ファルの覚悟、からのアイラの戦い。
投稿時間を、夕方6時と午前0時でとても悩んでいます。ご意見があれば、感想でお聞かせください。
「ブゴォォォ!」
「ブゴォォ?!」
「なんだコイツら?!」
村へと雪崩のように押し寄せたオーク達は、村の戦力に驚いていた。部隊の斥候から、開拓村が防衛に成功し、何らかの強者がいる可能性は聞いていたものの、ドレイクのような竜の放つ強力なブレスのせいで防壁にたどり着くことも難しく、軟弱な防壁を抜けた先には武装した村人たちや異様に強い獣人に囲まれて撤退を余儀なくされる。
終いには開拓村を襲ったはずのオーク達までもが裏切り、村の防衛を手伝っていた。
ドレイクを操るオーク達は訓練を積んだ兵士であるし、村の全力の防衛であっても損害はほとんどない。それでも、中々決定的な攻撃を出来ない事に、オーク達の怒りが募っていく。
「ブゴォォォ!静まれ!頭に血を昇らせて訓練を忘れたか!?」
怒りで無理に突撃すれば、いかに鎧を着て騎乗したオーク達でも崩れてしまう可能性があった。だが、それを100以上のオーク立ちを率いる隊長格のオークが一喝して沈め、重装備のオークを前に、一点突破の突撃隊形をとる。
『ぐ……鎮静したか。好機だと思ったのだが……アイラ!陣形を組んで突撃してくる!我はなんとか陣形を崩すから防壁の中は頼んだぞ!』
その様子を見ていたファルは、ブレスで広範囲に攻撃することをやめ、防壁の外へと飛び出していく。
「ファル?!」
アイラが呼び止めるものの、ファルは陣形を組んで突撃してくるオーク達に向かって、一直線に走っていく。
『ヌォォォォォ!グッ?!』
ファルは先頭のオークと接触するまで、一切スピードを緩めることなく走ったため、ぶつかった衝撃で先頭のオークがドレイクごと吹き飛ぶ。
だが、ファルの突進もそこで止まり、オーク達の軍勢に飲み込まれていく。
四方八方を囲まれ、ドレイクの攻撃や、オークたちの武器を使った攻撃でファルの身体に傷が増えていく。ハイオークとの戦いで負った傷もある分、ファルの体に蓄積されたダメージは大きい。
『ヌォォォォォ!!!我を、我を誰だと思ってる!静まれ駄竜共が!』
全身に傷を負っていて尚、ファルはオーク達の中心で暴れ回る。ファルの一喝で、ドレイク達は怯み、その隙に巨体から繰り出される強力な尻尾の一撃がオーク立ちをなぎ払い、巨大な顎が鎧ごとオークの命を奪い取る。
「ファル!」
その様子を見ていたアイラは、思わず村の外へと飛び出しそうになる。
「アイラの姉さん!ダメです!」
「どうして?このままだとファルが死んじゃう」
アイラは怒気を含ませながら、自分の腕を掴んで止めるオークに振り返る。
オークはその怒気を真正面から受け止めた。
「アイラの姉さんがいなくなれば村は突破されてしまうんです!」
オークの発言は、アイラの戦力としての価値と、ミアスの家族という立場であることからの指揮の維持、どちらの面でもアイラがいなければ村は守れないという事実から出たものだった。
アイラは、それを理解してはいるものの、ファルが我が身を犠牲にしながら、オーク達を足止めしているのを見ているのは我慢できない。
「……なら、さっさと抜けてきたやつを殲滅する。それならファルの所に行けるでしょ?」
そう言うと、アイラは強引にオーク達の手を振りほどき防壁へと走り出す。
身体強化で凄まじい速度を出すアイラにオーク達が追いつけることはなく、あっという間にファルを交わして村に辿り着いた重装備のオークの正面に出る。
「邪魔」
短い一言と共に放たれた拳は、ファルの突進すら防いだ重厚な盾を砕き割る。
その一撃で騎乗したオークが体勢を崩したため、ドレイクも同様にバランスを崩す。
アイラは、そのまま目の前に来たドレイクの頭を両手でがっしりと掴み、技でもなんでもない、ただ力任せに振り回す。
頭を持って振りまわされたドレイクの体は、あちこちから悲鳴をあげ、10秒ほどで息絶える。
それでもアイラはドレイクを話すことなく、大きく振りかぶると鞭のようにオークに叩き落とす。
ドレイクは鎧を来ているため、その重量に速度が加わった一撃でオークは絶命する。
「次。早く来て」
そんなオークに見向きもせず、アイラは手招きしながらオーク達を挑発する。
ファルを交わし、防壁まで抜けてくるオークはまだまだいる。アイラはその先で戦うファルを苦しそうに見つめながら次々とオーク達を薙ぎ倒す。
「ブゴォ!女1人に何を手こずっている!私が相手をしている間にさっさと村を滅ぼせ!」
アイラの強さに、オーク達の勢いが収まり始めたところで、隊長格のオークがファルの足止めから抜け出し指示を出す。
いくらアイラが強いと言っても、それはファルのように複数を相手にすることが出来る強さではない。
同時に相手にできるのはせいぜい3体が限界であると判断した隊長の指示で、オーク達は散らばりながら村へと向かう。
「行かせない」
アイラは近くにいたオークを殴り飛ばすものの、何体かのオークは抜けてしまう。
「アイラの姉さん!任してください!」
だが、数体ならば村人たちだけでも何とかできる。アイラは小さくありがとうと呟き、隊長格のオークに飛びかかる。
「ふん、小娘が!《断裂》!」
隊長格のオークは飛びかかってきたアイラの一撃を盾で受け止めることはせず、斧を振りかぶり武技を放つ。
飛び上がったアイラに斬撃が迫る。空中ではかわせないだろうと見込んだ一撃を、アイラは空中で身体をひねることで致命傷を避ける。
肩を切り裂かれるものの、強靭な皮膚や筋肉を断ち切る程ではなく、アイラの動きに変化はない。
武技で仕留めきれなかった事にイラつきながらも、隊長格のオークは冷静にアイラとの間合いをとる。
「なめすぎ」
それは先程の速度がアイラの限界だと考えての行動だった。
しかし、アイラは一刻も早くファルの元へ行くべく、身体強化の効率を高め、スキルレベルをその場で上げる。そうしたことで身体能力はさらに高まり、回避行動をとって油断していた隊長格のオークの懐に潜り込む。
「ま、待て?!やめーー」
「待たない。死ね!」
思わぬ展開に、命乞いを始める相手に対し、アイラは容赦なく拳を繰り出す。
アイラの拳は、堅牢なオークの鎧を貫き、腹部に突き刺さるようにして大きなダメージを与える。
だが、それでもまだ絶命してはいない事を知ってか、衝撃で中に浮かんだオークを追いかけるように飛び上がり、回転しながら踵を落とす。
金属同士がぶつかったような硬質な音が辺りにひびき、隊長格のオークは地面をバウンドして力なく横たわった。
「ファル、今行く」
身体強化で、身体に大きな負荷がかかっていたため、万全の状態ではないものの、アイラはすぐさまファルの元へと走り出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『ガァァァァァ!』
魔力をのせた、声の爆弾ともいえる咆哮でファルの周りに残ったドレイク達は戦意を喪失してしまう。
『ハァハァ、ようやく格の差がわかったか駄竜共め……』
ブレスを吐き続けた結果、排熱が追いつかずにファルの呼吸には炎が混ざっている。
全身に激しく傷を負っていて、ハイオークとの戦闘でミアスを庇ったことで負った傷も開き、ファルには殆ど余裕がなかった。
それでも、ファルの周りには30を超えるオークたちの屍があり、残っているオークの多くも浅くはない傷を負っている。
『グオォ……もう少し……もう少しなのだ』
「ファル!」
『アイラ?!』
だがそこで、村に迫ったオークたちを蹴散らしたアイラがファルに合流する。
そこにきて初めて、ファルは村の方を振り返った。立ち塞がったファルを抜けたオーク達の多くは、アイラや連携した村人たちによって倒されている。
残る戦力のほとんどは、ファルとアイラの周りにいるということだ。
『よくやったぞアイラ……だがもう少し頑張らねばな』
「ダメだよファル。死んじゃう」
アイラはファルの傷を抑えながら心配そうに声をかける。
『大丈夫だ。我は頑丈だからな……それより、何か大きな反応がこっちに向かってる』
「ミアス……じゃない。禍々しい感じ」
二人が見上げる先には、禍々しい魔力を放ちながら一直線にこちらへと向かってくる存在がいた。
オーク達もそれに気づいたのか、ファル達から離れ倒れた味方を下げる。
それを阻止しようにも、向かってくる存在の異様さにファルもアイラも動くことが出来ない。
次第にそれの姿が見えてくる。
黒く輝く鱗を持つ飛龍に、オークのような生き物が乗っている。
顔や、口元に見える牙は確かにオークのもの。だがその姿はオーク独特のシルエットではなく、細身でアイラのように引き締まった肉体を持っていた。
手に持っているのは一本の長槍。だが、その槍も謎のオーク同様に禍々しい気配を放っている。
「ブーデン様だ……」
「あの一刻槍の?!」
「本国は俺たちを見ていてくれてるのか!」
その謎のオークの正体がわかったのか、オーク達は厳しい雰囲気から一転、勝ちを確信したかのように喜びの声を上げる。
そして黒い飛龍に乗った謎のオークは、戦場へと舞い降りた。
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