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43 フィスティアの力 3

「あ……ぁああ!………ああぁぁ……」


 少年は目を大きく見開いて落ちてしまった死体を凝視しながら、言葉にならない声を出しその場に座り込んでしまったのだ。


「……?」


「…い…様………兄…さ、ま……」


 小さく呟いた少年の声が、この死体が誰であるかをフィスティアに教えてくれる。


「兄様……?貴方の…?」


 この騎士はこの国の騎士では無い。ならば以前敵国の捕虜と言われていたのは本当なのだろう。


「わぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ビックリした…今の今まで、何日も何週間も一緒にいたのに一度も感情らしい感情を出さなかった少年がいきなり大声を上げて泣き始めたのだから。まだ可愛らしい少年らしい顔をくしゃくしゃにして周囲を気にする事もなく大声で倒れ落ちた兄の遺骸に縋り付く……


 ここが地下処理場から離れた森の中で良かったとフィスティアは思う。目敏いザッカルに見つかれば早くしろ、と口煩く急き立てられて思い切り泣く事もできはしなかっただろうから。


「貴方の……お兄様なのね……?」


 可哀想に、酷い拷問でも受けたのだろうか?いつもの死体よりも酷い傷を負っている様に思う。もう冷たくなって抱きしめ返してはくれないだろう腕にすがり、その身体を揺さぶっては泣き続ける少年。


 こんな死体は何度も見て来たのに、心が動かなくなって、おかしくなってしまったのでは無いかと思うほど何も感じなくもなっていたのに……泣き続けている少年が酷く哀れで、久しぶりに心が苦しくなるのを感じる。

 死してなお、これだけ慕われている兄なのだから生前はとても仲の良い兄弟だったのに違いない。生きていればきっとこの騎士も少年との再会を喜んだだろうに………


 フィスティアは心から思ったのだ。生きていて欲しかったと。もう一度この少年に生きた兄と再会させてあげたいと…


「うぅぅ……うっ……ううぅ~~……」


「………どうして、お前が泣いているんだ…

シャリオ………」


 自分や少年の声では無い低い男性の声が不意に聞こえて、ビックリして思わず周囲をフィスティアは見渡す…ここには、少年と自分、それと少年の兄の遺骸だけのはず……


「シャリオ…?ここは……?」


「にぃ様!兄様!兄様!!!」


 死体だと思っていた少年シャリオの兄がすっと起き上がる…


「ひっ……!」


 フィスティアは驚いて後ろに後退った。確かに亡くなっていたはず……生者と死者では肌の色からして違うものだ…こんな事があるなんて……


「ここは…?……私は、確かガーナードに捕まって……お前の命乞いを…シャリオ!怪我は!?」


「…な、無いです…僕はありません……兄様……生きてた………」


「いや……」


 シャリオと良く似た焦茶の瞳は死者の濁った瞳では無くて、生気の光にみちていた。


「私は…確かに死んだのだ……お前の命を助けて貰うために…なのになぜ…?身体の傷さえない……」


 見たところ騎士の衣類は所々破れて血も付いているのに傷が無い。


「何でもいいです!兄様は生きてた!!」


 シャリオは痩せた体で思いっきり兄に抱きついた。


「……そうか……ここは、聖女の国であった………」

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