36 地下処理場 2
ここで寝ると言われても、はいそうですかと眠れなかったフィスティアは小屋の隅で夜明けを待つ。日が昇ってからの仕事と聞いたので他の者も夜が明けてから活動し出すと思ったからだ。その通りで、夜明けが過ぎれば床に敷き詰められていた粗布がモソモソと動き出す。一人一人に会話もなく、ただ黙々と起きては外に出てくるのだ。
他に何をするでもなく部屋の中央辺りに集まり出す。
ゴン、ゴロン…ゴロン、ゴロゴロ……
部屋の天井の穴から何かが投げ入れられた。丸い…堅そうな……
「また、これか……」
側に集まって居た男の一人からポツリとそんな声が聞こえてくる。
「…あれは…?」
誰かに聞こうにも、皆床に転がって行った物を拾いに一斉に動き出した。
「ほら!飯だぞー!」
昨日フィスティアに荒縄の布団を投げて寄越したザッカルが面倒臭そうに部屋の壁を叩きながら外にも声をかけていた。
小屋の中にいた者達はこれで全てだったはず…?しかしザッカルの声に誘われるようにして、外からゆっくりと部屋の中に入ってくる者達がいる。男も女も子供まで………どの人もみんなほぼボロ切れかと思う様な服を身につけてガリガリに痩せている…瞳は虚で何を見ているかさえわからない様な者までいた…中には病気かと一目でわかる様な者まで、薄い衣類一枚で外に出されて居たのだろうか?
「飯……食事……?」
皆が群がっているのは先ほど投げ入れられた物を取るためのようだ……よく見れば手に取った者がそれを必死に口に運んでいる……
床に……それもほぼ土の上の様な所に落ちた物を食べるの………?
フィスティアの生まれは侯爵家だ。それも聖女として王妃候補として育て上げられて来た。食事が天井から投げ入れられるなんて、そして床に落ちた物を拾って食べるなんて思いついた事もない………が、誰一人この状態に不平すら漏らさずに、きっとパンだろうと思われるそれに皆噛り付く。
小屋の中にいた人々の輪に外から来た人々も加われば大した人数になるのに、落ちて来たパンの量は十分では無いとさえ思う。
「なんだ…!汚らしい敵の捕虜が!お前らにはやれるもんなんてないんだよ…!」
案の定、外から来た者達はその輪からはじき出される様にしてパン一つを手に入れる事もできない様だった。硬く固まって汚れたパンに必死で噛み付いて咀嚼する…頭の良い者はパンの周りの汚れた部分だけを剥ぎ取ってまたそれを地面に捨てる。それさえもご馳走であるかの様に外の人々はむしゃぶりついた………
吐き気がする……こんな食事風景なんて見たことがない…いえ、見たくもない……
フィスティアには自分が、自分も食べなければいけない事など頭にはない……すっかりと食欲は失せ、その日の食事にはありつけなかった……




