第1話 人の心が見える俺と、見えない転校生
「転校生を紹介する。今日から転入することになった、姫野花蓮さんだ。みんな、、仲良くするように」
HRのチャイムが鳴り、いつも通りカツラが少しだけずれている男の担任の先生である牧野先生が出席簿を手に取ったまま教室に入り、教卓に立てばそう言って黒板に転校生の名前を書いていった。
「姫野花蓮です。父親の仕事の都合で引っ越してきました。昨日超してきたばかりで分からないことだらけですが...仲良くしてくれたら嬉しいです」
転校生は黒い髪のロングで肩まで降りるほどの長さを持ち、目はパッチリと開かれていてニコッとした笑顔からは男子生徒が目を見張るのはもちろん、女子までどこからか綺麗やら可愛いやら声が聞こえるほど転校生の容姿やスタイルは素晴らしく思えた。
「姫野さんはどこからきたんですかー!」
「彼氏とかいるのー?」
「好きな食べ物ってー?」
「おいおい、一気に質問するな。そういうのは休み時間にしろ。姫野、あそこの席へ座れ」
男子や女子が挙手し勝手に質問をしていき、少し慌てながら教室内を左右見廻しどうすればいいのかわかっていない転校生の姿を見た牧野先生は、場を仕切るようにそう言って転校生はゆっくりと自分の席へと歩いていく。
「やば、めっちゃいい匂いするんだけど」
「歩き方まで綺麗なんて・・・」
やはりどこか彼女から目を見放せないほど美しく、クラスのほとんどの人がゆっくりと歩く転校生を見ており、俺の席の隣へとついた。
窓側の一番後ろの席が俺の席であり、その隣に座った転校生は俺の方を向きニコッと微笑んで
「よろしくお願いしますね」
とものすごく'作り笑い'に感じた笑顔を見て背筋がゾッとするものを感じながら俺は相手の方を一瞬チラッと覗くだけで
「ああ・・・よろしく」
とぶっきらぼうに答えるしかなく、少し転校生のことを不気味に感じながら逃げるように窓の外の景色を見てその場を締めようとした。
「ここ3階ですけど・・・景色が綺麗ですね。山が見えて、川が見えて商店街も・・・素敵な町なんですね」
なぜ俺に絡んでくる・・・転校生からそっぽ向いた俺の肩をポンポンと手で叩き、そう言った。
しかも、俺と転校生が話してるせいでクラスメイトからの視線が痛い。みんな俺と転校生が話していることで困惑している様子で、ものすごく勘弁して欲しい。
だが、ここで無視するとクラスメイトから転校生を無視したことにより大バッシングを受ける可能性に違いないと感じ、意を決して相手の言葉に返事をしようとした瞬間・・・
「じゃあ、HRを終わる、1時間目の準備しとけよ」
俺が思考していた一瞬の静寂の中で先生によるHRの終わりを告げる言葉でその静寂は途絶え、次の授業の準備へとクラスメイトは動き出し、その場は凌いだ。
準備を終えたのか、クラスメイトは転校生の席を囲むように質問攻めを繰り返し、漫画とかでよくある転校生の質問攻めってこういうことなんだと知りながらも俺は一つの疑問を感じていた。
それは・・・転校生からは'心の光'が見えない。
心の光というのは俺が勝手につけただけだが、まず人は心というものはある。
そして、心には纏めて言えば喜怒哀楽の感情があり、細かく言えばキリがないが俺はそう言った'俺に向けてどのような感情を感じているのか'理解することができる。
ようするに、俺に対して好意的であればピンク色の光、俺のことを嫌っていれば青色、普通なら緑色など・・・まだ分からないことがあるが、今のところ5種類は判明している。
その光というのはその人の心臓の部分に目を凝らすと見え、その人と関わることでその光の色は変化していく。例えば、第一印象が悪く青色の光だった人が、関わる中で好意的になってもらいピンク色に変化するなどある。だが、転入生には心の光が見えない。
どんな人にだって今まで見えていた・・・会ってことのないテレビに出ているニュースのキャスターや芸能人など、俺のことを知らないはずの人まで見えていたのにこの転校生だけは見えない。
心の光は見えた方がいいのか、見えない方がいいのか俺は未だ迷っているが実際見えない相手が出てきたことで俺は嬉しい気分でもあり、恐怖を感じた。
今まで心の光を見てきたことで仲良いと思っていた友人が俺のことを嫌いだったりするなど人間の本質を見てしまい一時期は心の光を見ないよう何も意識しないようにしていたが、人間の欲望というものは強く意識してしまって心の光を見てしまい、また絶望してしまう。
それから逃れられる可能性があると思いつつも、この力がないことで俺のことを相手はどう思っているのか分からず人間不信になってしまいかねないと俺は感じた。
この力があるおかげで俺は物事を深く考えず、俺のことを好意的に思ってくれている相手とだけ接してきたが、今初めてこんなに深く考えてしまった。俺らしくない・・・いつも物事は適当に済ませてきたはずなのに、この転校生のせいで気が狂う。
だが、転校生のおかげで俺はこの力について何か分かるかもしれない。それに、なぜかこの転校生は俺に対して少し好意的に話しかけてくるように感じた。だから俺は・・・この転校生と仲良くなって、この心の光の力を知っていく・・・俺はそう決意して、1時間目の授業に入っていった。