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32 別れ 3

「ああぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!」


 王ルワンの悲痛な叫び声が室内に響き渡る………今までにこれ程深く悲しみ、傷ついた感情を吐露するとこなどなかった王ルワン。父である前国王が暗殺された時でさえ、ここまでの姿を見せなかった。騎士ラートはそれだけいつも王ルワンの側にいた。前王が毒に倒れて崩御した際にも、ルワンの隣に寄り添って支えても来たのだ。どれだけ騎士ラートの存在が王ルワンにとって大きかった事か。夫婦と言っても一時しか共にいる事ができなかった王妃であるフィスティアにも測り知ることなど出来はしなかった。


「……ル…ワン…様……?」


 ここまで取り乱す国王に声をかけられる者などこの場にはいない。


「ルワン…様…」


 

 申し訳、ありませんでした………



 絶望の如くに叫ぶ王ルワンに謝罪の言葉さえかけられない……フィスティアは自身の不甲斐無さ無力さに打ちのめされて深く深く項垂れ、ただ王ルワンが落ち着くのを待つしかなかった。


「…何故………助けられなかったのだ…………」


 王ルワンの慟哭の後、長い沈黙を破ったのはまた王ルワンの低い声……


「お、恐れながら申し上げます……お、王妃殿下のお力が及ばなかったものと………」


 小さな声で王ルワンの言葉に答えたのは同道した聖女だ。


「………其方は先程もそう言っていたな……?王妃の力が使えぬ、と……」


 先程の取り乱し用からは想像もつかないほどに落ち着き払った王ルワンの低い声。落ち着いたと思えるもののその低すぎる声に一抹の不安を覚えてしまう……


「は、はい……その様に申し上げました……」


 聖女はただ震える身体を平伏して王ルワンに言われた事に答えていく…


「では………王妃フィスティアは……聖女の力を、謀っていたというのか………?」


 静かに響く王の言葉になんとも抗えぬ圧がある。


「そ、それは…………」


 言い澱む聖女に再度王ルワンは問う。


「フィスティアには、聖女の力がない、と?」



 そんなはずは無い……聖女の選定には間違えは起こらない…古の聖女の遺品は大勢の目の前で光り輝いていたのだから……


 フィスティアは力の抜けた手を必死に握りしめる。



「私には、分かりかねます…が、先程はお力は働いてはおられなかったとお見受けしました……」


 同道の聖女は正直に答えるしかなかった…王妃フィスティアに強い聖女の力が有ると皆の前で証明されている事は周知の事実であったから…けれど、何故今回その力が働かなかったのかの答えを知る術はなかった…


「フィスティア……其方になんの得があったのだ…?」



 得……?



 王ルワンはその場を動かず、騎士ラートの冷たくなった手を握りしめながら言葉を紡ぐ…


「ドルン侯爵家の安寧のためか…?」


「え…?何のことです…?」


「それとも…其方の名声の為か?」


「陛下…?ルワン様、何を言って…?」


 フィスティアには王ルワンが何を言わんとしているのか分からない…


「王妃になり、この国を統べる聖女となって満足か?」


「仰っている意味が…私には分かりません…」


 戸惑いと、不安、悲しみと混乱がフィスティアの胸を押しつぶす……


「どうやったのだ…?選定人までが其方の仲間か…?光を出す仕掛けまで……大掛かりなことを……」


 フィスティアに向き直った王ルワンの碧眼の瞳の奥に暗い光が燻るのを見、その言葉を聞いたフィスティアの押しつぶされた胸には更に絶望が重く、重くのしかかって来た…

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