初の戦闘、からの成長
評価もいただくことができ、とても嬉しいです。これからも頑張ります!
「速いな!!」
『グハハハハハハハ!そうだろ主よ!』
彼は今、風になっていた。
正確に言えば木々を諸共しない勢いで突き進むファルの上に乗っているため、爽快感を味わっているのだが。
レッサードレイクですら木々をなぎ倒せため、元竜神でランク4のファルが出来ない道理はなく、ファルは気づいていないが小さな生き物も吹き飛ばしてしまっている。そのため微細ながらも経験値が入ってレベルも上がっているのだが、それもまた興奮の最中にあるためか気づいていない。
『もっと速くすることも出来るぞ!』
「え、これ以上速くなんのか?」
『魔力で身体能力を強化すれば良いのだ。主だってやった事あるだろう?』
「ねぇよ。俺まだこの世界に来て1日も経ってないんだぞ?」
『む、確かにそうであった。ならば我が見本を見せよう!』
そういってファルは得意気に、自分の主人に魔力による身体強化を見せつける。
彼は自分よりも遅く生まれたファルが、自分よりもこの世界の魔力というシステムに順応していることに納得いかないものの、魔力感知の範囲を狭め、集中してファルの魔力を観察する。
魔力を全身に流し、強化された身体能力でファルは更に突き進む。
「……なるほど。魔力を全身に流して能力を高めるんだな?」
『言うは易し。なかなかできることでは無いぞぬ……出来てる?!』
《『身体強化Lv1』を獲得しました。》
ファルの予想を大いに裏切り、彼はあっという間にスキルを獲得する。
全身に力がみなぎる感覚に身を任せ、ファルの背中から飛び降り、木々の隙間を飛ぶように抜けながらファルに並走する。
『天才的すぎるぞ主!大体なんでスキルを獲得した直後で我と同じ速度で動け……なんで加速してる?!』
《『身体強化Lv2』に上昇しました。》
彼は身体の中を流れる魔力を細かく感じ取り、流れが悪い所や、魔力が行き通っていない場所を調べて、より効率的に身体強化を行えるようにした。その結果スキルレベルが上昇し、ファルよりも速度が上がる。
(速くなったけど……これは早すぎるな!開けた場所ならまだしもこういう場所だと中々厳しいものがある!)
だが、彼が進んでいるのは鬱蒼と茂る森の中。薙ぎ倒しながら進むファルとは違い、ぶつからないように進むのは難しい。
だから彼は、より素早く、より少ない動きで森の中を駆ける。
《『反応Lv1』を獲得しました。》
《『身体操作Lv1』を獲得しました。》
『ま、待て主!速すぎる!速すぎるぞ!』
「はははははは!楽しいなこれ!先行ってるからなファル!」
スキルを獲得したことでファルとの速度の差は広がり、ファルを置いて目的の場所へと向かう。
『主ぃぃぃぃィィ!』
小さくなっていく彼を見ながら、ファルの叫び声が木霊する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
多くの魔力が入り乱れ、そして、減っていく。そんな戦場で鎧に身を包んだオークが、緑や通常の色の肌を持つ人間を一方的に攻撃している。
「おお、なかなか激しくやり合ってるな。さぁ、どうしたものか」
前の世界での彼なら、緑色の肌をしたゴブリンのような生き物や、人間のような存在に加担しただろう。
しかし、いま目の前で起きている戦いの背景にあるであろう目的や思想を彼は知らない。そのため一方的な価値観で片方を助ける気はなく、傍観を決め込んでいる。
だが、それは言い換えれば戦いに参加する理由が無いからだまっているわけであり、何かしらの理由があれば戦いに参加する気でいる。
そんな彼の目に一人の子供らしき姿が目に止まる。
その子供は足を怪我し、目に溢れんほどの涙を浮かべながら、背後から巨大な斧を振り下ろそうとしているオークから必死に這って逃げようとしている。
子供の小さな目は、まっすぐに彼を見つめている。
「……助けて!」
「任せろ」
参戦する理由と、どちらに味方するか決まった彼の動きは速い。魔力を全身に流すことで身体能力を強化し、一気に森から飛び出す。
「ブゴォ?なんだ貴様は?!」
「めちゃくちゃ豚っぽい鳴き声だな!《炎矢》!」
明らかに種族が違うのにも関わらず、言葉が普通に伝わる事に驚きつつ、手のひらに炎を作り出し矢のように鋭く引き伸ばす。
「ブゴォォォォ?!」
放たれた炎の矢は、オークの斧を構えた腕に直撃し、火傷を負わせる。だが、鎧に身を包んでるためかそこまでの傷とは言えない。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……?」
一方、助けられたゴブリンと人間のハーフ、この世界ではノーブルゴブリンと呼ばれる生命の子供は、自分のことを助けてくれた不思議な生命を見上げていた。形は人間のようだが、目や口はどこか作り物のような雰囲気であり、体表も竜のような見た目のもののどこか淡く輝いている。
かなり奇妙な姿ではあるものの、なぜか不快感や拒否感はない。そんな不思議な生命に助けられる。
「歩くのは……微妙だな。そこの影までいけるか?」
彼が壊れた建物の残骸を指さすと、子供は小さく頷き、遅いながらもなんとか物陰まで進んでいく。
「ブゥゥゥゴォォォ!」
子供が隠れたのを確認したタイミングで、オークが斧を振り上げながら彼に襲いかかる。
彼はそれを懐に入ることで軽くかわし、強化された身体能力で思い切りオークを殴りつける。硬質な音が響くものの、金属製の鎧の一部を小さく凹ませただけで大した威力になることは無い。
「やっぱ硬いな。打撃じゃ威力も技術も足りないか」
この世界のスキルシステムに少しずつ慣れてきた彼は、おそらく武術に関するスキルも存在するだろうと辺りをつけ、そういったスキルを入手してない今の状況では、鎧や体格の差を覆すことは難しいと考えていた。
「なにをぶつぶつと!ブゴォ!」
「そっちこそブゴブゴうるせぇよ」
だから、彼はスキルを入手することにした。
オークの横凪にした斧をしゃがんでかわし、呼吸を整え、拳を構える。
(要は身体の使い方だ。無駄なく力を伝えてやればいいはず)
身体操作スキルを意識し、地面に踏ん張った足や、構えた腕の筋肉を使用して無駄なく力を伝えることを意識する。
操作が甘くなるほどの力は入れない。身体強化も一時的に解き、自分が正確に扱える力に留める。
そうして繰り出された拳は、まっすぐに、無駄なくオークの鎧を叩く。威力はない、だが彼の中では何かが嵌ったような感覚があった。
《『格闘術Lv1』を入手しました。》
「よし、これで戦えるな!おらぁ!」
スキルの獲得と同時に、再び身体能力を強化し、オークの大きな腹目掛けて拳を振り抜く。
「ブゴォ?!」
スキルの補正のおかげが、先程までとは段違いの威力で放たれたその一撃は、程度は低いといえど、金属製の鎧を大きく凹ませオークの身体に小さくないダメージを与える。
「まだまだァ!」
彼はそのまま止まることなく、後退するオークに蹴りも交えた怒涛の追撃を始める。
「ブゴォォォォ?!」
一撃は重く、金属製の鎧と言えど接合部分が壊れ、少しずつ鎧が剥がれていく。鎧が無くなった場所に放たれた攻撃は、オークの身体に大きなダメージを与えていく。
《『格闘術Lv2』に上昇しました。》
そして、スキルレベルの上昇と同時に、オークの兜を蹴り飛ばし、そのまま空中で身を翻しながら手のひらに炎を作り出す。
「ブゴォォォォ?!」
「じゃあな、《炎矢》!」
兜のなくなったオークの頭を守るものは何も無く、炎の矢は大きく開いた口に直撃する。
爆発と共に、オークの口から黒煙が上がり白目を向いて大きな身体が地面に伏す。
「死んではないけど、まぁ動けないだろ。よしよし、人型相手でもまあまあ戦えるな!次だ!」
魔力感知によれば、オークは10体を超える数がいる。彼は倒したオークの持っていた大きな斧を持ち上げ、近い魔力反応へと駆け出す。
「お、いたいた」
「ブゴ?なんだおま……ブゴォ?!」
壊れた建物を飛ぶように移動した彼は、別のオークの頭上から一気に斧を振り下ろす。
《『斧術Lv1』を獲得しました。》
オークはその一撃を何とか受け止めるものの、大きく体勢が崩れたところに彼の斧が迫る。
その一撃はオークの足を叩き切り、大量の血が吹き出し、あっと言う間に戦闘不能に陥った。
《『身体操作Lv2』、『身体強化Lv2』に上昇しました。》
凄まじい速度で成長を遂げる彼は、次の相手を探して駆け出す。だが、そのタイミングで戦場にファルが到着したことを確認し、そちらへと向かった。
「おーい!ファル!」
『主!どういう状況……また強くなったのか?我がちょっといない間に何故そこまで変わるのだ!』
「何回か戦ったからな。それより、相手はオークだ。それ以外は助ける」
『……理由は?』
「助けてって言われたからだ。いいな?ファル」
彼にとっては、それだけがオークを敵とする理由であり、それこそがこの戦いに参加した理由だった。
『了解した、主よ』
「ブゴォ!いたぞ、あいつだ!」
『あれがオークか……よし、我も主にいい所を見せるとしよう。スゥゥゥゥ』
ファルは敵である二体のオークの姿を捕えると、大きく息を吸い込む。
『ガァァァァァァ!』
「「ブゴォォォォ?!」」
そして、炎属性魔法によって生み出した炎を、口から一直線に放出する。そのブレスは金属製の鎧など関係ないとばかりにオークの身体を焼き、一撃で戦闘不能に追い込んだ。
「おお!やるなファル。その調子で頼むぞ!」
オークの焼ける匂いに食欲をそそられながら、ファルに負けじと次の獲物の元へ急ぐ。
オークの平均的なランクは3と言われている。そのため、本来ならば彼よりも上位の存在と言える。だが彼の圧倒的な成長速度、それに加えて魂の形故か、はたまた天性のものなのか天才的な勘の良さがある。
並のオークでは既に相手にならず、魔法と武術を使い次々とオーク達を戦闘不能に追い込んでいく。
《『反応Lv2』、『身体操作Lv3』、『魔力操作Lv4』、『身体強化Lv3』、『格闘術Lv2』、『斧術Lv2』に増加しました。》
《レベルが100に到達しました。進化が可能です。》
多くのスキルレベルがあがり、オーク相手ならば苦戦することはなくなった。だが、まだ一つだけ大きな反応が残っており、それと相対するファルの魔力反応が若干ながら弱まってる事を確認し、すぐさま駆け出す。
(まだ残ってたのか……だけど、この感覚、卵の時と同じだな?)
最後に残った反応、彼はその反応から本能的な欲求を強く感じていた。卵を目にした時同様、魂が求めている。
「ファル!大丈夫か?」
『問題ない!……と言いたいところだが、こやつは熱に耐性があるようだ!おまけにあの武器も中々の業物、我の鱗でも切り裂いてくる』
ファルと相対するオークは、他のオークよりも一回り大きく、身につけている鎧も、武器も、そしてその雰囲気や魔力までもが優れている。
「ファルよりも強いな。だけど……」
そのオーク、ハイオークと呼ばれるオークの上位種は困惑していた。一種の恐怖とも言える。
彼の目の奥の輝きにある、根源的な欲を感じとってしまったからだ。負ければ魂を持っていかれる。無意識のうちにその恐怖が精神にも現れているのだ。
だが、ハイオークは他のオークとちがい、幼い頃から兵として育てられている。そのため恐怖を怒りに変え、全身に魔力を流すことで身体能力を強化し、雄叫びをあげる。
「ブゴォラァァァァァァ!」
それに対し、彼の心はどんどん欲に染まっていく。ハイオークを倒し、魂を吸収し強くなる。その本能に従って。