11 突然の悲報
やはり、実家とは良いものだ。
フィスティアは幼い頃から皇太子ルワンの妃候補として名前が挙げられていた為に、他の令嬢と比べて厳しく制約されて育てられた。が、両親は心から慈しんで育ててくれたし、最大限フィスティアの意見を尊重して一人の人間としてフィスティアは大切に育てられたのだ。
「落ち着くものですわね……」
「王城ではこうはいきませんものね?」
気の抜けた顔を見せてしまったかしら?
ニーナがお茶を入れながらクスクスと笑いを噛み殺している。確かに、王城ではこの様に自由気ままにお茶を楽しめる事の方が少ない。式典などがある時には分刻みの予定をいかに問題なく熟すかに精神を集中しなくてはいけなくなる。だから、こんな事はもうあり得ないと思っていたのだ。何も考えずとも良い時間など、まるで天から舞い降りた特上の褒美の様に思えてならない。
「ええ、本当に…カイラスが婚姻なんて、時間が経つのは早いのですね…」
「そうですとも。一緒に絵本を読んでいた妃殿下が皇太子妃におなりですもの、確実に時間は過ぎていますわね。」
穏やかなニーナの声に静かに肯きながら、お茶と共にテーブルへ並べられた菓子類も口へと運ぶ。
「まぁ、美味しい…!」
「はい。旦那様方が皇太子妃殿下の為に取り寄せて下さったお菓子だそうですわ。」
「ま……こんな小さな事を覚えていて下さったなんて……」
「ふふ…お部屋には皇太子様からお花が届けられておりますわ。」
実家にいる間、穏やかに過ごす事が出来る喜びにフィスティアは感謝した。
「ニーナ、貴方もこのお菓子少し持っていきなさいな。口の中でほどける様に溶けていって私のとても好きなお菓子なのよ。」
ハンカチにニーナの分のお菓子を取り分けている、そんな日常だったあの頃と同じ様に過ごす事が出来たのだから。何も言わなくてもこの屋敷にいる者は皆、フィスティアに心を尽くして仕えてくれているのだった。
「伝令!フィスティア皇太子妃殿下に伝令にございます!!」
時は夕刻に差し迫り、自室にて晩餐まで暫し休息を取っていたフィスティアの元に王城より早駆けの伝令官が到着した。
「どうしたと言うのだ!?」
伝令官の慌てふためく様子が尋常ではない。王家の紋入りの意匠の入った茶色の制服を着ているこの者は、確かに王城からの至急の使者だ。
「ドルン侯爵閣下!フィスティア皇太子妃殿下に御取り次ぎを!!」
「姉上ならば、部屋で休まれておられる。王城から言付けがあろう?」
ただ事ではない伝令官の声に、ドルン侯爵、カイラスも玄関ホールまで足を運んで来た。書簡か、言付けか、どちらかをこの伝令官は国王より授かって来ているはず…
「お倒れに…………国王様が!!…
お倒れに成られました!!!」
屋敷中に聞こえるのではないかと言うくらいの大声で、伝令官は告げたのだった…