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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第七十四話  追憶令嬢13歳

ごきげんよう。レティシア・ルーンですわ。

ステイ学園の2年生です。

平穏な生活を夢みる公爵令嬢です。


アリス様とノア様の仲も良好で一安心です。しばらく平穏で幸せな日々を過ごしていました。それは嵐の前の静けさというものでしたわ。

学園には隣国のラル王国から留学生がきています。学期半ばの微妙な時期なので訳ありだと思います。お父様なら事情をご存知ですが私は知りたくないので聞いていません。留学生の第二王女エリザベス・ラル様は4年生、第三王女シャルロッテ・ラル様は3年生、ルイーザ・ラズ侯爵令嬢1年生です。美人な留学生に殿方は喜び、王女様二人と侯爵令嬢の留学はとても豪華な組み合わせです。

歓迎の王家主催の夜会でご挨拶しましたが学年が違うので関わることになるとは思っておりませんでした。

私の平穏な日々は短かかったです。

放課後になると不幸に襲われています。


「ルーン公爵令嬢!!私と勝負してくださいませ」


今日も聞こえる同じ声と同じ言葉に何度目かわからないため息を飲み込みました。

演技ではなくよわよわしい表情浮かびます。

ラル王国の令嬢は淑女と聞いていました。私はラル王国には訪問したことはないので伯父様のお話と基礎知識しかありません。噂とはあてにならないものですわ。

放課後になるといつも声をかけられるので、授業が終わってすぐに教室から移動しました。荷物をシエルに任せ、セリア達への別れの挨拶をすませてすぐに優雅に見えるように細心の注意をしながら足早に飛び出しました。目の前に仁王立ちしているご令嬢。リオには申しわけないですが留学が終わるまでリオの部屋に避難させてもらいますか?

駄目ですわ。リオの部屋に隠れても見つかりますわね。気配を消してもこのご令嬢はいつも現れます。

頭が痛くなってきましたが繰り返される言葉に足を止めて礼をします。


「ごきげんよう。ラズ様」


目の前にいるのは私よりも1歳年下ですが身長も高く女性らしい体をお持ちのルイーザ・ラズ侯爵令嬢です。私は放課後になると彼女に付きまとわれています。

挨拶も終わりましたし立ち去りましょう。


「お待ちください。どうか」


やはり無理でしたわ。外交問題になるため他国の令嬢を無視するわけにはいきません。そして何度目かわからない同じ言葉を伝えます。


「申しわけありませんがマール様との婚約を賭けての勝負はお受けできません。この婚約はルーン公爵とマール公爵が決めたものですわ。私はルーン公爵の命に従うまでです」

「私は幼い頃からマール様をお慕いしていましたの!!もちろんルーン公爵令嬢に縁談をご用意しますわ。両国の友好のためにお力添えいただけませんか」


ご令嬢の言葉を聞いているとラル王国の婚姻には本人の意思が反映されるそうです。ラル王国とフラン王国の文化の違いをお伝えしてますが通じません。リオをどんなに慕っていても、私に口を出せることはありません。リオを子供の頃から慕う令嬢はたくさんいます。それでもマール公爵家は選びませんでした。そして残念ながら二人の縁談に利はないので整うのは難しいと思います。マール公爵家は外交官としてリオを育てています。そして魔力の強いリオを他国の婿には渡しません。魔力の強い優秀な魔導士は王国内に留めたいというのが現国王夫妻のお考えです。そのためリオの婿入りは難しいと思います。例え利があっても私に言われてもどうにもなりません。


「そのお話はルーン公爵とされてください」

「同じ女性として好いた殿方と添い遂げたい気持ちをわかっていただけませんか」


意思の強い瞳で女性としての幸せを熱心に語られています。私は今日も同じことを思いながら聞き流します。

私は公爵令嬢なので、恋心より優先すべきものがありますもの。残念ながら決められた相手と添い遂げたいという気持ちしかわかりません。すでにその考えも崩壊していますが。

アリス様のように誰かを一心に思える気持ちは尊いものなのかもしれません。でも私には不要なことです。たとえ脱貴族しなくても公爵令嬢に恋はいりません。女性貴族の教えに恋の項目はありません。でもはっきりお伝えして逆上されて外交問題になっても困ります。

よわよわしく笑み静かな声でゆっくりと言葉を掛けましょう。敵対するつもりはありませんとアピールしながら。


「叶えば幸せなことだと思いますわ。ですが公爵令嬢に生まれたからには自分の思いよりも、優先しなければいけないものがあると思います」


「ですが、」


それでもリオと結ばれたいと熱弁するのは薄々気付いていましたがフラン王国語が通じませんか?

試しにラル王国語で話せば通じます?初日にラル王国語で同じお話をしましたが無理でしたわ。ラズ様の恋慕うもの同士が結ばれることの熱弁を聞きながら思考します。相手の立場に立って物事を考えるのも大事なことです。どんなに考えても理解できませんでした。

想い合うものが結ばれて当人同士は幸せかもしれません。それは周囲の理解があれば。

ラズ様の嫁入りなら可能性はありますか?

もしもラズ様とリオが強く望むなら、お父様を説得するのもありですか?リオにはいつもお世話になってますし幸せになって・・。一瞬思考が止まりモヤモヤする憂鬱な気分に襲われましたが、お茶の飲みすぎですか?まぁいいですわ。

恋は人を狂わすもの。リオがラズ様との未来を望むのなら私にできるのは・・・。

他家のことには口出し厳禁ですのでマール公爵家には口出しできません。リオとの婚約を破棄して自由に動けるようにします?婚約破棄に必要なのは醜聞か利がなくなることです。正直、この婚約の利が私には見えません。それなのでその利がなくなる方法もわかりません。もしもこの婚約にリオの意思が関与しているとしても、それは肉親の情というもの。幼い頃の約束を守るための手段としてリオが了承しただけであり、破棄を勧められれば躊躇いもなく頷くでしょう。婚約した理由を一度詳しく聞いておくべきでしかた?でもお父様の判断に口を出すのもいけませんわ。リオに相談されてから考えましょう。私は婚約破棄したくなれば、邪魔になったら教えて欲しいと言ってありますもの。リオも頷いてくれましたし、って今はそんな自問自答してる時ではありません。想い合わない者同士の婚姻が不幸と語るラズ様に呆れながらも言葉を濁して伝えます。フラン王国の多くの者を敵に回す発言ですが、私達の会話を聞いている生徒達もルーン公爵令嬢が許すなら抗議し、外交問題になることはしないでしょう。


「私はこの婚約を了承しております。ですがマール様が私との婚約破棄を望んでいるなら、穏便な方法を探したいと思います」


用意された縁談に反対するなど許されません。心では何を思っても笑顔で歓迎するのがフラン王国の貴族令嬢ですわ。一応マール公爵家が望むなら私は婚約破棄に異存はありませんと言う意味も込めましたので納得していただけますか?私よりもマール公爵家か王家に相談してくださいとはこの縁談について一番立場の低い私には言えませんし。


「マール様はお優しい方なので、そんなこと言えませんわ。殿方の心を察してさしあげるのも大切だと存じますわ」


堂々と言われてる言葉に曖昧な笑みを返します。今日も平行線です。昨日は偶然現れたエイミー様が助けてくださいました。勝負を受けてどちらかがケガをしたら外交問題。まず婚約を賭けても意味はありません。ラズ様の要求はリオとの婚約。ですが私にはそんな権限ありません。


「申しわけありません。私の不得手とするところですわ。マール様はいつも、きちんと言葉で伝えてくださいますので甘えてしまっております。」

「そんな!?マール様は言葉にするのが苦手な方ですわよ」


ラズ様のマール様はリオ・マールではないんでしょうか。ラズ様の語るリオのイメージがつきません。社交のときでさえリオはよく話します。私はリオの隣で微笑み相槌を打っているだけですみますもの。それにリオは物凄く口煩いです。たぶん、察してほしいと願われたことなど一度もないと思いますわ。

リオの考えてることなんて、私にはわかる気がしませんが。

能力の違いはどうにもなりませんわ。天才の考えは凡人にはわかりませんわと言いたいですが、言ったら外交問題に…。やはり他のマール様のことでしょうか。でもリオのお兄様はすでに婚姻されていますわ。分家?私はマールの分家の方はほとんど知りませんよ。



「ラズ侯爵令嬢、これ以上私の婚約者を困らせるのはやめていただけませんか」


聞き覚えのある声に近づく濃紺の髪色を見てほっとしました。ラズ様はうっとりしたお顔でリオを見ています。

ラズ様の言うように婚姻は本人同士で決めることなら最初からリオと話してくださいな。私は退散しましょう。礼をしようとすると隣に立ったリオに腰を抱かれていました。笑みを浮かべたまま抗議の視線をむけると微笑み返されました。物凄く嫌な予感がします。


「マール様、私は幼い頃よりずっとお慕いしております」


ラズ様の声が響きました。私達の周りには人が集まっていましたがラズ様の声に足を止める方が増えました。私は今世はこんなに視線を集めたことはありません。

腰を抱く手が離れたので、逃げようとすると強い力で肩を抱かれてリオの胸に顔を埋めされられました。私を抱き寄せて体を密着させているリオの非常識に頭が痛くなってきました。この状況で抱き寄せないで。巻き込まないでくださいませ。恋愛に興味はないですが告白されて、他の女性を抱きしめるっておかしい状況ですわよ。リオに抗議の視線を向けると宥めるように頭を撫でられました。私が求めるのは解放していただくことですわ。


「申しわけありませんが貴方の気持ちを受け取ることはできません」

「家のことはラズ侯爵家におまかせください。もちろんルーン公爵令嬢のことも責任をもちますわ」



私の望んでいた当人同士の話し合いですわ。リオが私を抱きしめていなければ何も異論はありません。


「私の本当の気持ちを話しますので、胸にとどめていただけますか?」

「もちろんですわ」


嬉しそうなラズ様の声に物凄く嫌な予感に襲われます。


「外交問題には」

「そんなことさせませんわ。どうぞマール様のお気持ちをお聞かせください」

「ありがとうございます」


そっとラズ様の顔を覗くとうっとりとしたお顔。そしてリオの浮かべる笑みは社交の笑みでも企みのあるときのお顔です。その企みはあまり良いものではありません。エイベルがボロボロにされる時に向けられる笑みでもありました。

ラズ様が大事な最強の盾を手放しましたわ。ラズ様、見惚れてる場合ではありませんよ。リオのこの笑顔は要注意ですわ。私ならすぐに謝罪して逃げますわ。寒気がしてきました。リオの腕を振り解きたいのに力が入ってるから無理ですわ。

「すぐすますから待ってて」と囁きながら、私の肩に脱いだ上着を掛ける恐怖の原因に怖い笑顔をおさめてくださいとは言えません。この状況ではリオにされるがまま、よわよわしく微笑むくらいしか選択肢がありませんが…。腕が離れてほっとしたのに、腰を抱かれているのでトンズラはできません。


「迷惑です。私は幼い頃よりルーン公爵令嬢を慕っていました。両公爵を説得しようやく彼女の隣にいる権利を手に入れました。生涯彼女以外を愛することはありません」

「未来のことはわかりませんわ」


堂々と言うリオはラズ様の持論に合せてますのね。想い合っていないことが問題ならそう想い合っているように思い込ませればいいんですね。私には思いつきませんでした。リオは役者ですわね。

ラズ様は肩を震わせました。そしてリオの顔をじっと見て強い口調で応えました。この怖い笑みを浮かべるリオに反論するのは流石ですわ。観衆の中に目を輝かせているブレア様を見つけました。きっとまた妄想の花が咲くでしょう。リオと私のやり取りはブレア様の栄養源とセリアが意味のわからないことを言っていました。


「わかりますよ。彼女以外を妻に迎えることはないと我が名に精霊に誓っても構いません」


私の手をとり、手の甲にそっと口づけを落とす姿に息を飲む音が聞こえました。悲鳴がおきないことだけでもありがたいと思いましょう。役者のように振舞うリオに令嬢達は見惚れています。私はこの状況が外交問題にならないか不安でたまりません。外交官を目指しているのにリオは何をしてるんでしょうか。伯父様にお伝えしたほうがいいでしょうか?いえ、リオのお兄様、嫡男のカナ兄様に伝えますか?


「ルイーザ、満足したかしら?」


「エリザベス様!!」


近付いてきたのはラル王国の王女様です。女性らしい体とすでに貴婦人のような顔立ちで、成人していると言われても驚かない豪華な薔薇にたとえられることが多いらしいエリザベス王女殿下。アリア様と並んでも見劣りしない容姿の持ち主です。

リオの腕からようやく解放されたので、礼をします。


「楽にしてください。申しわけありませんでした」


ゆっくりと頭を上げると美しい笑みを浮かべたエリザベス様が頭を下げました。

王族が臣下のために頭を下げるのを初めて見ました。って動揺している場合ではありません。隣に立っているリオさえも目を見張って驚いています。


「恐れながら、頭をおあげください。こちらこそラズ侯爵令嬢を傷つけてしまい申しわけありません」


王女に頭を下げさせるなんて許されることではありません。王族が足を運ぶ前に事態を収拾できなかった私の手落ちですわ。ここで対処を間違えればクロード殿下が収拾に動く案件ですわ。深く頭を下げます。ラズ様が謝罪しないのに突っ込む余裕もありません。


「ルーン公爵令嬢、頭をあげてください。非はルイーザにありますわ。この件はここで終わりにすると約束しますわ」


外交問題にしない確約にほっとしました。きちんとラズ様に言い聞かせるとも言ってくれていますね。ラル王国の王族はマトモなんですわね。エリザベス様、素敵ですわ。きっと良いお付き合いができると思いますわ。


「お心遣い感謝いたします」


感謝を告げて、頭を上げると美しい笑みを浮かべて優雅な足取りでエリザベス様が去っていきました。クロード殿下やお父様のお手を煩わせずすんだことにほっとして力が抜け、傾く体はリオに支えられました。もう何も言う気力はありません。茫然としているラズ様を気にする余裕もありません。リオが抱き上げようとするのを拒否して礼をして立ち去りました。

私は無意識に目指した場所に驚きました。生前の癖で生徒会室に報告しに向かっていました。私は殿下の

婚約者ではありません。対応を間違えましたわ。あの場で謝罪して事を納めなければいけないのは家格の高いリオでしたわ。もう起こってしまったことは遅いですわ。でも生徒会室に入る前に気付いて良かったですわ。昔のように護衛が私の顔を見ればすぐに部屋に入れてくれるわけではないので止められるとは思いますが。

殿下の婚約者が見つかるといいんですわね。殿下、私はエリザベス様は良いと思いますよ。

そろそろ殿下をお支えしてくださる婚約者を見つけてもいい時期だと思いますよ。アリア様は早婚を望まれてますから。生前はですが。

とりあえず今は早く留学期間が終わってくれることを祈るばかりですわ。

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