新しい武器、からの平和な時間。
今回もほのぼの回です。
追記
すいません、少し体調を崩してしまいまして……3日ほどお休みします。待っていてくださる方、本当に申し訳ありませんm(_ _)m
「おーい、ダイデン! 来たぞー」
ラルフリートとミズキの2人を連れて、ダタラ達の居住区に来たミアス。ダイデンの作業場に入っていくと、煤と灰で汚れ、なぜか傷だらけの上半身の治療を受けたダイデンが目に入る。
「え、どうしたんだ?」
「……見りゃあわかる。ついてこいや」
何があったのかは説明せずに、ダイデンは工房の奥へとミアス達を案内する。
ミアスも入ったことの無い部屋の、重々しい扉を開けると中から強烈な気配が迸った。
「っ?!」
とっさにミアスはヌアザの剣を出し構えたが、部屋の奥にはなんの生命もいない。中にはたった一本の剣が置かれているのみだった。
「剣……? ダイデン、あれか?」
「あれだ。アンオブタニウムを使った剣、本当は別の形にしようと思ったんだが……あの形から変化させようとすると、金属側が拒否しやがる。お陰でこのざまだ」
そういってダイデンは傷だらけの体を見せた。
ミアスはそれを聞いて、改めて剣へと視線を移す。とてもただの武器とは思えない鋭い気配を放つ剣によって、ダイデンが傷を負ったとは信じられなかった。
「まじかよ……金属側が拒否するなんてことがあるのか?」
「上位の金属ならそういうこともある。だが、ここまで強烈なのは聞いたことがねぇ。アンオブタニウムは万能金属なはずなんだがなぁ」
前にダイデンがアンオブタニウムについて話していた時、鍛冶師の要望に応えて変化する万能な金属と言っていたことを思い出す。だが、目の前の剣はその性質とは明らかにかけ離れていた。
「お前さんの魔力を受けてミスリルから変化したっていうのが影響してるのかは知らんが……なんにせよこの状態になってからは迂闊に近づくことも出来ん。ミズキの嬢ちゃん、試しに寄ってみるといい」
「ふむ、私がか。《剣の祝福》持ちが持てぬ剣などないと思いたいが……」
ミズキの実力ならば大丈夫だろうと考えたダイデンの提案で、ミズキが剣を取ろうと前に出る。
だが、ミズキが剣を取ろうとすると、ミズキのか周りに小さな斬撃が浮かび上がった。
「ミズキ!」
ミアスが咄嗟に声をあげるものの、向かってきた斬撃はひとつ残らずミズキに叩き落とされる。だが、叩き落としたそばから斬撃が浮かぶため、ミズキは件を手に取ることなくミアスの元まで下がる。
「凄まじい拒絶だな。私では持つに値しないようだ」
「技術じゃねぇんだろうな。おそらくはミアス、お前さんじゃなきゃ持てねぇ」
「俺か」
アンオブタニウムは、ミアスの《核撃》という炎王属性魔法によってミスリルゴーレムが変化したもの、ならばミアス以外を拒絶してもおかしいことでは無いという考えがミアスにもあったのか、素直に剣を取りに前に出る。
ラルフリートが心配そうに見ているものの、ミアスが剣に近づいても斬撃が浮かぶことはなく、なんなく剣の柄を掴み取った。
「うぉ?! 魔力が吸い取られた?」
だが、剣を手に取った瞬間、ミアスの中の魔力が一気に吸い取られる。そして、アンオブタニウム製の剣は光り輝き始めた。
《『混沌』が発動。魂を一部分離し、アンオブタニウム製の剣に同化させます。》
《……失敗。》
「え、失敗?!」
そんなアナウンスは初めて聞いたと、ミアスは光り輝く剣を握りながら叫ぶ。アナウンスはミアスにしかきこえていないため、ダイデン達は不思議そうな顔で見つめている。
(失敗? 剣に魂を持たせるのは無理なのか。いや、《構築》スキルとか使ったらいけないか?)
《『構築』スキルを発動。魂の同化を補助……》
《『神々の呪い』が発動。『四種の神器』スキルからヌアザの剣が分離、アンオブタニウム製の剣へと同化します。》
(んー? めちゃくちゃ勝手に進んだぞ? さすが神々の呪い)
《……成功。アンオブタニウム製の剣に、魂の一部とヌアザの剣が同化しました。》
《『ダーナ剣術Lv3』に上昇しました。》
成功を告げるアナウンスと共に、剣は光を強める。
しばらくすると光は収まり、ミアスの手には純白の刀身をもつ一振の剣が握られていた。
「白剣ヌアザ、だな」
見た目のイメージと、同化したヌアザの剣から新たな剣の銘をきめ、軽く剣をふるミアス。
「うん、馴染むな」
「やっぱりお前さんなら扱えたか。ここまで造り手を拒絶するなんてなかなかない。余程お前さんを好ましく思っとるんだろう。大事にしてやれ」
そういってダイデンは軽くミアスの肩を叩き、傷の治療に戻って言った。
「いい武器が手に入ってよかったね、ミアス君」
「そうだな。ちょっと変わった能力もあるみたいだし……」
「変わった能力?」
ラルフリートが首を傾げてミアスの言葉を繰り返す。それを見て可愛いなぁと思いながらミアスは説明をはじめた。
「さっき、ミズキが近づいた時に出た斬撃を好きな時に出せるらしい。魔力を使うし射程もあるから万能ってわけじゃないけど……中々便利だな。あと、魂が宿ってるから成長するみたいなんだ」
「……本当だ。宿ってるな」
ミズキが目を細めて剣を見つめ、魂が宿ってることを確認する。
「いい剣だ。ぜひとも一戦やってみたいところだが……どうだ?」
「そのうちな。今日はもう仕事は終わり、帰って晩御飯にしようぜ」
「はーい」
「うむ」
ミズキは模擬戦がやりたいのか若干不満気ではあるものの、ミアスと共に食べる食事の時間を大切に思っているため、笑顔で返事をする。
「ねぇねぇ、ミアス君。手繋ごうよ」
ダイデンの工房からミアスの家へと歩いている途中、雑談の合間を縫ってラルフリートが攻めに出た。
だが、ここ最近はこういった誘いが多いためか、ミアスは落ち着いて対応する。
「片手塞がってるし……」
ミアスはダイデンからもらった酒を片手に持っていた。
しかも、この後は新鮮な野菜が取れたということで、晩御飯のサラダに使おうと農園による予定だったためミアスの両手は塞がる予定にあった。
「無属性魔法の練習がてら、浮かべればいいじゃないか?」
「た、確かに……」
だが、ミアスの返しもそう言われてしまえばどうしようも無い。ラルフリートに言われた通り無属性魔法をつかって酒を浮かべ、空いた手をラルフリートに渡した。
暖かな命の温もりと、柔らかい女性の感触が手のひらに伝わる。
「えへへ、ありがとねミアス君。ミズキはいいの? 片手はまだ空いてるよ?」
この状況で自分だけミアスと手を繋いでいるというのは、少しばかり申し訳なく思ったラルフリートはミズキにそう提案する。
だが、ミズキはそれを笑いながら断った。
「いい、私はミアスの隣にいられればいいのだ」
そう言ったミズキの顔はとても満足そうで、ミアスもラルフリートも呆気に取られてしまう。
「……この村に来て良かったか? ミズキ」
「うむ、ここには特別なものしかいない。だからこそ私は特別じゃなくいられる」
拳を握りしめ、宝物を貰った子供のように笑うミズキに、なにかとミズキと合わないラルフリートも優しい眼差しを送った。
夕日がかかる村に、とても、とても優しい時間が流れていた。
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