124 セルンシト国第二王子の求婚
「私が、自らの手でガーナード王家に杭を打ち込んだのか………」
頭を抱え込んでしまった王ルワン。
「ガーナード国王陛下、この度の尽力に対する対価をいただきとう御座います…」
唐突にセルンシト国第二王子ケイトルがガーナード国王に褒美を所望した。
「対価、と?」
「はい。その様なお約束でしたね?」
同盟軍とガーナード国の間の契約内容ではガーナード国奪還の成功の暁にはそれ相応の対価を支払うと言うもの。
「其方は、何を望まれるのだ……?ケイトル殿下…」
ヒルシュ国と同様にセルンシト国王族が手を貸している今回のガーナード国奪還劇についてガーナード国側もセルンシト国側の申し出を無視する事は出来ないだろう。
「私は……」
王ルワンに迫る勢いで詰め寄っていたセルンシト国第二王子ケイトルは、そのままクルリと向きを変えた。
「……?」
向きを変えたセルンシト国第二王子ケイトルは王妃フィスティアを見つめてゆっくりと瞳を細める。
「貴方が捨て去った、死体置き場の聖女殿を頂きたく存じます!」
「なっ…!」
セルンシト国第二王子ケイトルの余りにも堂々とした発言に、しばし誰もが口を挟めなくなった。
「……!?」
勿論王妃フィスティアも驚きで声も出ない。
「もう一度だけ、私にお許しをいただけますか?」
そうっと差し出された手は、地下処理場で出された時と同じ様に真っ直ぐに王妃フィスティアへと伸びてくる。
「……わ、私は、ガーナード国、王妃です。」
それだけ言うのが精一杯だ…
「十分に存じています。ですが、そのお立場を覆すことのできる方があそこに居りますよ?」
あそこ、とは王座……王妃フィスティアを解放する権限を持つのは国王ルワン。
「聖女が、護るべき国を捨てるなど、出来るわけがありません…!」
「その国の国王が、貴方を捨てたのです。」
どう答えてよいか、この事態を飲み込むこともできずに王妃フィスティアは一歩身を引いてしまう。
そう…私は見捨てられて……
「ガーナード国王は聖女である貴方様を見限りました。最早、貴方様が王妃の座に座ったとしても、地に落ちたガーナード王家の信頼は風前の灯火も同じこと。それがあの嘆願書ですよ…どれだけ貴方様がガーナード国王の隣に座りたいと思っておられても、聖女の解放以外に国民を納得させる手立ては無いのです。」
聖女の力は誤魔化しなど効かない…何があっても王妃フィスティアはガーナード王家を離れるしかこの国を保つ術がない………
「私が…この国を離れて……」
どこに行けばいいのだろう?
「ですから、聖女フィスティア……私の事を憎からず思って下さるのでしたら、私の手を取っては下さいませんか?」