ダタラの里、からの激闘
いつもと少し時間を変えてみました。
「……速くなったか?ファル」
ダタラの住処へと向かうミアスは、後ろを着いてくるファルに振り返り、声をかける。
全速力ではないにせよ、前にファルと併走した時よりも速い速度で走っているミアスに、ファルはなんとか追いついていた。
『オーク達との戦いでレベルもスキルも上昇したのだ!だが、もう少し速度を弛めてくれると嬉しいぞ主よ!』
「限界ギリギリ位の方がスキルレベル上がるんじゃないか?」
息を切らすファルに対し、ミアスはさらに速度をあげる。
『主ぃぃぃぃぃ!』
ファルが全速力を出してぎりぎり追いつけるかどうかの速度でミアスは岩山へと向かう。
既にダタラの集落は魔力感知の範囲に入っているものの、その付近に50近い魔力の反応もある。
(多分オークだな。際どいとこだけどこっちの方が先に着けるはず……。んー、思ったよりもオークの動きが速い。こりゃさっさと村へ戻らないと不味いな)
アイラは生まれたてだとは言え、村の人々よりも強い。それに加えてミアスの配下は強化されているから一方的にやられることは無いとミアスは予想していた。それでも、犠牲が出る可能性は十分にあるし、すぐにでもダタラ達を配下に加え村に戻る必要がある。
『間に合いそうか?!主!』
「大丈夫だ!オーク達の足は遅……くない?!」
ミアスの魔力感知で捉えたオークの反応は、ミアス達ほどではないにせよ、かなりの速度で移動していた。
「速すぎだろ!このままじゃ間に合わないぞ!」
『主だけでも先に行け!我は後から行く!』
「わかった……って言いたいとこだけど、半分は別れてこっちに来てるな。気づいてるのか」
ミアスがオーク達の魔力反応を感知して、場所を割り出したように、オーク達もまた、ミアス達の魔力を感知していた。
ミアスやファルは、普段から魔力を隠していない。普段から外に漏れ出てるという訳では無いものの、威圧にならない程度の魔力は流出していて、その魔力を感知されたのだ。
『どうするのだ?主よ』
思ってもみない状況に、ファルは指示を仰ぐ。ミアスはその問に少し考え、珍しく神妙な面持ちでゆっくりと答える。
「……ファル、村へ戻って守りに参加してくれ」
『何?』
だが、その答えは思ってもみないものだった。ミアスにその気がないにせよ、ここまで着いてきたのに敵が来たから帰れなどと言われれば、ファルも自分の力が足りず、どこか役に立たないと言われているように感じてしまう。
その結果、わずかに怒気を含んだ返答になってしまう。
『我の力が信用ならんということか?』
「違う。信用してるから言ってるんだ。このオーク達の速度と魔力感知の練度から考えて、思ったよりも獣王国は強い。村にはアイラがいるしみんなも強くなったから大丈夫だと思ってたけど……それも微妙だと思う」
『……それで我に帰って村を守れ、というのだな?』
ミアスは、自分は心のどこかで、この世界の生命をなめていたのだと感じ、その馬鹿らしさに苦々しい表情を浮かべたまま話す。
オーク達の進軍速度も、その練度も、ミアスが思っている以上に速く、強い。そのため、大切な家族や、仲間を守るためにも信用のおけるファルを村に戻すという判断を選んだ。
『……わかった。だが、主こそ大丈夫か?かなりの数がいるだろう?』
「大丈夫。やってやるさ。それよりも、アイラや皆を頼んだぞ?」
『了解だ。我が完璧に守って見せよう』
まだ、完全な納得はしていないものの、ミアスが自分を信頼しているのはわかったし、家族を守れと言われれば断る訳にもいかないファルは、来た道を戻っていく。
それを確認したミアスは、申し訳なさそうに頼んだ、と呟き、自分へと向かってくるオーク達へと視線を向ける。
魔力で視力を強化し、遠くにいるオーク達の姿を視界に捉える。
「ドレイクに乗ってるのか。通りで早いわけだ……」
オーク達は鎧を着たドレイクに跨っていた。そのため、本来足の遅いオーク達であっても、岩場や森林を高速で動くことが出来る。
ミアスもオークも、お互いの位置は魔力で捉えているため、最短距離で近づいていく。
オーク達はミアスに近づくと、散開してミアスを囲むように展開した。
声が届くほどの距離まで近づくと、オーク達の中でも一際大きな魔力を放つオークがミアスへと話しかける。
「何者だ。我らは獣王軍騎竜部隊。用のないものをこの先に通す訳には行かぬ」
ミアスは間近でそのオークの魔力を感じ取り、魔力の量はそうでも無いものの、体内の魔力が淀みなく巡っているのがわかり、ハイオーク以上の強さを持つと判断する。
「俺はダタラ達に用があってきた。その言い方的に、用があったら通ってもいいんだよな?」
時間に余裕が無いミアスは、わざと魔力で威圧しながらオークの問に答える。
(オーク達はもうダタラ達の里に着いてる。ここで時間を使う訳にはいかない)
「……用があったとしても、素性のわからぬ者を通すことは出来ぬ」
そういって、オーク達は一斉に武器を構え、ドレイク達も口の中に炎を溜めながらミアスへと口先を向けた。
四方を囲まれた状況で、ミアスは一気に身体強化を全開にし、空中へ大きく飛び上がる。
「押し通るさ!《炎矢》!」
飛び上がったミアスに、ドレイク達は一斉に炎を吐き出す。それをミアスは魔力によるシールドを作り出すことで防ぎ、リーダー格のオークに向けて魔法を放つ。
「ブゴ、その程度で抜けれると思ったか!」
だが、リーダー格のオークは炎で出来た矢を斧で叩き斬る。そしてそのままドレイクを走らせ、落下してきたミアスへと突撃する。
「ブゴォ!」
「危なっ?!くそ……火力が足りない!」
その一撃を既のところでかわしたミアスは、自身の魔法では威力が足りないと悪態をつく。
だが、ミアスはそれで諦めたりはしない。彼にとって、火力が足りないのならば、高火力の魔法を使えるようになればいいだけの話。普通ならば、それは時間と努力を必要とする。しかし、ミアスならば出来てしまう。
(魔法を発動する時、感覚に頼りすぎだな。魔力の操作が甘いから威力が低くなってるのもある……あと、矢っていうのもダメだな。正確性はあっても高い威力がイメージしずらい)
魔法は、魔力を別の形に変換することで使用することが出来る。だが、その別の形というのは使用者のイメージに頼るため、矢では鎧を貫けないというイメージを持ったミアスでは、《炎矢》で高威力を出すことは難しい。
連携の取れたオーク達の攻撃をかわしながら、新たに獲得した《高速思考》スキルで思考速度を加速して考え続ける。
(矢よりも高威力……尚且つ遠距離攻撃、これだな。やってみるか)
イメージを変え、ミアスは新たな魔法を作り出す。両の手のひらから放出された炎は、高密度に圧縮されながら円錐形に形成される。
「《炎砲》」
炎矢とは比べ物にならない魔力を込められた炎の砲弾は、追加で手のひらから放出した炎を推進剤に、凄まじい速度で近づいてきたオーク兵の一騎にぶつかる。
「ブゴォォォ?!」
砲弾は金属の鎧を砕き、衝撃からふわりと浮かんだオークの身体に深刻なダメージを与える。だが、それだけでは終わらず、ミアスのイメージ通りに作られた炎の砲弾は内部の炎を撒き散らしながら爆発した。
《『魔力操作Lv5』が『魔力支配Lv1』に進化しました。》
《『魔力感知Lv4』が『魔力支配Lv1』に統合されました。》
《『炎属性魔法Lv5』に上昇しました。》
《『炎属性魔法Lv5』が『炎王属性魔法Lv1』に進化しました。》
ミアスの頭の中にスキルの情報が鳴り響く。だが、その効果は身体や感覚に大きく現れていたため、詳しく聞く必要は無い。
『魔力支配』というスキルを獲得したことで、魔力の操作が別物と言っていいほど行いやすくなり、魔法への理解も深くなる。
「くっ、私が相手をする!貴様らは援護だ!」
仲間のオークが一撃で落とされた上、ミアスの纏う雰囲気が大きく変わったことからリーダー格のオークは前に出ていく。
「《炎砲》」
「ブゴォォォ!《断裁》ぃぃぃぃ!」
前に出てきたオークに、ミアスはスキルのお陰で格段に発動が楽になった《炎砲》を放つ。それをリーダー格のオークはドレイクに乗りながら放った武技で迎え撃つ。
斧から離れて、ミアスにまっすぐ進む斬撃と炎砲がぶつかり合い、衝撃波と炎の爆発が当たりを包む。
「ブゴォォオオオォォ!」
オークはその爆発の中を突っ込み、爆発で思わず姿勢を崩したミアスに落下の速度を乗せた斧の一撃を向ける。
かわすのは間に合わない、そう判断したミアスは咄嗟に体内の魔力を炎に変換しながら放出し、炎砲よりも高密度に固めて槍のような形を作り出す。
『熱変動耐性』を持っていること、また自身の魔力で作り出した魔法ということからミアスはその炎で出来た槍を両手に構え、頭上から振り下ろされた斧を何とか受け止める。
「なにぃ!」
「ははは、やれば出来るもんだな!おら!」
咄嗟に思いついたままに行動したものの、まさか防げると思わなかったミアスは笑いながらその槍を振り上げ、オークとの接近戦を始める。
ミアスの身体は、身体強化で強化されているためにオークの身体能力に引けを取らない。だが、槍を扱うのは初めてということ、またオークが騎乗していることから徐々に形成が悪くなり、傷が増えていく。
《『槍術Lv1』を獲得しました。》
だがそれも、ミアスが槍術スキルを獲得するまでの話であり、スキルを獲得して、ミアスから無駄な動きが減っていく。
それどころか、技量の高い相手との戦いのため、凄まじい勢いで自身の欠点やミスを修正していく。
《『槍術Lv2』に上昇しました。》
スキルレベルが上がれば、傷をつけられることはなくなる。
《『槍術Lv3』に上昇しました。》
さらにスキルレベルが上がれば、防戦一方の状態からお互いに攻守が入れ替わる互角の戦いになる。
《『槍術Lv4』に上昇しました。》
そしてついに、オークの鎧に炎の槍が届き始めた。
(なんなのだ!この成長速度は!)
オークは目の前の生命の、信じられない成長速度に戦慄する。自信が何年もかけて鍛え上げた技量に、この生命は一瞬で追いついて見せたのだ。
「ブゴォォォふざけるなぁァァァァァァ!《断山》!」
技量は追いつかれても、長年の戦闘経験から裏打ちされた駆け引きまでミアスはできるようになったら訳ではなく、わざと隙を見せたオークに誘い込まれ、渾身の武技を打つ余裕を与えてしまう。
だが、ミアスは誘い込まれた事に慌てず、すぐさま槍を握り直して振り下ろされた斧に向かって全力で投げつける。
「《炎槍》!」
高密度に炎で出来た槍は、衝突した斧に高熱を与え、斧の刀身は今にも溶けだしそうなほど真っ赤に染る。そして、その柔らかくなった刀身を、ミアスは渾身の蹴りで叩き壊す。
「なにぃぃ?!」
武技を魔法で受け止められ、更には武器を破壊されたオークは冷静さを失い、思考を止める。その瞳には、両手の前に炎の塊を構えたミアスの姿がうつっていた。
「《炎砲》」
「ブゴォォォォォォォオ!」
直後、オークの視界は真っ赤に染まり、その身は炎に包まれた。
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