45 本当の力
死者を生き返らせる。こんな事の方が眉唾ではないだろうか?以前の聖女達にこんな力を持った者はいただろうか?過去の文献にならば殆ど目を通した記憶があるのだが、その中にこんな能力を発揮した聖女はいなかった様に思う。
それより…早く逃さなければ…!
「デルト様…お早く…!穴掘り人に見つかる前にその身をお隠しください…!」
フィスティアはふとすれば自分の聖女の力について考え込みそうになる所を踏み止まって目の前の二人の兄弟の行く末について考える。
死体を運ぶ者達は何処か心が麻痺している…もう壊れてしまっていると言ってもいいのかもしれなかったが…彼らには自分が今日生きている事にも関心がない様にも思えた。常に死体を見て触れており、明日は我が身がそうなる様な環境では他者にも自分にも生きる事にさえも希望が持てずに心を閉じてしまっても仕方が無かったのかもしれない…そんな彼らだから、何が目の前に起こっていようとも無反応だし、余計な事に首を突っ込んでは来ないのだ。だからこの場を見られても心配はない。けれど、穴掘り人は違っていて彼らは死体運びをしている者達を一番下の人間として見下している。暴行こそ働きはしないが、触るのは勿論会話さえするのも嫌だ、と汚物を見る目でフィスティア達のことを見てくる。彼らに見付かれば点数稼ぎとばかりに上の役人に告げ口をされてしまう。
せっかく生き返ったのに…また拷問の様なことが行われたらと思うとフィスティアは居ても立ってもいられない。
「穴掘り人とは?」
「この森の先で大きな穴を掘っている者たちのことを言います。デルト様の様な死人の為の大穴を掘っているのです。彼らに見つかる前に早く隠れて!」
「そんなことをしたら貴方様が……」
「私はいいのです…逃げようとせずともまだここで生きていけますから。」
フィスティアは粗末な衣類の腰回りに隠し持っていた金でできたいくつかの装飾品を出した。
「今手元にはこれしかありませんが、幾らかの路銀にはなるでしょう?穴掘り人は夕刻にはこの森から出て行きます。彼らの後を追えば安全な道がわかるでしょう。この森には騎士や狩人が見回りで巡回していますし、猛獣もいますから…」
急いでデルトの手に銀細工を握らせる。
「しかし、これは貴方様のものでは?」
「いいえ、シャリオなら分かってくれるわね…?これはこういう日の為に使うべき物なんだわ。さ、早く…!」
グズグズしていたら次の者達が後から来てしまう。堂々と逃亡手段の相談など明らかに疑われるし、荷の運び役の者達はこちらに興味が無いと分かっていても何かの条件と引き換えに役人に報告される恐れがないとも言い切れない。
ジッと動こうとしないシャリオが物を言いたげにフィスティアを見つめる。
「……シャリオ…生きていたら、どこかでまた会えますね?今はお兄様と共に生き残る事を考えて?こちらは貴方一人がいなくなってもきっと違和感はないわ…ね。」
ギュウッと小さなシャリオの体を抱きしめてフィスティアはお別れの挨拶をする。
「この御恩……生涯をかけてお返しすると誓います…!」
デルトは痩せ衰えた弟シャリオをしっかりと両腕で抱きしめて改めてフィスティアに頭を下げた。
「お気をつけて…幸運があなた方の上にあります様に……」




