59 聖女と死者 3
「娘、これは…?」
「この日の為に集めていた物でございます。」
「其方の物か?」
「いいえ、正しくは墓に入れられる者達の物でした。」
「他の者の物か…?」
「はい…そのまま土に埋められる物をこの様な日のために蓄えておいたのです。」
「死者から物を奪うのは感心しないが、これは其方の物だろう。娘、聖女として敬われずとも外に出た折には生活の糧となろう?」
「私が…ここから出るのですか?」
「其方はこんな所にずっといるつもりか?」
「……それが、御意ならば……」
王ルワンの命でフィスティアはここにいる。もし、ここを出ろと言われるのならばそれに従うまでだが、果たして王ルワンは目の前の聖女がフィスティアであると分かってもこんなに優しい言葉を掛けてくれるだろうか?
「不思議な娘だな…本来ならばこの様な所一刻も居たくはないだろうに…」
「陛下、共にお連れしては……」
「左様に、ここに置いておかれるのは忍びなく思われます。」
騎士の面々も口々にそう進言する。
「………」
王ルワンも何か言いたげだ。
「…私は、共には参りません。」
「しかし!聖女殿!」
フルフルとフィスティアは力無く首を振るので精一杯だった。王ルワンを引きずってここまで来るのでさえ今のフィスティアにとっては奇跡に近い程の事だ。
「どうか…早くお逃げ下さい……ここに来られる新たな騎士の方の息を、私はここで吹き返し続けます…先の方々にもヒルシュへと逃れる様に進言いたしました。どうか、陛下も其方へと身を寄せては下さいませんか?」
「ヒルシュか……」
「左様です。陛下のお祖父様のお国でございましょう?」
ヒルシュ国は王ルワンの母王太后の生まれ故郷で王太后はヒルシュ国でたった一人の王女だった。その為ヒルシュ国王は大層王女を可愛がっていたと今も噂に聞くほどだ。ヒルシュ国王は家族の情も深い王で慈悲深い王と国民からも慕われていた。そんなヒルシュ国王の元ならば王ルワンは受け入れてもらえるだろう。未だに生死が分からない王太后を救出する手助けをしてくれるかも知れなかった。
「だが、其方はどうする?このままでは……」
一見見る所フィスティアの予後は良くないだろう。もう立てるかどうかも分からないほどに衰弱している様に見えるのだ。
「私の事は放って下さいませ。大丈夫ですから……陛下の騎士をお返しするまでは決して死にませんから…」
フィスティアにも王ルワンが言わんとしている事がわかった。だが、王ルワンは今こんな事に気を取られている時ではない。自分ならば大丈夫なのだから………なんと説明したら良いのか、全てを話すわけにはいかないとただ平伏したままフィスティアは懇願する。
「…陛下…」
「…ここ一帯でしたら地の利はこちらにもあります。我らが見つかっていない今ならばまだ逃れられます…!」
「……分かった…娘、世話になった。良いか…私が戻るまで生き延びよ…!良いな…?」
王ルワンは深いため息を一つ吐いて意を決したように立ち上がった。
「また、私はここに戻って来よう……」
去り際に、約束の言葉をフィスティアに残して………
……死者の中であの方のために生きよう……




