防衛戦、からの獣王
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リーダー格のオークが爆煙に包まれる姿を見て、残りのオークたちにも動揺が広がる。だが、そこは正規兵の練度の高さ故か、逃げるようなことはせず、恐れながらもミアスへ武器を向ける。
ミアスはリーダー各を倒したことでレベルが上がり、魔力や身体能力の上限が増えているものの、体力や魔力がすぐに回復する訳もなく、万全とは言い難い。
(思ったよりハードだ……炎槍も炎砲も魔力消費が激しいからそう長い間は戦えない。かといって使わなきゃこの包囲は抜けられないよな……)
ミアスの中で、ダタラの里とジャゴラ達の村の防衛、どちらを優先するかで迷いが発生していた。村の方はファルやアイラがいるため、そう簡単に落ちるとは思えないものの、リーダー格のオークの強さから考えると安心は出来ない。
「お前らのリーダーを倒したのは見ただろ?大人しく通してくれないか?」
「ブゴォ。我らは獣王国軍に名を連ねる者。上司が死んだからと言って戦いを辞めることはない!むしろ、仇討ちこそが我が国の望みだ!」
ミアスの提案を跳ね除け、一斉にオーク達が襲いかかってくる。
「くそ、やるしかないな!《炎砲》!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミアスがオークの集団と再び戦闘を開始したころ、ファルは丁度村へと到着した。
だが、ファルは既に戦闘態勢に入っていた。彼の魔力感知で、村に迫る100以上の軍勢がいることを知っていたためだ。
『皆!オークが来るぞ!守りを固め……固まってるな。気づいていたのか?』
ファルが村に警戒を促そうとするものの、既に村人は武器を持ち、防壁に視線を向けていた。
視線といっても、恐怖に慄くようなものではなく、強い殺気を滲ませ、らんらんと輝く視線なのだが。
「ファル、俺が教えた」
『む?アイラが?魔力感知が出来たのか?』
オークの肩に乗って現れたアイラが、ファルに声をかける。
「教えて貰ったら出来た。それよりミアスは?」
『……主に似て成長が早いのだな。主はダタラの里へ向かった。我はこっちの守りに参加するよう頼まれたのでな』
アイラの成長速度に驚きつつも、ファルはミアスの行動を伝える。アイラはミアスが居ないことに少し悲しそうな顔をするものの、オーク達との戦いまで時間が無いことを思い出し、仲間のオークたちへと身体を向ける。
「みんなは前の方で戦って。俺は強そうなのが出てきたら戦う」
「「「わかりました!アイラの姉さん!」」」
短い間に、すっかりオーク達の心を掴んだアイラは慣れた様子で指示を出す。だが生まれたてで戦闘の知識は薄いため、内心では本当に自分の指示があっているのか不安に感じていた。
その様子を、家族であり魂の繋がりがあるファルは感じ取っており、声をかける。
『オーク達は防御力が高い。前線に配置するのは正しいだろう』
「ほんと?ファル?」
『うむ。だがアイラが強者と戦うというのは……少々心配だぞ我は』
アイラが、この短時間である程度の戦闘スキルや技術を得たことはファルも感じていた。それでも、生まれたての家族が強者と率先して戦うというのは不安に思ってしまう。
「大丈夫……多分」
『多分か……まぁ大丈夫だ。危なくなったら我が必ず助ける』
自分が思った以上にアイラのことを大切に感じていることに、胸が詰まるような感覚を覚えつつ、ファルはアイラを助けると宣言する。
アイラは、恥ずかしそうに視線を逸らすそんなファルに笑顔を向けて返事をする。
「ありがとうファル。俺、頑張るね」
『うむ。……それにしてもアイラよ、なぜ一人称が俺なのだ?』
ファルはそこが気になっていた。アイラの見た目は完全に女性であり、性格もおっとりしたものであるにも関わらず、一人称が俺なのは違和感がある。
だが、アイラの答えは至ってシンプルだった。
「ミアスの真似」
そう、彼女にとってはただそれだけの理由だった。
『……なるほど。納得したぞ。む……敵が来るぞ!皆の者!ミアスの帰りまで村を守るぞ!』
「「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」」
アイラとファルの緩い雰囲気はなくなり、オーク達との戦闘が開始される。彼らの主であるミアスのため、自分たちの命を守るため、アイラやファル、ミアスの配下達は戦いに望むのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミアス達の村から、森の奥へと進んだ先、そこにはオーク達が作り上げた巨大な獣王国が鎮座している。
都市は石造りで整備された建物が並び、行き交う生命は金銭を用いて暮らしを営んでいる。学校などの教育現場すら用意されており、ミアスが見れば驚きで声も出せなくなるような発展を遂げた都市がそこにはあった。
そんな都市の中央、獣王が住む王宮の中、巨大で荘厳さと畏怖を示した龍の玉座に座る王に、一匹のハーピーが膝を着いて報告を行っていた。
その額には大量の汗が滲んでおり、今にも気を失いそうになりながらも、そんなことをすれば自分の命はそこで終わるとわかっているため、ハーピーは懇親の力で獣王の威圧に耐える。
一方、獣王は威圧など意識して行ってなどいない。ただ、彼の中に渦巻く強大な魔力の一端が盛れだしているに過ぎない。
「……良い、発言を許す」
声にすら、威圧の魔法でもかかっているのではないかと言うほどの重みを持った一言で、ハーピーは発言を許される。
「ほ、報告します。開拓村へ進軍した部隊の1つが全滅しました」
その報告に、玉座の間は騒然とする。開拓村の戦力ごときに負けた事実を信じられないということ、また、ハイオークを含む部隊を壊滅させるような戦力が開拓村にあるという可能性を考えて。
「……何がいた。ただの村民が出来るはずもない」
「は、はい。ドレイクらしき存在と、人型の生命体がいました。その二名が部隊を壊滅させ、開拓村を支配下に置いたようです」
「支配下……だと?」
獣王がその一言に対し、訝しげに反応する。その態度が不況を買ったと考えたのか、ハーピーの精神は限界を迎え、その場に倒れふす。
「……軟弱な。まぁよい、そのものの情報を整理して報告しろ。そもそも雑兵の稚拙な報告を王に直接届けるなぞ……どういうつもりだ?ブダート」
獣王は玉座の間にいる、一匹のオークを呼び出す。そのオークは細いものの、獣王に負けないほどの存在感と魔力を持っていた。だが、その瞳には獣王への嫌悪が滲み出している。
ブダートと呼ばれたそのオークは、獣王の前まであゆみ出てわざとらしい仕草で膝を着く。
「……平等を謳うか?それとも下々の兵に対する待遇改善か?どちらでもないならば……我に対する嫌がらせか?どちらにせよ下らない。お前のやることはいつもそうだブダート」
「……私は、兵の損害を抑えて欲しいのです。徴兵された民は捨て駒のように扱われる。最近ではハイオークでさえそのような扱いになっています!陛下、私はどんな兵にも人格があり、生きる権利があると認めてほしーー」
ブダートが意を決して、獣王へと言葉を紡ぐ。だが、その発言はブダートの顔寸前まで迫った獣王の拳によって止められる。
魔力を抑えない、獣王の圧力と、眼前に迫った拳はいとも簡単に自分の命を刈り取れる事を感じたブダートは、唾を飲み込み口を噤んだ。
「ブダート、我が弟よ。少し……煩いぞ?」
「し、失礼しました陛下。何卒、お許しを……」
その獣王の行動で、ブダートは頭を下げ許しを乞う。ブダートは、獣王に近くとも、その差を埋めるためには多くのものが足りない。その最たるものは純粋な力、暴力であった。
「……開拓村周辺には竜兵部隊が向かっていたな?」
「はい、陛下」
「出先から負けてはつまらん。ブーデンを送って指揮をとらせろ、いい訓練の場になるだろう。異論はあるか?」
その獣王の問いには、返答など期待されていない。異論は反逆であり、発言した次の瞬間には、自分はこの世にいないと分かっているからだ。
獣王の指示に従い、一匹のオークが、開拓村へと旅立った。
狂気に渦巻く瞳を持ったオークが。
『武技』
武器や己の拳を使って繰り出す技。威力や効果は本人のイメージに頼るため、その応用は無限と言ってもいいが、武技の多くは他人に伝達、使用してもらうという目的から決まった効果と名前を持つ『型』と認識されていることが多い。