115 ガーナード国奪還の真相
「一つだけお願いがございます。聖女殿。」
フィスティアの礼を受けたセルンシト国第二王子ケイトルが再びフィスティアに手を伸ばしソファーへと誘う。
「なんでございましょう?ケイトル第二王子殿下?」
「…私の事はケイトルと呼んでは下さいませんか?」
王族の者達が敬称を省いて呼び合うのは家族か配偶者に対してだけであり、それをセルンシト国の第二王子ケイトルが知らない訳は無い。そして、フィスティアがガーナード国の者であり誰の妻であるかも勿論騎士の二人は知っているだろう。
「……ケイトル第二王子殿下、私はガーナード国とその後の事が知りたいのです。」
口を押さえて驚きを必死に隠しているエリットがフィスティアの視界に入る。当のセルンシト国第二王子ケイトルとデルトはやや困った様な笑顔を浮かべつつも了承の意を示して、続きを話し出した。
ガーナード国内で起こった内乱は呆気ない最後を迎えた。国王ルワンを処刑し、実権を握っていたハドリー侯爵、ソルダム伯爵、またハンガ国の役人達はその日も当然ガーナード城に登城し政務にあたっていた。探していた聖女が見つかったと選定人カタスから伝えられたハンガ国皇太子夫妻が退室した後も通常通りに会議に出席もしていた。
その時に王家の森から一筋の狼煙が上がる。騎士隊も時折何かの訓練の時には狼煙を使用する。だから、城にいる誰もが王家の森で煙が上がっていても気にも止めなかったのだ。その日には何処の隊をも、王家の森での訓練の予定が入っていなかったとしても……
聖女フィスティアの元から離れ、王家の森へと消えた騎士は一筋の合図を送った。騎士ならば良く知っている狼煙を……
何処かに潜んでいた者達も今日のこの日を今か今かと待ち侘びていた事だろう。ある者は城の中で、ある者は街中で、ある者は森の中で…常の仕事をしている者や、必死に身を隠している者。ゆっくりと上がる合図を元に伝令役が城や街中のそんな者達の間を走り巡った。
この後はごく簡単だった。捕える対象に上がっている者を捕らえれば良いのだ。先程まで味方だと、同僚だと思っていた者達の手で…隙をつかれればどれほどの手練れだとて抗いきれるものではないだろう。軍を結成し国に攻め入るよりも、味方の中から切り崩して行く…仲間を裏切り、敵国に王を売った者達にはこれは相応の対応だった。
首謀者の頭であったハンガ国皇太子オレオンを捕らえたとガーナード国王ルワンが宣言すれば、城内では更に混乱は増し、皇太子オレオンに付き従う者達を捕らえやすくした。
ガーナード国王ルワンを裏切ったハドリー侯爵、ソルダム伯爵、騎士団長下一団、ハンガ国役人に対し、ガーナード国を取り戻そうとするガーナード国の騎士、皇太子オレオンに反発したハンガ国の騎士達が城内のみならず城外においても、国民をも動員し敵側の騎士達を抑え込んだ。