第6話 記憶と夢
「光夜君、もう一度聞くね・・・どうして私の胸の方をじっと見ることが多いの?」
俺はその言葉にこの場から立ち去って逃げ出したいような気持ちになるも、動けず本当のことを伝えようとしても・・・言えない。
「そ、それは・・・」
やっぱり'これ'だ
俺が心の光の力について話そうとすると、身体中から悪寒がし、凍えるような体になったと思えば、すぐに暑くなり、燃え盛るような暑さを体がすれば胃液が逆流してくるよう俺は口を押さえ嗚咽をした。
「ど、どうしたの?」
心配そうな目をした姫野を見るが、それは・・・何か良いことがあったような、それとも納得したかのような顔をしていた。
心配しているのは本当だが、俺にはそのほかの気持ちがわかる。姫野は何かを確信している。
「体調悪そうだし・・・帰る?」
体が重く苦しく、まるでインフルエンザにかかっているような状態で、俺はその言葉にただ頷くことしかできな
かった。
俺たちは喫茶店から出て歩いて2.3分程度の近さにある公園のベンチに座ることにした。姫野が外の空気を吸ってスッキリした方がいいと言ったからだ。
「姫野・・・」
俺は姫野の名前をそう呼び、どうしても聞いてみたかったことを聞こうとすると
「花蓮って呼んで?」
俺の顔をじっと見つめ名前で呼ぶよう強要してくる彼女に対して俺はもう逆らうことができなかった。
「花蓮・・・お前って何考えてるんだ?」
俺がそう質問すると、花蓮は意外そうな目をしていた。まさか俺からそんな質問をしてくるとは予想外だったみたいだ。
すこし動揺しつつある花蓮の表情を俺はじっと見つめた。
「私は・・・光夜君のことをずっと考えていたよ」
さっきまで少し動揺していた様子とは打って変わって、ニコッと微笑みながらそういう彼女に俺は言葉が浮かんでこなかった。
花蓮の表情は嘘と本当の言葉が入り混じったような感じであり、理解できなかった。
「どうして・・・俺にそんなに付き纏う」
春の暖かさを味わえる天気の中、夕焼けによって染まる花蓮の顔はとても美しかった。美人な人に付き纏われるというのは良いことではあるが、不安はある。それに心がわからない人となると尚更だ。
「それは・・・光夜君のことをもっと知ってみたいって思えたからだよ」
「俺は'普通の'人間だ。どこにでもいる高校2年生の男子。彼女いない歴=年齢であり、顔は・・・まぁ普通だとは思う」
この言葉に俺は嘘は言ってはいない。ただ、能力があることは普通ではないかもしれないが。
「普通ってなんだろうね」
俺の方から視線を外し、横を向いてどこか物寂しげにそう言う花蓮に俺はどこかノスタルジーを感じた。
「あのさ・・・俺たちって昔会ったりしてないよな」
俺は恐る恐るそう聞いた。会っているわけがない、俺は初めて姫野花蓮という人物を知った。
そんなことないってわかっているのに俺は聞いてみたくなる衝動に駆られた。
「んー・・・記憶って全て覚られるわけじゃないから分からないけど、会っている可能性もあるし、ない可能性もあるよね」
そんな曖昧な返事に俺は記憶という単語に少し頭が引っ掛かった。
記憶・・・俺は中学1.2年生の頃の記憶はあまりない。その頃にこの心の光の力を得ていることは覚えているが、どうして手に入ったのか覚えていないし、さらにその頃の出来事もあまり覚えていない。
だが、授業で習ったことなどは覚えていて、勉強には支障はない。
「そうだよな・・・街ですれ違うとかももしかしたら会ったかもしれないしな」
俺はわざとさっきの花蓮のセリフから窓を外した言葉で返し、そのまま公演で解散した。
家に帰るとどっと疲れがでて、すぐにベッドに横になった。帰り道にコンビで買ったカップラーメンとサラダを食べる気もならずそのまま深い眠りについて体を休ませた。
夢を見た。
それは腕時計を見ると夜中の2時ごろを示していた。
場所は森に囲まれていて、星明かりによって少し道が見えるだけで、電灯などもほとんどないため暗さはある。
だが、そこには俺だけではなくもう1人誰かと一緒にいる。暗さのせいか誰かは顔がわからないが、なんとなくだが女の子ということはわかる。
俺はポケットにずしりとくる重さを感じ、手を入れると小さな懐中電灯があり、それのスイッチを入れ、目の前を照らす。
そこにはおそらく白であろう建物が見えた。
関係者以外立ち入り禁止と看板が建てられており、普通は入ったりしないのだが、俺たちはその中へなぜか足が吸い込まれるように入っていった。
なぜここに来たのか俺はわからず、その建物の中を歩いていくと背後から足音がする。
俺たちは手を握り、一緒に走り出すも背後からくる足音は異常なほど高い音で早く追ってきて、俺の肩に手が置かれた・・・
「うわぁ!!!」
肩に手が置かれた瞬間俺は目が覚めた。
家に帰るとベッドにすぐ横たわり、眠ってしまったせいか、変な体勢で寝てしまい体中が痛いが、ゆっくりと起き上がり、時計を見た。
時間は7時を指しており、いつも通りの時間で少し安堵した。
だが、今の夢はなんだったんだろう・・・夢にしてはとてもリアルで現実味を帯びていた。
そんなことを考えていると、俺の腹がとても高く、元気に鳴った。昨日の夜から何も食べていないからだ。
「なんか食べるか・・・」
空腹からか、夢のことはすっかり忘れており俺はいつも通り学校へと向かうのであった。