44 ハンガ国の騎士
「貴方ですか?」
シャリオを両手に受け止めてしっかりと抱きしめているのは焦茶の瞳に優しい色を湛えた礼儀正しい騎士だった。
この騎士はハンガ国侯爵家サント家の次男でデルト・サントと名乗った。次男である為、自分の名声をあげようと今回の戦に参加した所で見習いの為について来たサント家3男のシャリオと共に捕虜となってしまった様だ。サント家の名ならば、フィスティアも聞き齧ったことがある程にハンガ国では代表格の家出身と言う事になる。
「私が……?」
デルトの問いにフィスティアの方が混乱する。
「貴方の他にここには聖女たる方がおりませんから……まさか…打たなければならない敵国の聖女殿に助けられるとは……」
「兄様……僕も、助けていただいているのです。」
「それは……」
フィスティアはなにかと名前さえ分からないこの少年に目をかけてきた。それは弱って行く幼い子供の姿など、どうしても見たくはなかったからだ……
「…聖女など伝説の眉唾物だと思っていたのです。多分国にいる者達の殆どがそうでしょう。」
「聖女はおります。」
やや呆然と呟く様に話すデルトの言葉にフィスティアはしっかりとした声で返す。聖女として育て上げられたこのガーナード国の聖女達は、力の差はあれど誇りを持って聖女と名乗っている。どの様な状況であれ誰にであれ、そんな彼女達や自分自身を否定して欲しくはなかった。
「はい。ただ今嫌と言うほど痛感しております。」
すっと居住まいを正したデルトが最上級の騎士の礼を取る。
「おやめください。私はそん事をして頂く身分ではありません。」
身分どうのよりも、今のフィスティアは身なりからして目も当てられない程のみすぼらしさだろう。騎士から敬意を払ってもらえる様な状態ではない。
「何を言われます?間違えでなければ、ガーナード国では時に王よりも聖女が敬われるとか…ならば私の行ないこそが正しいものでしょう…この様な貴方様の国に、我らは何と愚かな事を………」
心から悔いるデルトの言葉が胸に迫る…少なくとも戦を悔いてくれる者がいれば、荷車に乗せなければならない人々が減るだろうから。
「…お逃げください……!デルト様…!ここより離れて、国にお帰りなさいませ…」
「何を言っておられるのです?私は償わなければならない。この手でこの国の騎士を何人も切ったのですから…」
デルトの真剣な瞳は決意に満ちていた。自分が行った事に責任を持つ事は騎士道の真髄とも言えるのだろう。実直で責任感の強いデルトの性格が垣間見える。
「いいえ、もう罰は十分です!貴方はお受けになったでしょう?そのお姿を見たら、ここに投げ込まれたのがその証拠です。」
少なくとも一度はその命を落としたのだから、もう十分だ。直ぐには信じられないが、死者が生きている。いや、生き返った…!あの時、フィスティアの願いと共に確かに聖女の力は動いた……
これが…私の聖女の力…………




