56 裏切りの対価 2
夜明けと同時に地下処理場に着いたフィスティアはいつもの様に硬いパンに齧り付く…少しでも周りの者に行き渡る様に出来るだけ同じ大きさに千切って食事にありつけなかった者に渡して行った…
大勢連れて来られた者達も徐々その数は減るだろう…昨日の反乱騒ぎで殆どの者の瞳は生きる屍の様に濁ってしまった…
「おい!早く食え!荷車を動かして穴の下に据えておけ!ほら!早くしろ!」
ザッカルは何やら吹っ切れた様で必死に食物を口に運んでいる人々に向かって鞭を振るってくる。今日も大勢が落とされるのだろう。ならば荷車に直に落としてもらって運び出そうと言う魂胆らしかった。
「ははっ!気合い入ってんな、監督官さん?じゃあ、朝の一発目からこれはプレゼントだ!受けとんな!?」
上の階からプレゼント?誰か罷免でもされるのか?何か良い物でも、もしや食料の追加でも貰えるのかとそこに居た全員が天井の穴を見つめていただろう。
ガッ…鈍い音と共にいつもの様に落ちてくる…その姿を見た時フィスティアの時は止まった…………
悲鳴が上がっていたのかも知れない…騒ついた周囲の声があっただろうにフィスティアの耳から全ての音が消えてしまった………
金糸の刺繍が散りばめられた白い衣と目に懐かしい黒髪には赤黒い血痕がベッタリと…………気が付けばフィスティアは自分よりも身体の大きな大の男を、細い腕に抱えてその場から引きずって離れようとしていた。
ここに、居るべきでは無い……
こんな所に居てはいけない…!
この方が居るべきは、ここではない……!
ザッカルはが何か叫んで鞭を飛ばしたかも知れなかった。必死に男の身体を運びながら、新しい朱色が男の白い衣を染めて行く……フィスティアにはその叫びも自分の痛みも感じなかった。
「良いか!お前ら!今日からこのガーナードはハンガ国が納めていく!それに不満があるならば、その男の様になるから覚悟しておけ!」
「ひっ……なんで…?」
「陛下……!」
「なんて酷い事を…!」
聖女の国ガーナード国の国民は少なからず聖女に対して誇りを持っている。それを長年護り国を収めてきた王族に対しても同じであって王族に親しみを持つ者の方が多いのだ。白地に金糸の衣装はガーナード国王の物…その敬愛する国王が、ここに、落とされたのだ…………
「酷い、か?そうはなりなたくは無いだろう?なら、今まで通り働く事だな?監督官!それは捨ておけ!どうせ死体だ。森に運ぼうとも獣の餌食になって終いだろう?それも一興だ。その男にはそこの見窄らしい女が似合うだろうさ!さあ!お前達はどうするんだ?」
天井から覗き込む様にして地下処理場の人々を見下ろしてくる男はニィッと笑みを作って返答を待っている様だった。
刃向かえば容赦なく殺される………ノロノロと立ち上がり、今日もまた荷車を運び続けた。




