第5話 目
この心の光が見える力に気づいたのは中学生くらだった気がする。
はじめは人の心臓を見て、なぜか光っていてどういうものなのか分かっていなかったが、人によってピンク色や青色に光っているのを知り、その人と関わることでピンク色は俺に対して好意的、青色は俺のことを嫌っていると推測することができた。
だから俺は俺に対して好意的な人としか関わらないようにしていった。
俺のことを嫌っている人に対してはどうしても学校行事などで関わる機会はあるが、そいつらは笑顔で俺と話したり関わるが本当は俺のことを嫌っていると本心を知るといつも気分が悪くなる。
それからか、俺に対してどう思っているかだけでなく、ある程度その人が嘘をついているか本当のことを言っているか表情を見て判断することもできるようになっていた。
これは間違えたりすることもあるが、人は嘘をつき時表情がほんの少し険しくなる。それを見抜くできるようになったことで、心の光を見ることとその力を組み合わせることで俺に対して感情とその人が嘘をついているか否か判断する力を得た。
心の光を見る能力をどうやって手に入れたか、いつ手に入れたか俺はなんの記憶もなく、いつのまにか日常的に身についていて、記憶が何もない。
今までこの力を不審に思うことは最初以外何もなかったが、幼馴染みである結衣の心が見えなくなったこと、転校生の姫野の心の光が見えないことで俺はこの力について興味が湧き、俺がなぜこの力を得たのか真相を暴いていこうと考えていると、昼休みが終わる5分前のチャイムが鳴り、俺は慌てて弁当を片付けた。
「授業・・・いかねえと」
俺はいつも昼食は屋上で済ませており、ここ屋上は生徒は立ち入り禁止であるが、入学した頃に俺はたまたま3桁の鍵のパスワードを解けてドアを開けることができ出入りしている。
屋上から教室へ戻る際に、景色を見ると改めてこの街の美しさを再実感した。この俺が住む御心町は山、森、川がとてもきれいにバランスよくある街でなかなか有名な所である。
それに、遊ぶ場所も充実しており、国内トップ3に入る遊園地や、水族館と動物園が合体した建物、ホラースポットに最適と言われている心身研究所と言われる場所もあり、そこは夜になると怪しげな研究員が人を解剖して実験してる噂がある。
公園も複数あることから若者から老人にまで楽しめるような街になっており、俺はこの街で17年間生きているが不満などもあまりなくいい街だと思っている。
「おっと・・・景色見てる場合じゃないな」
俺は少し駆け足ながら屋上から立ち去り、2段飛ばしながら階段を降りていくと、下りきった瞬間その曲がり角から人が飛び出してきた。
「うわっ、いって・・・」
「きゃぁ!いたい・・・」
ぶつかった人は一度見ると目を離せないようなきれいなセミロング金色の髪をしており、その髪のせいかとても小さな顔をし、それとは裏腹に見ろと言わんばかりの強調した胸を持った女子高生が尻餅をつき、スカートがめくれ水玉のパンツがチラリと見えている状態だった。
「すまん・・・立てるか?」
俺は慌てて手を差し伸ばし、相手の女の子を立たせようとするが、一つの違和感を覚えた。
心の光が・・・見えない⁉︎
今日の授業終了のチャイムが鳴り、俺は伸びをしながら欠伸を軽くして帰る支度を行うと結衣が話しかけてきた。
「あのさ・・・ピンク色ってどんなイメージを持つ?」
結衣が唐突にそう問いかけてきた。
そして、俺の方をジーッと見つめる結衣を見ると俺はゆっくりと口を開けた。
「ピンク色っていうと・・・恋愛とかそういうものじゃね?」
俺の中では勝手にピンク色はそういうもんだと捉えているが、世間的にもそうだろう。
心の光もピンク色は好意を表すものであり、優しい色であるため俺はそう答えた。
「そっか・・・色って・・・それぞれ意味があるよね」
結衣はいつもこんな風に物事を考えたりせず、猪突猛進なるようになるのスタイルで何でもしてきたはずだが・・・俺が関わっていない間に少し性格が変わったのか?
そう疑問を思いながらも俺はただ相槌を打つことしかできなかった。
「光夜君、進入部員は見つかりそう?」
そうやって結衣と話していると帰る支度ができたのか、隣の席の転校生の姫野花蓮が話に混ざるようにそう話しかけてきた。
「・・・まだもう少し待ってくれ」
「わかったよ・・・まだ部は出来てないし、場所はないから・・・今日はみんなで喫茶店行かない?」
姫野がそう言うと俺の手を掴み、そのまま俺の意思に関係なく歩き始めようとした。
「ま、まてまて!喫茶店いって何するんだよ!」
俺は慌てながらもう片方の手で姫野の肩を掴みそう答えた。
「んー・・・光夜君のこと知りたいから、お喋りしたいなって」
姫野ってこんな性格なのか?転校初日はもっとお淑やかで大人しいイメージはあったが、こんなにアクティブだとは知らなかった。
見た目からも清楚系で真面目なイメージがあったが、人は見かけによらないとはこのことか・・・
「・・・はぁ、わかったよ、行こうか」
俺の勘だが、ここで断ることは無理な気がして少し小さなため息を吐き、行くことにした。
「光夜君って彼女とかいるの?好きなタイプは?食べ物何が好きー?好きな色はー?」
まさかこうなるとは思っていなかった。結衣は今日用事があるらしく来れなくて、勇魚は妹の面倒みないといけなくて放課後は時間が空いていないらしく、姫野と2人きりだ。
「まてまて、一つずつ言ってくれよ」
「じゃあ・・・なんでいつも人の心臓・・・というか胸を見てるの?もしかして、何か見える?」
その言葉に俺は凍りついたと言えるだろう。コーヒーを混ぜる手が止まり、恐る恐る姫野の目を見ると俺の目をじっと睨むような、目力があるような、悲しそうな、不安そうな、楽しそうな、怖そうな、好奇心旺盛な、恋する乙女のような、怒っているような・・・ただその目から目を逸らすことができない、まるで姫野の目に飲み込まれるように・・・俺は姫野花蓮の目に虜になっていた。