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29 騎士ラート

「ラート…!聞こえるか?ラート…フィスティアが必ずお前を生かす…!だから諦めるな!目を開けろ…!」


 急遽用意された馬車の中に、騎士ラート、王ルワン、聖女、医師そして外には護衛騎士達が馬車とは思えぬ様な速度で王城までの道のりを急いだ。騎士ラートが受けた傷からは先程よりかは少なくなったものの絶えず血が流れ、それを医師が必死に抑えて聖女は癒しの力を使い続けている。誰もが沈黙を守る中、王ルワンは必死に騎士ラートに声をかけ激励しつつ手を握り締める。



 騎士ラートは常に王ルワンの側に居た。まだ身分の上下も分からない幼い頃から、ルワンの隣にいる事が当たり前で、居ない事の方に違和感を覚えるほど常に二人は一緒であった。立場を理解した時からは、ラートは心からの忠誠と友情を持って王ルワンに仕えたし、ルワンも王の立場を崩す事叶わずとも、心からの信頼と友情をラートに注いでいた仲だった…


 こんな事のために、ラートは騎士になったのではないだろう?それとも、王ルワンの代わりとなって矢を受けたのだから、それこそ本望だったのだろうか…?例え満足だと言われても王ルワンはそれを受け入れる気はさらさら無い。だから今、王城へと急ぐのだ。城には王妃フィスティアがいる。今世一と言われる位の聖女の力を色濃く受けた王ルワンの愛する王妃……そこまで持てば全ては解決するのだから!


「急げ!!何としてもラートの息のあるうちに帰城するのだ…!何としても……!!」


 騎士ラートの身体は火の様に熱く額には玉の汗が流れていく程に浮かぶ。けれど顔色は酷く青白く色を失い、手足は氷の様に冷たかった……常とは思えぬこの状況は鋭い爪の様な不安で王ルワンの心の奥底を抉り取る…


「ラート!聞こえるか!お前にはまだ両親も残されているのだろう?先に逝くな!逝ってはならんぞ!!ラート!」


 浅く乱れる呼吸の他騎士ラートは答えない……


 馬車が揺れ軋む音と、王ルワンの声だけが王城に着くまでの間、馬車の中で途切れる事はなかった……




「こちらでございます!王妃殿下!こちらにお着きになりますので!」


 騎士ラートの重傷の知らせが城に入りフィスティアの耳に入った瞬間に背筋には寒気が走った…


「へ…陛下は…?」


 騎士ラートは王ルワンの側近中の側近だ。その騎士が重症となると王の身の安全も疑われる…


「陛下はご無事です!ラート様が身代わりになられたとの事!」


「何という事…!」


 王ルワンの無事にフィスティアは心から安堵するが、騎士ラートは王ルワンの唯一無二の親友と聞いている。二人の間にはただの主従関係とは思えぬ強い信頼で結ばれている事がフィスティアにも分かるほどだったのだから。…その騎士ラートが倒れた…!


「ルワン様……」


 どれだけ不安か…友を失うかも知れない恐怖に王ルワンはどれだけ耐えているか…王ルワンのことを考えただけでフィスティアは居てもたってもいられなくなった。馬車が乗り込んで来るだろうと思われる部屋に案内にされた後もフィスティア自ら出入り口に立って、その馬車の到着を待った。


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