第4話 見えなくなったもの
静寂な部屋の中でただ時計の針がチクタクと動くだけで時計の針が夜の11時を指す頃に俺はようやく動く気力が湧いてきた。
俺は今一人暮らしをしていて、親から仕送りをもらいながら生活をしているが、料理などはせずいつも近くのコンビニで買ってきて家で食べる生活をしているせいか、家に買いだめしているものはなにもなく、コンビニに行って夕食を買わなければならないのだがここから動く気力がまだあまりない状態だ。
「ハラ減った・・・」
徐に立ち上がり、少しフラフラになりながらもリビングへと向かい、コップ一杯の水を飲むと喉元の渇きが一気に癒されるように、また身体が元気を取り戻すように夕食を買いに行く気力が湧いた。
夕食を買い、リビングの椅子に座りテーブルに買ってきた弁当を置きながら、テレビをつけボーッとクイズ番組を見ていると、今日の出来事を思い出した。
・・・結衣の心の光が真っ黒になるのを見ると不意に唇を奪われ、そのまま結衣は俺の部屋から出ていった。それから俺はその場から動けず、ベッドに横たわることしかできていなかった。
平々凡々な生活を求め、人間関係を悪化せず安定して生きていくよう決めていた俺がこんなことが起きるとは思っておらず、これから結衣の顔をどう見ればいいのかわからない状態になった。
「結衣に・・・転校生の姫野・・・なんだよこの感情」
2人の顔が頭に思い浮かび、2人のことを考えるだけで胸が苦しくなってくる。それに心臓の鼓動が早くなってくるもの感じ、そのまた現れる懐かしいような感情に気持ち悪さを覚え、洗面所に行き顔を洗った。
「そういうことかよ・・・」
この感情が気持ち悪く、なんなのか見ようとし、洗面所の鏡を見ると・・・俺の心の光は二つあり、それへもう片方に負けず劣らずピンク色に眩い光を放ち光っていた。
「光夜!久しぶり!体調大丈夫だった?」
3日ぶりの学校に行き、自分の席へ鞄を置き、重たい腰を下ろすと前の席の俺の親友である安藤 勇魚が話しかけてきた。こいつは俺のクラスでは一番仲が良く、そしてとても綺麗な目をして女の子に間違われるくらい中性的であり、心優しい性格の持ち主である。
「ああ・・・もう大丈夫だ」
勇魚の顔を見ると俺の複雑で気分の悪くなる気持ちが洗われるようにスッキリし、落ち着くことができた。
「おはよう、風邪ひいたんだって?大丈夫だった?」
俺が安心した瞬間に、転校生の姫野花蓮が話しかけてきた。
「大丈夫・・・だ」
なぜ姫野がこんなに話しかけてくるのかわからない。俺にもう構わないでほしいが、それに反するように俺の顔をじっと見つめてくる。
「あー、そうそう!光夜君って部活入ってるの?」
「いや、入ってないけど」
姫野の目的がわからない、なぜ俺に絡んでくるのか。探りを入れるべきか・・・それとも
「それなら、私部活作るんだけど光夜君もよかったらどう?」
俺の思考を遮るようにそう言う彼女に俺はもう考えるのをやめた。断りの言葉を入れようとした瞬間
「僕も入ってるんだけど、光夜もきてほしいな。それに結衣ちゃんも入ってるんだよ」
親友の勇魚がそう言うと俺のいなかった3日間の間に何があったのか気になり、また転校生の姫野も明るい性格であり、慣れてきたのではないかと思いながら俺はこう告げた。
「いいよ、てかなに部?」
心の光が見えない転校生の姫野花蓮、こいつの正体を確かめるために俺は・・・こいつに近づいてなぜ見えないのかはっきりさせてやる。俺はそう目的を心の中にしまい込んだ。
「んーと、心理研究部!」
勇魚と姫野が心理研究部について詳しく説明をもらった。それはいわゆる、人の心について考えていく部であり、それとともにみんなでワイワイ楽しくおしゃべりをしようというものだった。顧問の先生も決まっており、部員は俺を含めて4名で部活として認めてもらうためにあと1名が必要らしい。
「わかったよ、俺も入る」
「ありがとう!じゃあ、部長よろしくね!」
そう言われニコッと俺の方へ指差す姫野を見ると俺は慌てて否定するも、3人の中でもう決めていたらしく俺が強制的に部長になった。まぁ、やることなんてほとんどないと思うしいいんだけど・・・心理研究部という俺の中では目的にある意味一番近い部活であり、姫野花蓮の存在についても良く知れると思い密かに闘志が湧いてきた。だが、問題が1つある。結衣がいることだ・・・
「なになに、部活の話?」
そう考えていると、タイミングよく結衣が教室へ入ってきて、俺たち3人の輪の中へ来た。
昨日の今日で少し気まずさはあるものの、結衣の方を見ると・・・俺は時が止まったかのように感じた。
結衣の方を見ても'心の光が見えない'
「そうそう!これで4人だね!あと1名...部長探してきてね!」
姫野がそう言うも俺はその会話は全く頭に入ってはこなかった。
昨日まで見えていた結衣の心の光が全く見えないのである。今まで見えていた人が見えなくなるなんてことはなかった。俺の心がまた大きく揺さぶられた・・・