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30 別れ

 知らせを受けてどれくらい経った?1分とも10分とも1時間ともそれ以上かも知れなかった。僅かに蹄の音がして来たかと思えば先導していただろう騎士が城内に駆け込んでくる。


「王妃殿下!来ます!馬車が直ぐに参りますので!!」


 既に部屋には担ぎ込まれて来る怪我人が休める様に清潔な寝具、ありとあらゆる医療器具に薬品一式、城内でも腕利きとうたわれる名医まで勢揃いで待ち構えていた。

 

 先導の騎士が告げた通り、直ぐ様馬車の音とともに物凄い速さで城内に馬車が入って来る。王ルワンを含めワラワラと集まった人々が、冷たくなりつつある意識のない騎士ラートの身体を抱き抱える様にして、その両脇には騎士ラートの血液に両手を染めている医師と戦場にまで同道した聖女が付き添い、これ以上無いほどの速さで部屋に入り寝具に騎士ラートを横たえた。


「王妃!早く此方へ!ラートを頼む!」


 フィスティアとてそのつもりでここに居る。初めて診るであろう戦場における負傷兵の悲惨な姿に一瞬我を忘れてしまっても仕方なかったろう。フィスティアにとってはこれが初めての聖女としての仕事だったのだから。


「はい!参ります!」


 王ルワンの言葉に我に帰ったフィスティアは直ぐ様騎士ラートの元へと走り寄り、その傷口に手をかざす……


 聖女の治癒は至ってシンプルなもの。自身の中にある能力に応じて相手にそれを望めばいい。怪我や病気の治癒ならばその全快を願うだけで彼女達の内にある力が働いてくれるのだ。


「頼む!フィスティア…!ラートを…!」


 もうすっかり血の気の失せた騎士ラートの手を握り王ルワンは泣きそうな、けれども安堵した様な表情を浮かべてフィスティアを見つめている。



 大丈夫…

 


 不安に駆られているフィスティアにも聖女としての自信はあった。かつてバラ園でフィスティアが手を切ってしまった折に、瞬間的に自分の手を癒していたからだ。自身の中での聖女の力の働きはその時に初めて知った物であったが、確かに動いた聖女の力にフィスティアは誇りを感じたものだった。


 

 癒せるわ……


 

 が、フィスティアの願い虚しく騎士ラートの出血は止まらず……


「どうしたのだ…?ラートの血が止まらぬ…!」



 動かない……?



「王妃殿下!毒です!毒が使われていたのです!毒消しを!」

 

 同道していた医師が隣で叫んでいる。


「毒……!?」


 毒消しなどしたことがない…けれど、フィスティアは精一杯願い続ける。騎士ラートの中の毒が消えて傷が完全に癒えることを…フィスティアの傷を癒した時は一瞬だったのだ…それでも力強い力を自分の中に感じていた。



 なぜ、動かないの……!?


 

 騎士ラートに手をかざしたまま、フィスティアは茫然とする……

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