進化、からの名付け。
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住民たちから少し離れたところで、彼はレベルが最大になったために、進化を行おうとしていた。
彼の進化の意思を感じた世界のシステムは、彼に進化先の選択肢を示す。
《進化先》
・原初の生命(獣竜) ランク2
・リザードマン ランク2
・ドレイク ランク3
・ハイオーク ランク5
・ニアヒューマン(竜) ランク2
「……なんか色々と表示されたな」
原初の生命(獣竜)というのは、今の彼の種族とほとんど変わらない。今の歪な人型に竜の要素を加えたような見た目に、少し獣感が加わるのだろう。
「わからないのはニアヒューマンって奴だな。ファルの種族が確かニアドレイクだったから……ヒューマンの変種?それって今よりも人に近づくってことか?」
……彼は村人に怖がられたのを、自分の強さよりも見た目が原因だと考えていた。そのため、異形な姿を予想される原初の生命や、人の姿から離れるような選択肢はあまり選びたくなかった。
彼の魂の知っているファルからしてみれば、彼はとっくに人ではないのだが。
「よし、ニアヒューマンを選択」
《種族がニアヒューマン(竜)に進化しました。》
《『炎熱耐性Lv5』に上昇しました。》
《『氷結耐性Lv1』を獲得しました。》
《『氷結耐性Lv5』に上昇しました。》
《『氷結耐性Lv5』、『炎熱耐性Lv5』が『熱変動耐性Lv5』に進化しました。》
彼の頭の中に一気に情報が流れてくる。それと同時に、自身の身体が作り替えられていき、それに魂が対応していく。
「……なんか強くなった感じがするな」
生命としての格をあらわすランクが上がったことで、彼の基礎的な身体能力や魔力は強化されている。それにより、彼の気配はより強くなったため住人たちはさらに脅え、ファルはその様子を見て呆れているのだが、彼は気づいていない。
「見た目は……うーん、腕とか足とかは人にかなり近いよな?たまに鱗があるけど……問題は顔だな」
そういって彼は自分の顔をペタペタと触ってみる。その感触はほかの肌同様、鱗とは違う柔らかみを持った人肌のように感じる。
「……大丈夫そうか?後でファルに見てもらおう。次は……ハイオークの魂をどうするかだな。だけどこれは住人たちに聞いてからやるべきか。よし、戻ろう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼が進化を終え、村へと戻ると、先程まで頭を垂れて這いつくばっていた村人たちが、膝を尽き神妙な面持ちで彼を出迎えていた。
(ん?なにしてんだこれ?)
その様子に、彼は困惑する。世界のことを教えて欲しいと言っただけで、膝を突かれるような事をした覚えはないからだ。
住人たちの話し合いを聞いていたはずのファルに目を向けると、呆れたような様子で長い首を振り返される。
「我ら、ゴブリン、ゴブリンハーフ、ヒューマンは貴方様について行きます。どうか我らの忠誠をお受け取りください!」
「「「お願いします!」」」
彼が困惑していると、住人の代表者が願いを申し出、住人達も声を合わせて彼に忠誠を誓う。
「えぇ……、忠誠って言われてもな。ファル、なんでこうなったんだ?」
『我に聞くのか……まぁ、話を聞いた限りだと、こやつらには後が無いようだ』
「あとがない?またオーク達が来るとかか?」
彼はハイオークの散り際を思い出し、あのハイオーク達は獣王とやらの配下である事、そしてその獣王とやらの命令でここを襲っていたように考え、もう一度オーク達が来るかもしれないという事実に怯えているのも理解する。
かといって、忠誠を誓われても彼に100人を超えるであろう住人を養う能力はないし、そもそも住む場所も壊れている。強さだけでいえば守ることも可能だろうが、ただ守るだけでは住人達が忠誠を誓うというよりも、彼が保護するだけになってしまう。
つまり、彼から考えれば住人達にして貰えるような事はほぼないし、彼から住人達に出来ることも守る事くらいしかないのだ。
『オーク達が来るのもあるが、こやつらは敵が多いらしいのだ』
「敵が多い?どういうことだ?」
「それは、私から説明させて頂けますか?」
敵が多い、という部分の説明をさせて欲しいと、住人の代表者が前に出てくる。代表者はヒューマンであり、見た目は初老といった様子をしている。
代表者から見ると、彼は多少ヒューマンに見た目がよったものの、未だ恐ろしい存在であることに変わりはなく、いつ自分たちがオーク達のような目に合うのか怯えながら勇気を振り絞って彼に話しかけたのだ。
「どうぞ……ってかあんたが村長?」
「はい。わ、私が村長のジャゴラと申します」
「ジャゴラね、よろしく。俺は……」
村長の自己紹介に合わせて、彼は自分の名前を名乗ろうとする。
だがここで、彼は致命的なことに気づいてしまった。
彼は、名前が無い。
正確に言えば前の世界での記憶が無いため、前世の名前を名乗ることが出来ず、かといってこの世界で誰かに名付けてもらう様な事もなかったため、彼のステータスには名前の表記がない。
魂が繋がっているため、そんな彼の驚きと、焦りを感じ取ったファルもまた、彼に名前が無いことを今更ながらに驚いていた。
(主よ……我に名前をつける前に、自分の名前を考えるべきだったのではないか?)
「あー、えっと……俺は……どうすっかな……」
自己紹介をしようとして言い淀む彼を見て、住人達も混乱し始める。
「あ、あの、なんとお呼びすれば良いのでしょう?」
「あーうん、ちょっと待ってくれ。何にしようかなぁ……あ、よし。決めた。俺はミアス。ミアスだ。よろしく」
特に考えはなく、直感的に思い浮かべた名前を名乗る。直感で出したにはしては、妙に馴染む感覚を覚えるものの、ステータスにも反映されてしまったため、ミアスがこの世界での彼の名前となった。
「ミアス様、ですね?よろしくお願いします。それで我らの現状なのですが……我らの種族を見てもらえばわかる通り、我らはヒューマンとゴブリンの混合種族です。元はフォリア王国の開拓団として、この森にでてきたヒューマンと、元々ここに住んでいたゴブリンが出会い、共に暮らしてきたのです」
「なるほど、だけどそれって珍しいことだったりするんじゃないか?」
「仰る通りです。他種族との共存は珍しくありませんが、排他主義が多いヒューマンがほかの種族と交わる事は珍しく、フォリア王国では禁忌ともされています。そのため我らはフォリア王国の開拓団として出てきたものの、ゴブリン達を連れていけば禁忌を冒したと処分され、かといってゴブリン達を置いておくなど、我らには出来ません」
「……残っていてもオーク達に蹂躙されるって事か。どこか別の場所に移住するのは無理なのか?」
「この森はオーク達の収める獣王国とフォリア王国の狭間にあるのです。そしてその二国は現在戦争中であり、どこにいっても軍がいるため……」
「八方塞がりだな。それで俺に従って守ってもらおうとしてる訳か」
「そ、それは……」
守ってもらう。それは間違いなく住人たちの願いだが、彼らはミアスに対価として差し出せるものが思いつかなかった。元が異形ということもあり、女を差し出す事は選択肢として思い浮かばず、そこの部分を突かれると困るのであった。
ミアスは別にそこを問い詰めようとした訳ではなく、ただ状況を整理しただけなのだが。
そもそも、戦いに参戦した時のように、忠誠などなくとも住人達がお願いすればミアスは住人達を守る気でいた。一度関わった以上、見捨てる気もなければ、打算はあっても友好的な姿勢を見せる住人達にミアスは好感を抱いている。
「うん、わかった。それじゃあ出来る限り俺が守ろう」
「いいのですか?!その……我らには返せるものがあまりにも少ないのですぞ?」
「別にいい、あんたらと関わることは俺にとってもいい事だしな」
この世界に住む種族と関われば情報が手に入るだろうし、なによりほかの種族との暮らしというのにミアスは興味があった。
「それでは、我ら一同改めてミアス様への忠誠を」
「忠誠じゃなくてもいいんだけど……まぁそれじゃあ納得してくれないか。わかった。至らない主人かも知らないが、よろしく頼む」
「「「はい!」」」
これ以上言っても住人たちが引き下がらないことを感じたのか、ミアスは忠誠を受け入れる。
《『統率Lv3』に上昇しました。》
忠誠を受けいれたと同時に、スキルレベルが上昇する。そして更に、ミアスの魂に変化が生まれ始めた。
《『神々の祝福』、『神々の呪い』が発動しました。》
《新たに108の配下を獲得しました。魂の繋がりを構築します。》
「ん?」
《魂の繋がりを構築しました。》
いきなりミアスの意識の外で、スキルが発動し、住人達と魂の繋がりが構築される。ファルとの繋がりほどではないものの、ミアスにとって、住人達がきろうと思っても切れないような関係になってしまった。
(これが『神々の呪い』か?!だけど……配下の魔力が供給されてる?いや、供給というよりも配下の数に合わせて魔力の限界値が上がってるな。これは『神々の祝福』のおかげかな?)
『神々の祝福』、『神々の呪い』が同時に発動したことによって、ミアスにとって良い事と悪い事が同時にやってくる。
「こ、これは?!力が湧いてくる!」
「ミアス様だ!ミアス様のおかげだ!」
「うぉぉぉぉぉ!今ならオークにも勝てるぞぉ!」
ミアスが情報の処理に追われているところで、住人達が騒ぎ始める。
変化が起きたのはミアスだけではなく、ミアスの配下になったことで、住人達も強化され始めた。その変化は劇的で、魂の傷は修復され、肉体の再生も行われる。スキルや技術に伸び悩んでいたものは、その壁を破り、さらに強さを求め始める。
「まじか、そっちにも効果があるとは」
「おぉ、おおおおぉ!ミアス様ぁ!素晴らしいですぞぉ!」
村長のジャゴラはあまりの感激にミアスに抱きつく。初老だったジャゴラの肉体には生気が溢れ、若返りといっても過言ではないほど生命力に満ち溢れている。
「わかった、わかったから離れろって!鼻水!鼻水つくから!」
「おおおぉ!ミアス様ぁぁぁぁぁあ!」
そして住人達は、その喜びのままに破壊された村から食料や酒を持ってき始め、宴会を始めてしまう。
その異様とも言えるテンションに、ミアスは引きながらも美味しそうな香りに吊られてついつい参加してしまい、時間も何も忘れて宴に望むのだった。
『我、忘れられてない?』
ファルは治療のため動けず、一人遠くから宴を眺めていた。
『オーク』
大型で、猪の特徴を持った二足歩行の生物。言語を理解し、武器を扱うほど高い知能を持っている。集落を気づき、群れで行動するため迂闊に手を出すことは出来ない。
『ハイオーク』
オークの中から稀に生まれる存在であり、知能、身体能力もオークより格段に高い。
中には配下を強化するスキルを持つ個体もいるため、オークの中にハイオークがいるだけで、警戒度が引き上がる。