想いを形に、からのミズキ。
今回はヒロイン達のお話です!
この作品で恋愛に重きを置く話は初めてじゃないでしょうか?お楽しみください!
フォリア王国との戦いが終わり、村はどんちゃん騒ぎの宴になっていた。
ダタラ達が奏でる打楽器の音に合わせて、村人たちは思い思いに踊り周り、踊っていないものもその様子を見ながら美味しい食事に舌鼓をうつ。
ブーデンやファルも酒を飲まされたのか、それとも戦闘の反動で気分があがっているのか村人たちのバカ騒ぎに参加していた。
ミアスはというと、気を失ったまま自宅に連れてこられ、未だに目覚めていなかった。
そんなミアスの顔を、ベッドの横に座るアイラがじーっと見つめていた。
かなりの怪我だったため、ミアスは時折苦しそうな声を上げ、その度にアイラが心配と愛情の篭った目を向ける。
「……ミアス」
なかなか意識を戻さないミアスの頭を撫で、アイラは悩ましげに家族の名前を呼ぶ。
アイラは悩んでいた。自分がミアスに向ける感情を、どう整理したらいいのか分からなかったためだ。
アイラはミアスによって生み出された。そういった意味では親と変わらない存在ではあるものの、生まれた時からある程度の人格は確立していたため、ミアスは子供に近い関係と認識しているものの、アイラは親としての関係と認識している訳では無い。
勿論、家族として大切な気持ちはあるし、自身の心にある暖かみを持った感情は、愛情と言うものであると言うのもアイラはわかっていた。だが、ミアスが、ラルフリートやミズキと話している時の自分のもやもやした感情は、家族に向ける愛情からくるヤキモチではないということもまた、感じていた。
「……私は、どうしたらいい」
いつもの「俺」ではなく、「私」という一人称を使うアイラ。
実は、ミアスがいない場では「私」という一人称を使うことが多かった。
「俺」という一人称はミアスの真似、少しでもミアスに近づければいいなという家族に向ける親愛から来ていた。だから、ミアスの前でそれをやめてしまえば、ミアスに向ける思いが、家族としての親愛ではなく、異性としての愛情になってしまうと、心のどこかでアイラは恐れている。
だが、このままではきっと、ラルフリートやミズキは、ミアスと異性としての恋愛関係になってしまう。そんな事になったら、自分の感情を整理して、今まで通りにミアスに接する自信もない。
(いっその事……)
いっその事、襲ってしまえば自分の気持ちに整理がつくのでは? とアイラは真面目な顔で考える。アイラは思いついたら即行動に移すタイプのため、思いっきって寝てるミアスの顔に、自分の顔を近づける。
ミアスの貞操の危機だった。この世界初のキスがアイラに奪われようとしたものの、顔を近づけば近づけるほど顔を真っ赤にしたアイラは、直前のところで元の姿勢に戻り、熱くなった顔を冷まそうと布団に顔を埋めた。
行動力はあっても、恥ずかしさに負けたアイラだった。
だが、自分の反応こそが、ミアスへの気持ちが単なる家族の愛情ではないことを示している事に気づいて、さらにアイラは恥ずかしくなる。
そして、アイラの羞恥心にトドメをさすように、後ろから声が響いた。
「なんだ、しないのか? キス」
ミアスと同じ部屋に寝ていたミズキが、ニヤニヤしながらアイラを見ていたのだ。
「っーー?! ミズキ、何で起きてる!」
「なんでと言われてもな、目が覚めたから起きたとしか言えん。む……?」
ジャラ、と金属の音が静かな空間に鳴り響く。起き上がろうとしたミズキは、自身の手足に拘束具が付けられていることに気づいた。
「……まあ暴れたからな。当然か」
「ん、ラルフリートがつけるべきって騒いでた」
「ラルフリート? ……あぁ、あのエルフか」
ミズキは自分が真っ向から叩きのめしたラルフリートを思い出し、尚更自分が拘束されている事に納得する。
「だがまぁ、こうして五体満足で村にいれたのだ。しかもミアスの隣にいれるのだ。拘束されていても文句はない」
「しばらくは外れない。ミズキ次第」
「うむ、これから信頼を掴み取っていくとしよう、まあミアスが私を拒否すればそうもいかんがな……」
ミズキは表情を暗くし、天井を見つめる。一応は望み通りミアスの隣へと逃げてきたものの、厄介事を持ち込み、ラルフリートにも嫌な思いをさせてしまった自分を、ミアスが快く受け入れてくれるか不安だった。
「大丈夫、ミアスはミズキの事を良く思ってる」
「そうか? だが……気に入らないのではないか?」
「気に入らない。ラルフリートもミズキも、ミアスの隣にいるのは私がいい」
「私、か。そう思うならなぜ行動に起こさない。思いっきって行動すればいいだろう? 恥ずかしさだけでやめた訳ではあるまい」
ミズキはアイラの心情をある程度理解したのか、優しさと、少々の好奇心のもとでアイラに問う。
「別に今のままでもミアスの隣にいれる。だけど行動して拒否されたら……」
もう傍にはいれない、そんな恐怖がアイラにはある。
「拒否される事はない気がするがな。まぁ人の恋路にあまり口を挟むのもな。どう行動するかは自分次第というわけだ」
「ん」
ミズキに短く返事を返す。そこで話が一段落したのか、ミズキは窓から聞こえてくる喧騒に目を向けた。
「うむ。……にしても、随分外が騒がしいな?」
「宴、みんないつも以上にどんちゃん騒ぎしてる」
「宴か……開拓村にそんな余裕が、いやミアスの村なら不思議ではないか。美味しそうな匂いしてるし……」
最後は少し子供っぽくなりながらミズキがそう口にする。
「……んん」
「「ミアス!」」
アイラが何か持ってくると言おうとしたタイミングで、ミアスが呻き声をあげる。
そしてゆっくりと、目を開けた。
「……アイラ?」
「ミアス、怪我大丈夫?」
「怪我は……治癒スキルで塞がってるかな。ただ完治し出るわけじゃないからダメージは残ってるけど……」
「良かった。何か食べれそう?食べるのが無理なら飲み物をとってくる」
「じゃあ水と簡単に食べれそうなもので」
アイラはそれを聞いて小走りで部屋を出ていく。そして、アイラを見ていたミアスの視線は、何故か同じ部屋で寝かされているミズキをとらえた。
「ミズキ! 目覚めたのか?」
「うむ、詳しいことはわからんが、魂に作用する魔法だったようだ。私のユニークスキルを破壊しようとしたらしい」
「スキルを破壊? そんなことできるのか」
「私もやられるまで出来るなんて思ってなかったが……出来るのだな」
ミアスは、ミズキに色々聞きたいことはあるものの、今は二人とも無事なことに安心し、細かいことは後でいいかと考えていた。
だが、ミズキはそうもいかない。
「……ミアス、私は無理をさせてまでここにいる気は無い。ああは言ったが、お前に拒否されれば潔く村から出ていくし、近づくことも無い」
そう、ミアスに告げるミズキの表情はどんどん暗くなっていく。実際にミアスに拒否されれば、今まで通り特別で、誰にも受け入れて貰えない孤独な人生に戻ってしまうと怯えているためだ。
「追い出す気なんてないよミズキ。そりゃあ軍連れて来たしラルフリートとも戦ったから村全体に受け入れられるのは時間かかるだろうけど、拒否したりはしない。ミズキが望むなら一緒にいれるさ」
ミアスは、ダメージの残る体であるものの、ミズキを安心させようと体を起こして明るく話す。
「そうか……ならば、受け入れて貰えるよう頑張ろう。まずはこの拘束を外してもらうのが目標だな」
ミズキは微笑みながら、冗談めかして自身の腕に付けられた拘束具をミアスに見せる。
「拘束? うぉ、本当に拘束されてるし……」
「ラルフリートというエルフの意見だそうだぞ?」
「あー、お前がぼこぼこにしたからだな。ラルフリートに受け入れられる日は遠いな……」
「そうだね、遥か先だよ」
「「?!」」
ミズキとミアスが話していると、美味しそうな匂いを立てる料理を持ったラルフリートが、ムスッとした顔で部屋の扉によりかかっていた。
そして、その後ろにはアイラがひょっこりと顔を出している。
ミアスの隣を狙う、三人の女性がひとつの部屋に集まった。
「一体何が始まるんだ……」
怪しげな雰囲気を感じ取ったミアスが、若干怯えながらそう呟く。今ここに、修羅場が始まろうとしていた。
お楽しみいただけましたか?
ミズキ、アイラ、ラルフリートの三人のヒロイン、みなさんは誰が好きでしょうか?ぜひ感想で教えてください!
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