46 死体置き場の聖女
シャリオとデルトは森の茂みに隠れて夕暮れを待つ…フィスティアが話していた様に森の奥開けた場所には大穴があり、荷車を押した人々が来ては廃棄物を落として行く。日暮れまで永遠と同じ作業の繰り返しを二人は声を殺してジッと見つめていた。
夕闇が迫ってくると大きなツルハシやシャベルを持った男達が荷車とは別の方向に向かって引き上げて行く様子が見えた…
「…あっちか……」
ここでようやくデルトは弟シャリオを背負い、静かに音を立てずに迫り来る闇夜に紛れて男達の後を追う様に消えていった。
フィスティアの仕事の終わりは至って簡単。地下処理場に戻って来て荷車を並べて返すだけだ。その後は気力がある者は雨水で身を清めたり、体力温存のために早々に寝床に入る。清潔な所もなく、診療所も無いここでは朝出ていった者が夕方帰ってこなくても何ら不思議では無いし、誰も探しにもいかない。力無い者は野垂れ死ぬ……
フィスティアは一人で帰って来た。朝一緒だった少年はいない。ただそれだけの事だった……
その夜興奮冷めやらぬフィスティアは寝付く事ができなかった。昼間の事を考えたら異様に興奮したり酷く落ち込んだり心の落ち着きどころが分からなくて泣き出してしまったり…もっと、早くに分かっていたらラートの事も助けられたのに、悔やんでも悔やんでも時間は戻らない。もう………
ならば、これからできる事を…この力を生かせる事を…………
いつもの様に夜が明ける。
フィスティアは新たな一歩を踏み出そうとしていた。取りこぼしてきた命はもう戻らないけれど、聖女としての自分の道を歩こうと……
今日も同じ事の繰り返しが始まる。死体を運び穴へと捨てる。けれど、フィスティアには希望ができた。ただ、死体は死体に終わらないことがわかったから…
フィスティアは機会を伺うことから始めた。朝はいつもの様に朝食を取り、仕事に就く。シャリオはデルトと逃げ出したので違う者と組んで荷を運ぶ。死体を生き返らせることが分かったと言っても、どこでもやっていいものではないだろう。死んだ者達がそこここを歩き回っては混乱を呼ぶ。そしてそれが大事にでもなったら地下処理場に聖女が居ると王ルワンの耳にも入るだろう……フィスティアは一番それを恐れてもいた。自分に出来ることが分かったのはつい昨日の事…けれど王からしたらこの力があればラートは生き返る事が出来たのだ。それをフィスティアは隠していた事になる。フィスティアが違うと言っても王ルワンからしてみればそんなものは言い訳に過ぎないのだから。だから、王の耳に入らない様に、目立たない様に、できれば誰にも見つからない様にする必要があった。その条件を満たすとしたら一日に何人もの人に使えるものではなかった。




