宴、からの新しい家族
評価、ブックマークが増えてきていて、嬉しい限りです。これからも頑張ります。
「んん……やべ!寝ちゃってたのか?!」
宴で食べて飲んでのどんちゃん騒ぎをしている内に、ミアスは眠ってしまっていたらしい。しかもファルの背中で。
「いてて……身体がカチコチだ」
『起きたか主よ。我の背中なんぞで寝るからそうなるのだ』
「仕方ないだろ寝ちゃったんだから。それよりもなんか騒がし……はぁ?!」
ミアスの視線の先には、筋骨隆々とした住人達が凄まじい勢いで村を復興させている様子だった。
「……はぁ?!」
『何度目を擦っても現実だぞ主。奴ら主が寝たあとすぐさま宴を撤収し復興を始めたのだ』
あまりにも現実離れした出来事に、ミアスは目を擦りもう一度眺める。それでもなお、相変わらず住人達は謎のハイテンションで復旧を行う様子が目に入る。
しかも、復興の速度は尋常ではない。最早手放す事も視野にいれるほどの荒廃度だったのにも関わらず、瓦礫は撤去され、木々の伐採が進み凄まじい勢いで建物が建設されていく。
ミアスの配下になったおかげで能力やスキルが強化されたこともあり、生産系のスキル持ちが先導して、通常からは考えられない速度で作業しているのだ。
「おかしいだろ……まだ昼間ってことは半日とちょっとだよな?早過ぎないか?ていうか俺は寝すぎじゃないか?」
『進化の後は身体の中身を整理するのに長い休息が必要、とあやつらは言っていたぞ』
「なるほど。たしかに身体がすっきりしてる気がする」
『そうなのか?強くなったのはわかるが。しかし、主は強くなるのが速いな。生まれた時は主を守る必要があると思ったが、今ではすっかり立場が逆だ。住人達ではないが、我も主に返せるものが少ない』
ファルは治療を受け、背中で自分の主が寝ている間、そんなことを考えていた。
戦いに参加するのも遅れ、それでいて主よりも弱くなってしまった自分に、返せるものがあるのだろうかと。
「何言ってんだよ。お前は俺が生み出した存在、子供みたいなもんだろ?家族なんだから、そんなこと気にすんなよ」
悩みを持つファルに、ミアスはあっけらかんと言い放つ。
『我を……家族と呼んでくれるのか』
ミアスの言葉に、ファルは今までに感じたことの無い、もどかしくも温かい感情を抱いていた。
『……ならば、家族を守るために我は強くならねばならないな』
「おう。これから家族も増えるしな」
『む?吸収したハイオークの魂を使うのか?』
「そゆこと。この感じじゃあいつらも反対しなさそうだしな。あ、そういえばオーク達どうなった?」
吸収したハイオークの魂を使い、ファル同様新たな生命を作り出すことを決めたところで、ミアスは戦闘不能にしたオーク達のことを思い出す。
『あぁ、あのオーク達なら村人たちと我で拘束した。ある程度の治療は行ったから死んでは無いはずだ。いまから向かうか?』
「そうだな」
『なら、我の背中に乗っているといい。まだ寝起きで動く気にならないだろう?』
「……じゃあお言葉に甘えるとするかな。頼むよファル」
ファルのどこか自分を認めないような態度から、少しづつではあるが、距離を詰めようとしている様子を見て、ミアスは笑顔になりながらファルの背中に寝転がる。
「ミアス様!お目覚めになられたのですな!」
場所に着くまで、もう一眠りを決め込もうとしたミアスの耳に、聞き覚えのある声が届く。
「ジャゴラか……誰だお前?!」
声は村長であるジャゴラのもの、だが、見た目は筋骨隆々の若者だった。
「お忘れになられたのですか?!ジャゴラです!村長の!」
「尚更混乱するわ!初老の男がなんでムキムキのイケメンになってんだよ!」
『主よ……配下になった者の変化は劇的だぞ?ジャゴラだけではない、他のもの全員がこんな感じだ』
「なん……だと……」
驚愕の事実にミアスは衝撃を受ける。
「皆、ミアス様の配下になったことを心から喜んでおります!村の復興も2.3日あれば終わるでしょう!」
「もう色々衝撃的だ……」
「して、ミアス様とファル様はどちらへ?」
「オークのとこだよ。あ、せっかくだから聞くんだけど、俺が倒したハイオークの魂を使って新しい命を生み出したら嫌か?」
「新しい命をつくれるのですか?!ううむ……嫌悪感が無いわけではないですが、記憶や性格はどうなるのです?」
「……正直わからん」
記憶や性格がどうなるのか、それはミアスにもわからなかった。ファルを生み出した時は、自身の魂から竜神の魂の欠片が分離し、それがレッサードレイクの魂と混ざったこと今のファルの人格が出来上がった。
今回も、自身の魂から分離するのか分からないし、ミアスは世界のシステムに意志を伝えているような感覚であり、自分でどうこうしている感覚は乏しい。
そのため、ジャゴラの質問に正確に答えることは出来なかった。
「……もし、記憶や性格がそのままであるなら、許容できないものもいるでしょう。ですが、最低限ミアス様を裏切らないのならば、我らとしては構いません」
ジャゴラ達の中には、オークに家族を奪われたものも多い。そのため、性格や記憶がそのままで、言わば蘇るような現象は受け入れ難い。それでも、自分たち同様、ミアスに忠誠を誓い裏切らないという確約があるのならば、ミアスのために受け入れる努力をしようと考えた。
その覚悟はミアスにも伝わる。
「……わかった。もし、ハイオークの人格や記憶がそのままだったとしても、お前達に危害を加えるような事は俺が許さない。これだけは約束する」
「ありがとうございます。それでは、我らは復興を勧めますゆえ、失礼します」
そういって、ジャゴラは復興の指揮をとるべく村へと帰っていく。
「……これから生み出すのは家族だけど、ちょっと不安要素ができちゃったな」
『そうではあるが……家族なのだ。教えればいい』
「はは、そうだな。ファルにとっては弟みたいなもんだし」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
村から少し外れた場所、そこにオーク達は拘束されていた。
彼らは獣王国の兵士であるものの、ハイオークのように生まれが戦士や兵士という訳ではなく、戦争に際して徴兵されたもの達であったため、ミアスやファルとの戦いで完全に心が折れていた。
ゴブリンやヒューマンを倒す簡単な作戦だと言うから、家族にも必ず帰って来れると言っていたのに、こうして負け、拘束されている。
そんな所に、ファルの背中にのったミアスが現れる。その瞬間、オーク達は死の恐怖からか声にならない声を上げ暴れ始めた。
「おー?めちゃくちゃ怖がられてるな、ファル、なんかしたか?」
『怖がられてるのは主だろう』
「ブ、ブコォ!殺さないでくれ!家族が、家族がいるんだぁぁぁぁ!」
「ブコォォォォァァ」
「今んとこ殺す気はない……まぁ態度次第ではあるけど。まずは質問、お前らは獣王国から来たのか?」
態度次第という言葉からか、オーク達はなんとか発狂寸前だった心を落ち着かせ、頷く事で答えを返す。
「ふむ。じゃあ次の質問、お前らが全滅したとわかった時、獣王国は再び攻めてくるか?」
「ブゴ……こ、ここの村を攻める作戦は間違いなく成功すると思われてたから……俺たちが帰らなければ怪しむだろう!」
「そ、そうだ。俺はここに軍事拠点を構えるつもりとか聞いたぜ?!だからまた来ると思う!」
我先にとオーク達が質問に答える。色々噂話や憶測が混ざっているものの、ここが獣王国にとっての前哨基地になる予定だったというのは間違いではなさそうだとミアスは判断した。
「なるほど、じゃあやっぱり備える必要があるか……よし。それじゃあ最後の質問だ、お前ら、獣王国に忠誠を誓って死ぬか、俺の配下になって生き延びるか、どっちがいい?」
ミアスは、ほんの少し、魔力を出すことによって威圧しながらオーク達に尋ねる。
「「「ぜ、ぜひ配下に!」」」
オーク達は、全員が声を揃えて即答する。そしてその瞬間、ゴブリンやヒューマン達同様、ミアスとの魂の繋がりを獲得した。
《『神々の祝福』、『神々の呪い』が発動しました。》
《新たに12の配下を獲得しました。魂の繋がりを構築しました。》
オーク達は配下になることで強化され、それに伴いミアスの魔力量も上昇する。
「うぉぉぉお?!力が!力が湧いてくる!」
「なんということだぁぁぁぁぁぁ」
「ブゴォォォォォォォ!」
「お、お名前を!お名前をおきかせください!」
「ミアスだ。よろしくな」
力が湧いてくることに狂喜乱舞し、既に拘束していた縄やロープを引きちぎっているオーク達をみながら、なんとかミアスは名を名乗る。
(なんで俺の配下になるとこうなるんだ……まぁ2回目だから多少は慣れたけど。よし、次はハイオークの魂だ)
「お前ら、村で復興を手伝ってこい。無論、村人たちには手を出すなよ?あと、お前らに家族を殺された奴もいる。同じ配下だからってそういった恨みが消えるわけじゃないんだ。それ相応の態度をとれよ」
「わかっています。ミアス様。よし、お前ら!まずは誠心誠意の謝罪だ!いくぞ!ブゴォォォォォォォ!」
「「「ブゴォ!」」」
信じられない程の変わりようで、オーク達は村へと駆け出していく、
不安ではあるものの、魂の繋がりを獲得したからか、オーク達は本心からの謝罪をしようとしていることを理解したミアスは大丈夫だろうとハイオークの魂から新たな生命の構築に取り掛かる
「よし、行ったな。それじゃあハイオークの魂から新たな生命を構築」
《構築スキルにより、ハイオークの魂の情報から新たな生命を誕生させます。》
《『神々の祝福』が発動。ハイオークの魂から、新たな生命、ニアハイオークが誕生しました》
ミアスの魂の中から、ハイオークの魂が分離し、形を変えながら新たな生命として、再びこの世界に誕生する。
生まれるニアハイオークは、オークのような巨体を持つ訳ではなく、ヒューマンと変わらない体格ではあるものの、その筋肉は強靭であり、要所要所に身を守るための獣のような毛が生え、口には牙があるといった姿だった。
そして、胸には大きな膨らみがあった。
「女?にしても随分変わったな……」
「が、ガァ?お、おれは?なんだ?ここは?」
「混乱してるな。とりあえず、俺がお前を生み出したミアスだ。お前、産まれる前の事覚えてるか?」
「ミアス?生まれる前……覚えてない。俺は……なんなんだ?」
「……やっぱり、元となる人格とかがないと混乱しちゃうんだな。ま、そりゃそうか。身体は発達した状態なのに記憶がなかったら困るよな。よし、お前の名前は今日からアイラだ。分からないことが多いと思うが、よろしくな」
「あ、アイラ?わかった……名前、アイラだな?そして、ミアスが俺を生み出してくれた、主人?」
「よしよし、段々落ち着いてきたな。まぁ……主人とするかどうかは任せるよ。俺にとってアイラは家族、ここにいるファルもな」
「家族?……なんとなく、わかった」
混乱してはいるものの、アイラはミアスとファルを家族として認識する。
前の記憶を持っていないことに安堵しつつ、ミアスとファルは顔を見合わせて新たな家族の誕生を喜ぶのだった。