アイラの教育、からのオークの贖罪
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新しい家族として、ニアハイオークのアイラが誕生した。
だが、ファルのように神の魂の欠片が混ざったわけではないため、人格の形成が乏しく、ファルやミアスを家族として認識したものの、混乱している事に変わりはない。
「よし、アイラ。自分のステータスはわかるか?」
「ステータス……出た、ニアハイオークって書いてある」
「お、ちゃんと出来たな。ランクはなんて書いてあるかわかるか?」
「……5って書いてあるよ、ミアス」
アイラは会話に慣れてきたのか、ミアスの方を向き先程よりもハッキリと答える。ファルと違い、ミアスに対しては主従関係よりも家族にも近い関係を選んだようで、敬称をつけることなく呼び捨てにする。
最も、ファルもミアスもまったくその事を気にする様子はない。
『我と一緒か……スキルはどうなのだ?』
「スキルは……あんまりない。エクストラスキルって所に『剛力』っていうのがある」
『「剛力?」』
ミアスもファル、どちらも持っていないスキルをアイラは持っていた。
これはハイオーク由来のものではなく、ニアハイオークという種族独自のものであり、ハイオークの持っていた技術系スキルは失われていた。
だが、『反応』や『身体操作』といった無意識的なスキルは受け継いでいるものが多い。
「力が強くなるスキルか?それって常時発動?それとも意識した時だけ力が強くなるのか?」
「なんか……多分いつも強くなる、感じ?」
ミアスの質問に、アイラは首を傾げながら答えた。
「なるほど、じゃあ慣れれば戦闘面も強くなりそうだな。よし、検証はこれくらいにして……まずは服を着なきゃだな。かなり刺激的な格好になってるし……」
アイラは所々にハイオークの特徴が混ざっているものの、ヒューマンの女性に似た体つきをしている。だが生まれたてゆえ何も身につけておらず、かなり刺激的な格好になっていた。
ミアスは彼女を家族として認識しているため、欲情することは無いものの、このまま村に連れていく訳には行かず、一度ファルにアイラを任せた上で、ミアスは走って村へと服を取りに行くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミアスから服を受け取ったアイラは、そのままファルの背中に乗って村へと向かっていく。
「……ファル、背中大きい」
『そうだろう、我は大きいのだ』
妹のようなアイラに褒められ、満更でもない様子のファルを見ながら、ミアスもまた村へと歩いていく。
少し移動したところで村へ着く。相変わらず復興はハイスピードで進み、至る所から工具や、指示といった工事の音が響き渡る。
「ジャゴラは……あ、いたいた。おーい!ジャゴラ!」
「む?ミアス様!お戻りでしたか。む、そちらの女性は?」
「ハイオークの生まれ変わり。アイラだ。記憶はないし、性格も受け継がれてはない。種族もニアハイオークっていう違う種族だ。どうか、受け入れて欲しい」
いくら人格や記憶が無いとはいえ、ハイオークの生まれ変わりと言うのは受け入れづらいと考えたミアスは、わざと周辺の村人にも聞こえるよう大きな声でジャゴラへと願う。
「アイラ様、と言いましたな?」
「うん、俺はアイラだよ」
「アイラ様は……ミアス様やファル様をどう思っておられますか?」
「家族」
ジャゴラの質問に、アイラは即答する。
その答えがジャゴラにとってはいいものだったのか、緊張感のある顔立ちから、孫を眺める祖父のような優しい顔へと変わり、ミアスへと身体を向ける。
「ミアス様の家族を、受け入れない訳がありません」
「そうか、ありがとう。アイラは身体は大人だけど、生まれたばかりで分からないことだらけだ。困っていたら助けてやって欲しい。みんなも、頼むぞ!」
そういってミアスは村人達へ頭を下げる。その様子を見たアイラはファルの背中で、慌てて同じように頭を下げる。
その光景は微笑ましく、村人達の中にほんの少しだけ残っていたハイオークへの不安も消え去った。
『それにしても……さっきよりも復興が進んでないか?』
「皆も大分作業に慣れてきたのです。住居はほぼ復興が完了し、今は防壁とミアス様の家を建設しております」
前までの速度は全力ではなかったことに戦慄するファル。
ミアスは、その速度よりも自分の家を建設しているという所が気になった。
「防壁はわかるけど……俺の家?」
「はい。ファル様でも入れる大きさの物を建てているのですが……いかんせん我らには技術が乏しく……」
村人達の建てる建物は、素人のミアスからしてもそこまで立派なものではなく、ミアスやファルならば直ぐに壊せてしまう程度のもの。そのため、ミアスはファルが入るほど大きな建物を建てる技術がないというのも直ぐに納得する。
「技術か……オーク達が持ってたりしないか?」
「彼らにも聞いてみましたが……我々とほぼ差がないようでして」
「そうか……、ていうかオーク達何やってるんだ?」
「村を回って謝罪をした後は死者の墓を建てさせて欲しいと村の外れへと向かいました」
「……殊勝な心がけだな」
オーク達は本当に心からの謝罪をしたようで、ミアスは安心する。
「全くです。技術の話に戻りますが、建設だけでは無く、鍛冶などの技術も足りません」
「そうなのか?武器とか防具あったろ?」
「あれは国からの支給や取引から入手したものなので我らが作ったものでは無いのです。勿論、村人の中に鍛冶師はいますが武器や防具を作る知識はなく……」
申し訳なさそうにするジャゴラに、ミアスは気にする必要は無いと声をかける。だが、このまま技術がない状態というのはまずい。オーク達が防具や武器を持っていたことから、獣王国は間違いなく鍛治技術があり、予想される侵攻でミアス側が不利になるのは間違いない。
「ん、待てよ。今取引って言ったよな。何処と取引してたんだ?」
「王国との取引が多いでしたが……たまにダタラという種族との取引をしてました」
「ダタラ?なんだそれ」
「1つ目が特徴の種族で、鍛冶をとても得意しているんです。あの山が見えますか?彼らはあの山の麓に住んでいるのです。遠いので頻繁には取引出来ませんでしたが……」
ジャゴラが指さす方向には、程々の大きさの岩山があった。
「……ダタラか。仲間に欲しいな」
仲間を増やすことに躊躇がなくなってきたミアスはそう呟く。
「確かに、いい考えですな。ですが……彼らは職人気質で難しいのです。そう簡単に仲間になってくれるとは……」
「まぁ行ってみないとわからない……あ、オーク達」
ダタラの住処へと向かうことを決めたミアスの視界に、墓を立て戻ってきたオーク達の姿がうつる。
「おかえり、墓を立てたんだって?」
「ミアス様!はい、謝罪の心を伝えるために……」
「そうか、いい心がけだな。あ、紹介する。新しい家族、アイラだ」
ハイオークの生まれ変わりとは伝えなかったものの、オーク達はアイラから何か感じるものがあるのか、少し不思議そうな顔をする。
「……アイラ。よろしく」
そんなオーク達に、アイラは短く挨拶する。
「気づいたか?アイラはハイオークの魂の生まれ変わりだ。記憶も性格も綺麗さっぱり無くなってるからハイオークとは別人だけどな」
「なんと!彼女が……では、我々と近い種族なのですか?」
「……ニアハイオーク。近いと思う」
「おお、ニアハイオーク。ランクは5!」
「5?!つ、強い!」
オーク達の反応に、アイラは嬉しそうにしている。
(なんか、気が合ってるな)
その後も、アイラとオーク達はなにやら楽しそうに会話を続ける。
「……オーク達、アイラはランクは高いけど技術系のスキルがないらしい。だけど力とかはオークに近いはずだから、時間があったら色々教えてやってくれないか?」
「お、俺からもお願い、します!」
ミアスはその様子を見て、オーク達にアイラの戦闘技術を育てて欲しいと頼む。ミアス本人や、ファルが教えられることもあるが、ミアスは成長速度が早い分、直感的にやってる事が多いため教えるのには向いていないという自覚があり、ファルは体格が違いすぎる。
そんなお願いに、アイラも同じく頭を下げる。
「勿論です。アイラ様、よろしくお願いします」
そのおねがいに、オーク達も膝をついて答える。
「様、いらない。呼び捨てでいい」
「それでは……アイラの姉さんと呼ばせていただきます!」
「「「よろしくお願いします!アイラの姉さん!」」」
呼び捨てでいいと言ったのに、思わぬ呼び方になってしまいアイラはよく分からないと言った顔で首を傾げる。
「ははは、じゃあ俺がダタラの所へ行ってる間、アイラを頼む。ファルは俺と一緒な」
『わかった』
「ダタラ……ダタラと言いました?ミアス様」
アイラの預け先が決まったところで、ダタラの住処へ行くという話に戻すと、オーク達が反応してくる。
「あそこの岩山に住んでるダタラの所に行こうと思ったんだけど……知ってるのか?」
「ハイオークの連中がダタラって種族の鍛治技術が欲しいって言ってたような……」
「何?ってことはオーク達もダタラを狙ってる可能性があるのか。不味いな、急いでいかなきゃダメみたいだ」
オーク達の方が先にダタラと接触するのはミアス達にとって不味い。そのためミアスは今すぐにでも出発しようとしていた。
「ミアス様!もう行かれるのですか?」
「オーク達より先に行かなきゃならないからな。俺たちの家は後回しでいいから防壁を仕上げといてくれ。オーク達はアイラに戦闘技術を教えるのと、暇だったら工事の手伝いだ。いいな?」
「「はい!」」
「アイラ、みんなと仲良くな。帰ってきたら俺からも色々教えるから」
「わかった、俺待ってる。行ってらっしゃいミアス」
「いってきます、アイラ。よし、行くぞファル!」
少し心配そうなアイラの頭を撫で、全身に魔力を流して身体能力を強化したミアスは一気に走り出す。ファルも、若干遅れながらミアスへとついていく。
その様子を、上空から1匹の生物が眺めていることに、誰も気づいていなかった。