことだろう。
「私はこの聖女に助けられたのです。そして、このヒルシュに逃れよ、と……」
「なる程…その聖女の先見の明は確かな様だ…」
ここにも、この書状にも書かれているのは聖女の救出の事ばかり…あの聖女がこれまで大勢の命を救って来たことがよく分かる。何しろ、他国の王族まで出て来ているのだ…既にこの聖女の存在は諸外国に隠せる物ではない程に知れ渡っている証拠…
「しかし……あの娘は……」
「何か、問題があったのかね?」
「酷く……環境が悪かったのです…娘の体調も良くはなさそうでした。名を…聞く事ができませんでしたが、如何やら罪人の娘かも知れないと……」
「親族が罪人?…それでも聖女には変わりないのだろう?王家からの書状はセルンシトのものだが、ガーナード国にこれ程の力ある聖女が居ると既に知れ渡っている。ルワン…他国がこの聖女に目を付け本格的にガーナードを取りに行く前に、動いた方が良いと思っている…幸いにここに書かれたもの達はこちらに手を貸すだろうし、現ガーナード側とハンガにはまだこの事は漏れてはいない、極秘事項だ。」
ヒルシュ国王に促されてもう一枚の書類が運ばれて来た。そこにはヒルシュ国王を筆頭にガーナード国反乱鎮圧に手を貸す国と者達の名が書き連ねられていた。
「ルワン…いやガーナード国王、これは純粋にガーナードの聖女への感謝の為に動く者達だそうだ。其方も思う事も、まだ国でやらねばならぬ事もあるだろう?ここに来たのは亡命の為ではあるまい?」
ヒルシュ国王の言う通り…ガーナード国王ルワンは自国奪還を諦めてはいない…父を毒殺し、卑怯にも反乱を企てて自らの王を葬り去った裏切り者達への報復も…そして、この聖女への礼も済んではいない…王ルワン自らが己が王妃に八つ当たりにも等しい酷い仕打ちをしたのだ…生きていたら………嫌…最早生きてはいなくても、罪の無かった王妃フィスティアとその親族にもルワンは謝罪をしなければならなかった……




