49 セルンシトの密偵
セルンシト国の騎士は密偵だったと言う。
使用人のふりをしてかなり前からガーナード国城内に入り込んでいた。戦禍が激しくなりそうなこの折、いきなり城内全ての者の身元改めが行われ、他国との繋がりが濃い者からの推薦で城に入った者達は全員が一時拘束されたと言う。これは自らの出自、身元が明らかにされる迄の間の事で、身分や身元がはっきりした者は直ぐに釈放されそのまま働き続ける事ができた。が、これはなんの触れなくいきなり執り行われたもののようで、この密偵の騎士の様に何年もの間問題なく潜入していた者達にとっては寝耳に水の出来事だ。身元の偽造などは潜入当初の物で直ぐに取り繕う事ができない者達もいたのだ。彼はその中の一人だった様で他国への内通者を完全に締め出す為にガーナード国で手にいれた情報の内容によっては密偵は酷い拷問に遭わされた後にこの様に廃棄処分となってしまった。
なるほど…ここ最近の死体の中には騎士や犯罪人とは思えない様な女性達も入っていた。もしかしたら他国からの密偵者と疑われて廃棄された者達かもしれない。
「まさか…ルワン様が、こんな事を……?」
「いえ…ガーナード国王陛下ではありません。内乱を企てている者達が密偵者を狩り出しているのです。」
そもそも各国には大勢の密偵がいるのはどの国も同じ。国の極秘事項そのものを手に入れようとする者もいるかも知れないのだが、そのほとんどが自国に関する不利な情報を逸早く手に入れるための密偵行為だ。ここ迄の徹底排除の対象にはどの国でもなりはしない。
「何故です…?」
「この国の内乱の情報を他国に漏らしたくはないからですよ。」
ガーナード国を狙う国は一国ではない。もし、内乱を手助けする国がいたら?この機に乗じて自分達だけがガーナード国に対する利権を独り占めしようとしたら、その他の国が黙っている訳はないのである。他の国を出し抜き、あっという間にガーナード国内を制圧し手中に収める為には内通者、内部の者達の協力が不可欠だ。
「誰が…そんな恐ろしい事を……?」
内乱と言うからには、打倒国王だろう………
「それが、突き止める前に私は収監されてしまったので…後一歩のところで腹立たしい事ですが…」
「そんな………」
フィスティアの目の前に絶望が広がる。自分はここでもいいから王ルワンのその治世は出来るだけ平穏でいて欲しかった………
「僭越ながら…貴方様はここに居るべきではありません。」
セルンシト国の騎士が恭しく手を差し伸べる。




