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初のピンチ、からの圧倒

少し遅くなりました。

「ブゴォラァァァァァァ!」


 ハイオークは雄叫びと共に、大きな鉈のような武器を振り落とす。

 ファルでさえ直撃すれば大怪我は免れないその一撃を彼は素早く横に移動することでかわす。


(他のオークよりも数段速いな。これはまずーー)


「甘いわァァァァァ!」


「やっべ?!」


 一撃目をかわすことができたが、次の攻撃までの速度を他のオーク同様のものだと思い込み油断していた彼に、素早く切り替えした次の攻撃が飛んでくる。


『反応』スキルのおかげか、ギリギリのタイミングでその攻撃をかわした彼は、次の攻撃をさせない為に手のひらに炎を作り出す。


(大した攻撃にはならないと思うけど……)


「《炎矢》」


 兜の隙間目掛けて正確に放たれた炎の矢をハイオークは身体を回転させるようにしてかわす。

 次の攻撃を考えての回避だったのか、彼の思惑とは裏腹にハイオークの攻撃は止まらない。


「ブゴォ!ブゴォ!ブゴォラァァァァァァ!」


「ちょっとやばいな!」


 ハイオークの怒涛の連撃は勢いが弱るどころか速度が上がっていく。まだ大振りな動きであるため、なんとか彼もかわすことが出来ているものの、ハイオークの技術は低くなく、少しずつ彼の癖や甘い所を把握し的確についてくるため、徐々に彼の体に傷がついていく。


「俺の体ってちゃんと赤い血が流れてるんだな」


 だが、彼の心は未だに余裕を保っており、自分の身体に赤い血が流れてることに驚いていた。


 その様子が気に入らないのか、ハイオークは更に怒りを高め、構えを変えて強力な一撃の準備をする。


「死ねぇ!《断裂(たちさき)》!」


 尋常ではない速度で振られた鉈の斬撃は、鉈を離れて遠く離れた彼の元へと一直線に向かってくる。地面をを切り伏せるほどの一撃は、凄まじい速度で迫る。


「あ、やばい」


『主!グォォ?!』


「ファル?!」


 斬撃が彼に当たる寸前のところで、ファルの大きな身体が間に入る。斬撃は固いファルの鱗を簡単に切り裂き、あたりに鮮血が舞う。


「大丈夫かファル!」


『ヌゥゥゥ、死にはせん!それよりも主、次が来るぞ!』


 ファルは無意識のうちに、主を身を呈して守ろうと体が動いたことに驚きながらも、冷静にハイオークを見つめていた。元は竜の神、戦いの経験もあるため、ハイオークがこの機会を逃さないことは明らかだった。


 一方、彼の心の中は穏やかではない。自身の欲に従ってハイオークとの戦いを始めたはいいものの、そのせいでファルに大きな怪我を負わせてしまった。


 ここでようやく、本能や他人の願いではなく、自分の意思で戦いに望み始める。

 そして、彼の魂は戦いに順応すべく、形を変え始める。


 《『神々の祝福』が発動。エクストラスキル『成長速度上昇Lv1』、『高速思考Lv1』を獲得。》

 《『反応Lv3』、『身体操作Lv4』、『魔力操作Lv5』、『身体強化Lv4』、『炎属性魔法Lv4』、『格闘術Lv3』、『斧術Lv3』に上昇しました。》


 様々なスキルのレベルが上がる中、彼は近くに落ちていた剣を手に取る。オークたちと戦っていたゴブリン達が使っていたものだろう。


 その質の悪い剣を構え、今一度斬撃を放とうとするハイオークを見据える。


『む、無茶だ主よ!』


「大丈夫だ、見てろよファル」


 《『解析Lv2に上昇しました。』》

 《『解析』スキルが発動。『斧術』を解析し、新たに『剣術Lv1』を獲得しました。》

 《『混沌』が発動。剣に魂の一部を同化し、剣は種族:魂剣へと進化しました。》


(情報の整理は後だ。今は剣が扱えるようになったことが分かればいい)


 多くのスキルが発動し、様々な変化が巻き起こるものの、彼は自分の持つ剣に意識を集中させる。


「今度こそしねぇ!武技!《断裂》ぃぃぃぃぃぃぃ!」


 かわせばファルに直撃し、かといって受け止めるのはいくら身体強化のレベルが上がったとはいえ不可能に近い。


 迫りくる斬撃を真正面に見据え、彼は今一度剣を握り直し笑う。


()()()いいんだろ?おらぁ!」


 《『剣術Lv3』に上昇しました。》


 スキルレベルの上昇と共に、一気に剣が自分の手に馴染むような感覚を覚え、剣を振るう腕が軽くなる。

 斬撃を真正面から受け止めるのではなく、真横から更なる斬撃を当てることによって、斬撃の向きをそらす。それを剣を握って初めての彼はやってのけた。


「ブゴォ?!そんな馬鹿な!」


「ははは!どうだファル!大丈夫だったろ?!」


『凄すぎて訳が分からん……もうそのままやってやれ主よ!』


「任せろ!」


 勝利宣言とも言える発言と共に、ハイオークの視界から彼が消える。


「ブゴォ?!どこにいっーー」


「ここだよ」


 身体能力の強化を、一瞬だけ爆発的に高めることで急激な速度上昇を行いハイオークの足元まで潜り込む。

 そのまま鎧の隙間を狙って素早く、正確に剣を振るう。


「ブゴォ?!貴様ァ!舐めるな下等生物がぁぁぁぁあ!」


 浅くない傷を負い、少しずつ自分の死が近づいてくるのを感じたハイオークは死に物狂いで鉈を振るう。だがその攻撃は彼に一切あたらない。かわすか、流されるか、いずれにしてもハイオークは体力を消耗し、出血により更に死に近づく。


「こんな、こんな所でぇぇぇぇ!くそぉぉぉぉぉ獣王陛下、バンザァァァァァァァァァァァァーー」


「じゃあな、お前の魂は俺が貰い受けるよ!」


 動きに精彩さをかき、大きな隙が生まれたハイオークは、彼の剣により命を絶たれる。


 《『剣術Lv4』に上昇しました。》

 《『統率Lv1』を獲得しました。》

 《ハイオークの魂を吸収しました。》

 《ハイオークの魂から新たな生命の構築が可能です。》


「……満足」


 望み通り、魂を吸収した彼は満足そうに呟く。


「構築は……後だな。このままオークに似た生命が誕生したら混乱しそうだし、まずは助けた連中を集めなきゃな。傷の手当が出来るやつがいるといいんだけど……」


 彼には医療の知識などほぼない。あったとしてもドレイクの治療が可能だとは思えないし、この世界の住人の知識を頼るのだった。


 そんな彼を、ファルは畏敬の念が混ざった感情で見つめていた。


(主は強い、というよりも成長速度が異常すぎる。あのハイオーク、ランク6はあるはずだが……主はランク1で勝ってしまった。このままランクが上がればどうなるのだろうか……)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ははぁ、何卒、何卒ご容赦を!」

「お願いします!子供だけは!子供だけは!」

「竜神様じゃ!竜神様がこの村を守ってくださった!」

「馬鹿!違うわ!守ってくれたのは精霊様よ!あの竜はそこまで活躍してないわ!」

「なんてことを言う!お前は村を滅ぼしたいのか!」


 住民たちは声をかけるまでもなく、オーク達との戦いの決着を見届けると我先にと頭を下げながら彼の元へと集まってきた。


 彼らはゴブリンと人間で構成されていて、二種族とも見た目にほとんど違いはなく、ゴブリンの肌が緑色で、多少爪や牙が見える程度の差異しかない。中にはハーフとも思われる存在も見えるため、彼は思っていたゴブリンのイメージと、この世界のゴブリンは違うということを改めて認識した。


 なぜ、そんな彼らが彼とファルに頭を垂れていたのか、理由は至極シンプルであり、ハイオークと彼の戦いを見ていたからだった。

 ハイオークでさえ、彼らからしてみれば圧倒的上位にも関わらず、彼はあっと言う間に倒してしまった。

 そんな彼を、住民たちは逆らえば殺される恐ろしい存在だと認識していたために、このような状況になっている。


「あー、別にあんたらに危害を加える気はない。俺はただそこの子供に助けてって言われたから助けただけだ」


「ま、まさかそのような理由で?!」


 そんな理由で戦闘に参加するなど、住人たちは聞いたことがなかった。だが、子供から話を聞けば本当のことであるし、ハイオーク以外のオークは死にかけで戦闘不能になってはいるが、命を奪っていないことからも本当にそれだけの理由で参加したというのも、少しずつ信じ始める。


「まぁ、多少見返りを求めてた部分はあるけど……」


「見返りですか?」


「あー、見返りっていっても支配下に入れとか子供をよこせとかじゃないぞ?この世界のことを教えて欲しいってだけだ」


 彼の見返りは、更に住人たちを混乱させる。

 この世界のことを教えて欲しいなど、訳が分からないからだ。他の世界の存在など空想の産物程度にしか思っていないし、もし本当に世界の情報を求めていたとしても、彼らはしがない田舎者。世界のことなどほとんど知らないためだ。


 そんな住人たちと彼のやりとりを見ながらファルは住人の女性たちに治療を受ける。


「んー、上手く伝わらないな。とにかく、俺はあんたらに必要以上に介入する気は無い。あんたらのことはあんたらで決めてくれ。俺は多少質問に答えて欲しいことと、ファルの治療をして欲しいだけなんだ」


 そういって彼は住人たちに話し合ってくれ、と伝えその場を離れる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はぁ……なんか凄い怖がられてたな。俺子供助けただけだそ?」


「まぁいいや、とりあえずは……進化だな」


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