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61 ヒルシュの王 2

 ヒルシュ国からもガーナード国に密偵は入り込んでいる。今回反乱を起こす前に密偵たる者達を排除し始めたガーナード側であったが、それを掻い潜る様に未だ城の中に潜伏できている者達もいるのだ。その者達からの報告では、王太后は殺されず幽閉、王ルワンの王妃は行方不明、他の王族は自領にて通達が有るまで蟄居。政権はハンガ国とガーナード国側の両国から担当者を選出し国内が安定するまでは連立政権と思しき政策を取ることが決まっている。


「連立とは………ガーナードも舐められたもの………」


 今更の如くにルワンの中からも怒りが込み上げてるくる。聖女の国ガーナードを二分しようという輩がいる……?


 息を吹き返してから、ルワンは大きな喪失感には苛まれはしたが不思議と憎しみには駆られなかった。それよりも国を取り返し護るべき者達を護りたいと心の内では確固たる決意が固まっている。あんな事をした者達を憎むよりも先に、人々を護りたいと………


「その通りだ…一つの国を二人で収める事は出来ぬ…ルワン…いや、ガーナード国王よ…其方はいかがなさりたいか?」


 じっと痛みに耐えている様な祖父ヒルシュ国王の瞳がルワンを見つめる。


「私は、ガーナード国を、取り戻します…!」


 言葉を口から出して、更に決意が固まった……





「陛下……お身体が冷えます……」


 ヒルシュ国王城…ガーナード国よりも北寄りにある為気温も少し低い。ルワンは充てがわれた王族専用の居室で疲れを癒す様に言われたが、その心はやはりガーナードへと向く。城の大きなバルコニーから遠方をのぞみ見てもガーナードを見る事は出来ないのに…いつまで経ってもそこを離れようとしない主君に痺れを切らした騎士が声をかける。薄い部屋着一枚では身体が冷え切ってしまうだろうと、騎士は王の肩に厚手のガウンを掛けてくれた。


「あの娘は常にこの格好だったのだろう?」


 あの野ざらしの様な地下処理場では雨の日も風が冷たいこんな日にも、あの娘には身体を温め護るものは何も無かったのだろう。


「は…?あの、娘と申されますと…?」


「いや…良い…部屋へ戻ろう…」


 ガーナード国から逃れられた者は皆ここヒルシュ国へと向かっていると言う。それは、あの地獄の様な死の淵から助けてくれた聖女がここに行けと強く勧めた為だと皆口を揃えて言っていた。


「あの者は……生き残ってくれるだろうか…?」

 

 聖女の事など、自分を裏切っていた妻フィスティアを切り捨ててから側に置こうとも思わなかった。そう言えば、フィスティアもあそこに落とされたはずだ。あの悪環境ならば高貴な貴族の出であるフィスティアが生き残って居るとは考えられなかったが…あの場でフィスティアの安否を確認する事もしなかった自分自身の薄情さにルワンの顔には自嘲気味の薄ら笑いさえ浮かんで来た…良く考えてみたらラートが死んでしまったのはフィスティアの所為では無い…やり切れぬ思いを全てあの場にいたフィスティアにぶつけたに過ぎなかった。それを理解しても国同士のゴタゴタに忙殺されてフィスティアの事を直ぐに忘れ去ったのは他でも無いルワンだ。


「私も…人の事を言えまい…」


 護ると誓った者を、護れなかったのだから…

いくらあの聖女の前で押し迫る様な懺悔を吐き出したとしても、もう時は戻らないのだから…

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