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追憶令嬢の徒然日記  作者: 夕鈴
第二章

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第七十三話 後編  追憶令嬢13歳

おはようございます。レティシア・ルーンですわ。

平穏な生活を目指すステイ学園の2年生です。


アリス様とノア様の乗馬訓練の相談のためエイベルに面会依頼をしました。

朝なら時間が作れるそうなので、シエルを連れてエイベルの部屋に来ています。一応、お礼にルーンの回復薬を用意しております。


「おはようございます。人払いをお願いします。シエルを残します」

「わかった」


エイベルの視線で侍従が離れていきます。シエルは事情を説明しているので大丈夫です。報告書に書かないことも約束してます。

アナの無邪気な笑みを真似してニッコリ笑顔を浮かべます。


「お兄様お願いがあります」


やはり効果はなく、眉間に皺があり嫌そうな顔をされました。


「例の訓練は伯父上の許可が出てからだ」


ターナー伯爵家での訓練はいくつか制約があります。魔法を使った訓練をする許可は出ていません。学園で習う訓練なら制約には引っかかりません。危険な修行は大人と一緒がターナー伯爵夫妻とのお約束です。今はその話題ではありません。エイベルへの献上品を机の上に置きます。ルーンの回復薬と万能薬を調合しました。ビアードでは絶対に手に入らない良質なものですわ。


「監督生として力を借してください。難関と言われる試験合格おめでとうございます。これはお祝いです」


エイベルが箱に詰めてある瓶を開けて嬉しそうに笑いました。眉間の皺が消えました。


「感謝するよ。さすがルーンだ。用件による」

「光栄ですわ。後輩に乗馬を教えるために、協力していただけませんか?」

「マールに頼めば?」

「家の関係で難しいんです」

「そうか。わかった」

「エイベルと訓練を希望する後輩のお相手をお願いしたいんですが」

「構わない」


理由を聞かずに協力してくれるところはありがたいです。

リオは時々凄く細かくて面倒ですもの…。


「できれば一日で仕上げたいので、一日訓練場を貸し切りにして付き合ってもらえますか?」

「一日か。最近落ち着いてるしな。わかった。手続きしとく。いつ?」

「学園の休養日なら構いません。お兄様ありがとうございます」

「妹弟子の頼みは無下にはできないからな」

「優しいお兄様を持って幸せですわ。」

「ただしマールにはお前から説明しろよ。巻き添えを喰らうのは勘弁だ」


エイベル・・。先程までの頼もしかった様子が台無しですわ。

でも時々リオは怖いので物凄く気持ちはわかりますわ。入学するまでリオがこんなに怖いなんて知りませんでした。できれば知りたくなかったですわ。今回は私用なので私がエイベルを責任をもって守りましょう。優雅に微笑み了承をしました。まだ登校するまで時間があるのでエイベルの机の上にある書類仕事を手伝ってあげることにしました。私はエイベルの筆跡を真似るのは得意なので見つかることはありませんわ。面倒な手続きをエイベルが引き受けてくれるので時間を空きましたし。書類仕事をしながら、エイベルに騎士の話を教えてもらいます。ノア様の質問は私にはいつも答えにくいものばかりです。正直、武門貴族の武力の把握は専門外ですわ。王宮の非常時の避難経路や籠城については習っていましたが他は知りませんよ。物騒な難しいことは全てクロード殿下がお勉強してましたもの。




ノア様の説得は簡単でした。

エイベルの名前を出しただけで目が輝き、乗馬の練習も喜んで了承してくれました。乗馬というよりもエイベルさえいればなんでもいいみたいですわ。エイベルがこんなに役に立つとは思いませんでしたわ。エイベルよりもグランド様のほうが頼りになると思いますがまぁ価値観はそれぞれですね。

アリス様もやる気満々です。乗馬服を持ってないのでサイズの同じリナの訓練着を借りました。

アリス様はアナ達と打ち解けて本当に良かったですわ。私は恋の相談は不得手なのでアナ達が全力で応援してくれるので助かります。女の子は恋の話が好きですのね。この現状をお姉様がどう思うかは知りませんが・・。そして頻繁にアナ達と過ごしているのに周囲に上手に隠しているアリス様の手腕も感心します。


集合時間よりも早めに訓練場に向かい、結界と馬の準備を整えました。大人しい馬をエイベルが選んでくれました。

アリス様を紹介するとエイベルに肩を掴まれ連れ出されました。


「どういうことだ?乗馬を覚えたいのって」

「アリス様です」

「マートン侯爵令嬢がなんでお前に指導を頼むんだ?」

「お兄様、ここは平等の学園ですわ。何があってもエイベルが一緒なら大丈夫ですわ。エイベルは乗馬も得意ですし、落馬しても風で受け止めてくれるでしょう?怪我をさせることなどありえないでしょう?」


まさかエイベルが派閥を気にするのは予想外です。眉間に皺を浮かべているエイベルにニッコリ笑顔で見つめます。視線を逸らしたら負けです。

銀の瞳が閉じられ、頭を乱暴に掻いてます。私の勝ちですわ。

背伸びをしてエイベルの乱れた髪を手櫛で整えながら笑みを浮かべます。


「ありがとうございます。お兄様」

「バカだろう。言い出したら聞かないよな。勝手に一人でされるよりいいか。マールの気持ちがわかった。あいつすごいよ。本当に」

「リオ兄様が凄いのは今更知ったんですか?相手の力量を」

「お前が言うな!!」


頭を軽く叩かれましたが今は許して差し上げましょう。今回はエイベルのおかげで全てが穏便にすみましたもの。エイベルと久々に軽口を叩きながら戻るとノア様を見つめるアリス様。馬を見ているノア様。二人の間に会話はなく打ち解けた様子はありません。


「お待たせしました」

「ルーン嬢、乗馬したいのってルーン嬢では?」


表情の固いノア様に笑みを浮かべます。私は一言も自分がなんて言ってませんよ。


「アリス様です。馬に興味があるのに、許しがでなくて。貴族令嬢ですと中々」


よわよわしく笑みを浮かべてアリス様に視線を向ける私をエイベルがうさんくさい目で見てます。いい加減に空気を読んでこの設定に慣れてくださいませと心の中で突っ込みをいれます。


「はい。馬に憧れてましたが令嬢の趣味としては理解されなく・・・」

「馬に興味が?」

「はい。颯爽と走る姿が素敵ですわ。令嬢として恥ずかしいですわね・・・」


初めてノア様がアリス様に言葉を掛けました。さすが侯爵令嬢ですわ。馬の魅力を語る姿に嘘は見られず本当に好きなように見えます。もちろんノア様が馬が好きと言う情報を流し、乗馬したいように振舞うことは助言しましたがそれ以上は伝えていません。これは一歩前進ですわ。

余計なことを言いそうなエイベルは視線で黙らせて二人のやり取りを静かに見守ります。


「そんなことないです。馬の素晴らしさを語るのに男も女も関係ありません」


ノア様が笑顔を浮かべアリス様が見惚れてます。

エイベルにそろそろ止めろと視線を向けられ、確かに時間は有限です。邪魔するところは申し訳ありませんが声を掛けましょう。

アリス様への乗馬の指導が始まりました。事前に基礎知識は教えてあるので実地からですよ。

私が教えようとするとエイベルに頭を叩かれ邪魔せず見てろ、ノア様にはその指導は危ないと止められました。悔しいですが今回は目を閉じましょう。大事なのはノア様とアリス様が絆を深めること。

エイベルが主体で教え、ノア様がエイベルに夢中で話しかけているので邪魔をしないように笑顔で圧力をかけながら見守ります。それでも、時々ノア様とアリス様の言葉を交わす光景に笑みが零れます。ノア様の表情も警戒する顔から自然なものに変わってます。目を輝かせてエイベルを見てますがそこは気にしません。


お昼になったので、三人に声を掛けて休憩です。

シエルが用意した席で食事をしますが、ノア様もエイベルも良く食べますわね。ノア様がエイベルを質問攻めにしているのをアリス様は夢中で見ています。

食後はエイベルとノア様は訓練するみたいです。もともと訓練の約束もありましたしね。アリス様には疲労の色が見えますし、丁度良いでしょう。体力お化けの二人にアリス様は付いていけません。

アリス様にはルーンの体力回復の薬を渡して飲ませました。

体力が回復したアリス様は目を輝かせて私を見ています。


「レティシア様、見学してはいけませんか?」

「アリス様、訓練を本当に見たいんですか?」

「はい」

「物騒ですが気絶しませんか?ノア様に斬りかかるエイベルを見てられますか?」

「私はノア様を知りたいんです。駄目ですか?」

「具合が悪くなったら教えてください。我慢しないと約束してください

「レティシア様は心配症ですわ」


令嬢は武術を好まないのですがアリス様の強い希望なのでお連れしました。もしもグランド伯爵家に嫁ぎたいなら必要なことかもしれません。

近くに行き、念のためリオの魔石で小さい結界を作ります。魔法無しの剣での手合わせをしていますが白熱して魔法を使ってしまう可能性もあるので。


ノア様の剣は初めて見ました。

エイベルよりもノア様のほうが小柄です。でも動きはエイベルのほうが早い為防戦一方です。それでもきちんと剣を受け止め、手が震える様子はありません。

剣の振り方に兄のサイラス様の影が見えますわ。

エイベルが物凄く楽しそうです。私と訓練するときのバカにしたような顔もせず、ずっと楽しそうなのが悔しいですが…。私のほうが付き合い長いのに!!

私の隣にいるアリス様は、ノア様に見惚れています。剣の合わさる音に飛び散る汗に砂埃が散る光景に怯えず真剣に見学できる度胸は凄いですわ。気が弱い令嬢なら気絶するでしょう。

でも私も少数派の令嬢です。武術をしている姿は格好良く素敵だと思います。ただ立っているエイベルは全く格好良くみえませんが、今のエイベルならファンがいるのも理解できますわ。私もいつか勝てるようになりたいですわ。

アリス様はノア様の存在がなければクロード殿下の婚約者候補に推薦したいですわ。武術を目を背けず見れる度胸があるならきっと毒耐性の課題もクリアできますわ。

そろそろ終わりますね。ノア様の集中力が明らかに落ちたので、エイベルが切り上げるでしょう。


「レティシア様、私は武術の心得はないですがどうすればノア様の役に立てますか」

「応援されるのは嬉しいものですよ。治癒魔法や補助魔法もいいですわ」

「武術の授業選択すればよかったですわ」

「お父様が許さないのでは?」

「お父様よりお母様とお姉様が問題ですわ」

「苦労しますね。終わりましたね。行きましょう」


汚れているエイベルとノア様を見てもアリス様が向ける視線は変わりません。

そのまま乗馬しようとするノア様を止めて一休みしてアリス様の乗馬練習を再開しました。

アリス様は筋が良く、日が落ちる前には駆けられるようになりました。

ノア様はアリス様と打ち解け、マートン侯爵令嬢からマートン嬢に昇格してますわ。ようやくマイナススタートからゼロに。スタート地点に立てましたわ。後は二人次第ですね。私がお膳立てするのはここまでですわ。


アリス様の乗馬もエイベルから合格は出たので、せっかくなのでアリス様をノア様に任せました。

私も少しは遊ばせてもらおうと思います。

用意してある馬を走らせ風を感じます。心地よい風に笑みを浮かべます。

訓練場は狭いので疾走させられませんが、せっかくなので馬に鞭を入れて風を感じます。訓練場の障害物を避けながら駆けるとブチっと嫌な音がしました。視線を向けると手綱に千切れています。制御できない馬に乗るのは危険です。馬から飛び降りて茂みの中に飛び込み受け身を取ります。

近くにいるでしょうエイベルに向かって叫びます。


「エイベル!!馬を静めて」

「風の精霊、シルフ、安らぎの風を捧げん」


聞こえたみたいみたいですわ。

馬が止まり足を折って眠りましたわ。さすがエイベルですわ。

エイベルが駆けてきます


「大丈夫か」

「はい。ありがとうございます。」

「怪我は?」

「擦り傷ですわ。魔法で治すまでもありません」

「油断してた。悪かった」


眉間に皺のあるエイベルはわかりにくいけど優しいです。責任感が強くて面倒見がいいところは昔から変わりません。自分を責めてるエイベルに微笑みかけます。


「私の確認不足ですわ。それにエイベルのおかげでこの程度ですみましたわ。馬が止まらなければ大惨事でしたわ」

「保健室連れてく。片付けてくるから待ってろ」

「一人でいけますわ」

「信用できない。休んでろ。グランド達は先に帰らせる」

「先輩の面目が保てないので内緒にしてくださいね」

「わかったよ。うまく言っておく。行ってくるからここで大人しくしてろ」

「ありがとうございます」


エイベルが私の頭をくしゃっと撫でて二人の所に行きました。

アリス様とノア様のお友達作戦はうまくいきましたわ。

その後は、エイベルと保健室に行き、擦り傷はありますがどこも異常はありませんでした。先生の話を聞いてようやくエイベルも安心したのかいつもの調子が戻りました。保健室で別れて更衣室で制服に着替え鏡を見て考えます。

足と首に擦り傷があります。足の傷は靴下で隠せますが首の傷が目立ちます。

シエルに傷が隠れるように結ってほしいと頼むと、緩い三つ編み首元を隠してくれました。

授業の始まる明後日には治っているといいのですが・・・。

周りに知られたら厄介なので、残りの休養日は自室で過ごしましょう。


今日は休養日なので学園内には人はあまりいません。

図書室に行き、自室に籠るための本を借りたので帰りましょう。いつもはシエルが持ってくれるのですが

厚い本をたくさん借りたので半分は自分で持ちます。シエルはどんな重い物もいつも軽々と持ちます。

私は自分の持っている本の重さにフラフラしそうになります。突然、重さがなくなりました。


「来てたんだな」


聞きなれた声に顔を上げるとリオが私の本を持っていました。


「借りこんだな。持つよ。帰るから寮まで送る」


すでに持ってますがとは突っ込んだりしません。頼もしく笑い、片手で軽々持つ従兄に甘えましょう。正直、軽々持てるのが羨ましいです。


「ありがとうございます。リオは仕事ですか?」

「まぁな」

「大変ですわね。お疲れ様です」

「ありがとう。今日は髪型違うんだな」

「気分転換です」

「似合ってるよ」


リオの手が伸び、結っているリボンに触れました。リボンから髪に動く指に嫌な予感がします。逃げないといけません。


「シア、これどうした?」


リオの手が髪を持ち上げ露わになった首の傷をみています。まずいですわ。ごまかすためにニッコリと笑顔をつくります。


「訓練中にうっかり」

「昨日の帰りは傷はなかったよな」

「うっかり転んでしまいましたわ」


リオの目が冷たくなり涼し気な笑みを浮かべてます。これはやばいやつですわ。


「ビアードに?」


あえて名前は出さなかったのに・・。でも調べればわかることなのでごまかしは効きませんわ。


「リオ、忙しそうだったので。今期武術の成績壊滅的なんです。留年するわけにはいきません。私の油断なので、エイベルを怒ったら許しませんわよ。私が無理矢理お願いしましたの」

「ビアードは敵なのに?」


首にそっとあてられているリオの手をとり、両手で握って見つめます。

ケイト直伝であまり効果はありませんが他に方法はわかりません。


「訓練をお願いする時にリオに手出しさせないと約束しました。お説教は私だけにしてくださいませ」

「他にけがは?」

「足の擦り傷だけです。保健室で見てもらいました。魔法を使うほどではない傷です」

「次からは気を付けて。シアの訓練は俺が見るから声掛けて。忙しそうに見せてるだけでそんなに忙しくないから」

「この件でエイベルに意地悪しませんか?」

「しないよ。約束する」

「その企んでる怖い目やめてください」

「もともとだ」

「エイベルに手を出したら許しませんわ」

「信用ないな」


アナの真似をしてニッコリと微笑みます。


「お願いだからやめて。ね?」

「あざとい」

「エイベルとの時間があるなら私の訓練付き合ってくださいな。たまには構ってください。リオ兄様」


リオが固まりました。アナお手本のニッコリ笑顔はまだうまくできませんか。

アナのあの笑顔をむけられるとお願い聞きたくなってしまいます。

固まるほどひどいですの?さすがに傷つきますわ。でもここで睨むわけにはいきません。

リオに本を返され受け取ると膝の裏に手が回し浮遊感がして抱き上げられました。


「歩けます。おろしてください」

「約束守るから、静かに運ばれてて」


休養日でも人はいます。

視線に慣れたつもりですが、これは許容範囲外です。

いつの間にかリオの機嫌も直ったようなので大人しく運ばれましょう。

リオの胸に顔をあててれば誰かわかりませんものね。

この様子ならエイベルはきっと大丈夫ですわ。

とりあえずお説教がなかったことにほっとしましたわ。

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